ラブラブ・コロン

水木レナ

第1話 ロンロンとコロン

 そのひは、あさからそらに、おもたいくもが、たれこめていました。


「ごめんね……ごめんなさい、ロンロン。おとうさんが、もうおまえをおいておいちゃだめだって……うえっく、びょうきなのに……ごめんねえ」

「こらっ! 星花せいか、なにしてる!! だれかにみられたらどうするんだ。さっさときなさい!!!」

「ロンロン――うわぁあーん」



 ロンロンは、はっさいの、としよりのいぬです。なつのカがはこんでくる、フィラリアというびょうきにかかって、しんぞうをいためてしまったのです。


 ロンロンは、だれのこえにも、もはやはんのうしません。


 ただ、めんどうをみてくれていた星花ちゃんのにおいが、とおざかるのをかんじとって、ハナをならすだけでした。


「これいじょう、いえにおいておいたら、かねがかかってしょうがない。もうあきらめろ!」


 ロンロンは、あきちにすてられて、もう、みうごきもしません。


 とおりすがったおやこたちが、こえをあげます。


「なんだあ? きったないいぬ! おかあさん、どうしてあんなのが、ここにいるの?」

「いやあねえ。ほけんじょに、れんらくするべきかしら」

 

 どんどん、ひとがあつまってきます。


「なあに? おくさん。すていぬ? だれがこんなひどいことを」


 いつのまにか、ひとだかりができていました。


「どうやら、びょうきみたいなのよ」

「なんて、むせきんなことを、するのでしょう」

「このへんで、ちいさいおんなのこの、なきごえが、きこえたそうよ」

「まあ」

 

 そのとき、そらのくものはざまから、さっとひかりがさして、しろいたまのようなものがふってきました。


 それは、じめんにつきささるように、めりこむと、ぱかん、とわれました。


 そして、なかから、しゅわしゅわと、えたいのしれないくうきが、もれでてきます。


「ま、まあ。それじゃあ、わたしはここで」

「あら、わたしも」

「そろそろ、おかいものにいかなきゃあ。ゆうだちがきてしまうわ」


 みんな、いなくなってしまいました。


 あたりは、しろいけむりのようなもので、おおわれていました。


 ロンロンは、たいへんそうにおきあがり、われたたまのにおいをかぐと、そのうえにおおいかぶさりました。


 そしてあめが――ふってきたのです。


「ロンロン、だいじょうぶ?」


 星花ちゃんが、もどってきて、いいました。


 もちろん、だいじょうぶなはずが、ありません。


 けれども、おとうさんのしうちがおそろしいので、星花ちゃんはロンロンにカサをさしかけていってしまいました。


 それは、みずいろの、こどもようのカサです。


『ロンロン』


 どこからか、こえがします。


「……なんだね、おじょうちゃん。ケンケンッ」


 ロンロンは、せきこみながら、おなかのしたへ、はなしかけました。


 そこには、まっしろなふわんふわんのシッポをもった、かわいらしいおんなのこのすがたをした、ちいさなおにんぎょうのような、ようせいがいました。


 あの、しろいたまのようなものから、でてきたようですよ。


『コロンはあいのようせいでしゅ。はくりゅうのさとからきましゅた。ロンロンの愛、うけとったでしゅ。だから、ロンロンがしあわせになるための、ねがいをひとつ、かなえてあげるでしゅ』

「ほう。どうして、みずしらずのおまえさまが、ワシのねがいを、かなえてくれるというのか」

『コロンは、うまれるときに、愛がひつようだったにもかかわらず、それをあたえてくれるものがなかったのでしゅ。あやうくちぬところだったでしゅ。でも、ロンロンのあったかなぬくもりが、ちからをわけあたえてくれたでしゅ。さあ、おれいをうけとるでしゅ』


 ロンロンは、かたほうのみみを、もちあげましたが、ぜんぜんきたいしないこえでいいました。


「星花ちゃんに、あいたいのう」

『それはムリでしゅ。星花ちゃんには、愛のささえがたりてないのでしゅ。こころがちぢみあがって、こごえそうなのでしゅ。コロンとおんなじだから、わかるでしゅ』

「おかねがほしいのう。星花ちゃんの、おうちがうるおうほどの」

『それはだめでしゅ。ロンロンは、じぶんのねがいをかなえるのでしゅ』

「おかねがあったら、すくなくとも、びょういんというところへいって、びょうきを、なおしてもらえるんだが」

『あい――わっかりまちた! コロンは、ロンロンのびょうきをなおしてあげるでしゅ』


 コロンはぽうん! と星花ちゃんにへんしんして、ロンロンを、びょういんにつれていってあげました。


「このオクスリを、しょくじのまえに、のませるんだよ。おかねはあとでいいからね」


 どうぶつびょういんのおいしゃさんは、しろいオクスリをコロンにわたすと、えがおでいいました。


「あい! わっかりまちた!!」

「おや、星花ちゃん、したったらずは、そつぎょうしたんじゃなかったのかい」


 おいしゃさんは、ふしぎそう。


 コロンは、ロンロンをだっこして、かけさりました。


 あんまりながいをしては、しょうたいがばれてしまうからです。


「ありがとう、コロン……」

『ちんじゃあ、だめでしゅよ。ロンロン、ちっかり』


 おやまあ、コロン。


 へんしんが、とけていきます。


 もとのあきちについたときには、コロンは、ろうけんのしたじきになっておりました。



 それからいっかげつご。


 ロンロンは、オクスリで、フィラリアをぜんぶ、からだからだして、なおりました。


『これで、もうだいじょうぶでしゅ』


 あたりには、ドッグフードのふくろやかんづめが。


 きんじょのこどもたちが、みかねて、てにてに、もってきてくれたものでした。


 ロンロンはびょうきがなおるまで、それでくいつなぎました。


 もうじゅうぶんです。


『にんげんは、よわいけれど、ちゃんと愛をもってるでしゅ。すごいでしゅ』


 けれど、星花ちゃんはあれからすぐに、ひっこしてしまったのでした。


『ロンロン……コロンといっしょに、はくりゅうのさとへ、くるでしゅか?』

「そこって、とおいのか?」

『うん。けど、いいところでしゅ』

「おまえさまが、うまれてくるのに、くるしんだのにか?」


 ロンロンはくしゅん、とくしゃみをしていいました。


 コロンは、いっしゅんだけ、かなしそうなかおをしましたが、あらためて、わけをはなしました。


『それはいまもって、もんだいなのでしゅ。だから、コロンはおとなになるために、愛をみつけにいかなくてはならないんでしゅ』


 あめのやんだそらを、みあげながら、星花ちゃんのカサを、そのしろいシッポでくるんとまわして、コロンがいいました。


『このカサいーっぱいになるほどの、愛をあつめたら、きっとせかいじゅうのねがいをかなえられるでしゅ』

「ああ、それもいいねえ、コロン」


 げんきをとりもどした、ロンロンは、よろこんで、おともをすることになったのです。

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