灰色の僕と多分桜色のきみ

西野結衣

第1話 灰色の虚構

 僕が主人公の小説ならば冬の場面からのスタートが最も良いと思う。

灰色の虚構、僕の紹介をするならばそんな一言が最も合うだろう。


*


 小学生のころ僕は小説を書いていた。今からするとそんなに大した内容ではない。

僕はなんとなく家族にこっそり小説大賞に応募してみたら見事に最優秀賞をとってしまった。そして数多くの雑誌やテレビで取り上げられ、某有名ラジオ番組でも僕の番組の枠ができてしまった。それが虚構のはじまり。大人たちがこぞって僕が書く小説を楽しみにし、そしてラジオの番組もその局でかつて、有名な歌手が出した視聴率に次いで2位となっていた。

 僕の活動は多岐にわたっていた。その活躍を祖父はあまり良く思っていなかったらしい。だから僕は家ではなく、コワーキングスペースやマクドナルド、コンビニのカフェスペースで出版社の人に誕生日プレゼントでもらったパソコンで小説を書いていた。祖父は作家だ。簡単に成功されるのがたまらなかったのだろう。

 そんなある日、僕はそこまでして小説を書かなくてはならないのだろうかと思い始めていた。すでにその時、僕は三冊小説を書いて出版していて、四冊目を期待されていた。

 僕が当時、書いていたのは純文学。少々小難しい内容だった。本を買ってと頼めば

買ってくれる家だった。僕の家の本棚には少々難しい小説から百科事典や広辞苑などが並んでいた。

 小説を書き始めて中学生になったある日、活動休止宣言をさせてもらった。事務所に所属していたのだが、その事務所の人はしぶしぶといった感じだった。そして、高校に入ってから事務所から高校入学を機に

「もう一回一から始めてみない?」

と事務所の人に言われて活動を再開した。

 

 それを機に僕は小説をまた書き始めた。高校の部活は文学部にした。僕の周辺は小説一色になった。もともと大好きだった小説は高校から再開して再開後第一冊目は早速メディアに取り上げられた。メディアに取り上げられることからしばらく避けていた僕は少し辛かった。苦しかった。

 デビュー後は大衆文学を中心に書いていた。そして、僕の作品が映画化されることにもなった。


 高校の文学部ではそれなりに活躍していて、京都府高校生文学大賞で最優秀賞をとって他の学校からはずるいなどと言われたが僕はまったく気にしなかった。


 ラジオも復活した。その年、新しい番組も決まった。テレビの全国放送のバラエティ番組だ。クイズに答えることで勝負をするという単純明快なものだ。


 僕は活躍していくにつれて、小説を書けなくなっていった。そしてまた、事務所の人に嫌な顔をされながら作家活動とラジオ以外はすべての活動を休止すると発表した。


*


 もちろんずっと学校には通っていた。学校ではそこまでたくさん友達がいたわけではない。僕はふとしたきっかけで仲良くなった白石とよく小説について語り合っていた。白石は文学部に入っている。


 僕が文学部に入ってから僕の高校の文学部の人数は1.5倍になったそうだ。まぁ、もともとが少ないというのもあり、また小説を書くということの難しさを知ってか、夏には全然人数が減っていた。


 そんなある日の朝の事だことだ。僕の名前が教室の真ん中の方で話題に上がっていた。何人かが喋っていたため僕がそこに訊きに行くとみんなが僕に頑張れよとだけ言って散っていった。何を?と思った。


 何を頑張ればよいのかはすぐにわかった。どうやら僕はクラスで一番かわいいと言われている、桜木に告白しようとしているということらしい。嘘のラブレターがそこには落ちていた。無論、僕の字ではない。いったい誰がそんなことをしたのだろう。


 そこには今日の放課後、学食横の自販機のそばにしていたそうだ。センスが悪い。

もし僕だったら、外のもっと良いカフェを知っている。馬鹿にされているのかと思った。まぁ、桜木には事情を話してなかったことにしてもらおうと思い放課後、そこに行こうと思った。


*


 放課後、僕はそこへ向かった。すると、桜木が言った。

「お、来たじゃん。やっぱり来ると思っていたよ。」

状況よくわかっていない。

「ん?僕が出したことにされてたんじゃなかったけ。」

「あぁ、そのこと?それなら私が出したんだよ。」

「は?」

「だから、私が出したんだよ。」

「性格悪いなぁ。昼間、僕がうわさされてたじゃないか。」

「でも悪い気はしなかったでしょ。」

「悪い気にしかならなかったなぁ。僕のイメージがどうなったと思う?」

「私のおかげでよくなったと思う。」

「なってないよ。」


 事実、彼女のことを好きな人はたくさんいる。だからその人たちのことを敵に回したことになる。

 

「まぁ、私がせっかく君みたいな背が低い小説家と付き合ってあげるんだから

 それなりに配慮はしてね。」

「自意識過剰だろ。あと”背が低い”は余計な一言。」

「まぁまぁ。あ、そういえばせっかく付き合ってあげるんだからちょっと預かっとい

 てほしいものがあるんだ。」

「へぇ、人って付き合うとロッカーになるんだね。」

 彼女がギターを弾くふりをしたのを僕は見なかったことにして、あるものを受け取った。

「これは何?」

「鰹節の削る前の物とでも思った?」

「いや、純粋に何だろうと思っただけ。」

「あっ、その布、絶対に取らないでね。巻いてる紐も外さないでね。」

「うん。別にいいんだけど。これはぁ・・・」

「あっ、そういえばまだline交換してなかったね。はい、これがわたしのID。」

QRコードを渡してきた。それを僕は受け取った。


*


 僕は受け取ったQRを読み込んで早速登録した。

そして受け取った鰹節のようなものの布を外し中を見ようとした。すると布の中には

さらに紙で包まれた鰹節のようなものが入っていた。

その紙には彼女からのメッセージがあった。

「開けるなって言ったのに。

 君を信じた私がばかだったのかもしれない。

 これ以上開けたらあなたが終わります。」

あなたが終わります、そう書かれた紙は一部が赤く汚れていた。

一体、これは何なのだろう。

終わる、そう書かれた紙にある赤い汚れは少し生臭かった。

そこで僕は包み紙をそっと開けることにした。そっと開ければわからない。


開けるな、終わる、そんな言葉の意味がようやく分かった。

包み紙の中にはビニル袋に入れられた果物ナイフ、それはおそらく血で汚れていた。


一気に混乱した。開けてしまったことを素直に彼女に伝え、自首させるべきか、

そうしたら今度は僕が同じようにされるかもしれない。


どうすればよいか、家族に相談もできない。


僕はとりあえずそっと僕の部屋に置いている金庫にしまった。


 なぜ僕の部屋に金庫があるかというと、印税収入で今度新しいパソコンを買おうと思っていたからだ。小説を書くだけだからそんなに高性能でなくてもいいかと思っていたけど、まぁちょっといいやつ買おうと思っていたからだ。

 ちょっといいものを買おうということはよくある。この間は高校生のくせに偉そうに電動自転車を購入した。


そんなことどうでもいい。さて、これからどうするか。


彼女に直接lineで聞いてみようと思った。


「今日渡してくれた鰹節みたいなのって何?」

「あぁ、包丁だよん【笑顔の絵文字】」

は?意味が分からない。言っていいの?

続けざまに

「もう見たでしょ。これで私もあなたも共犯だよん【ピースサインの絵文字】」

よくわからなかったので僕はとりあえず白い熊のスタンプを送った。

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