俺のスキルは【中二病(w)】 なぜかスキルに草が生えてるんですが? 

空知音

プロローグ

 ひさびさの新作です。

 読んだ方が元気になるようなお話になるといいなあ。


――――――――――――――――――――



『中二病』

 

 そう呼ばれる病がある。

 中学生になった少年少女が、ある日突然闇の力や聖なる力に目覚めるという例のyaヤツだ。

 彼女、彼らは力を得るため邪神や精霊に祈りを捧げ、ひねった言葉から紡がれる呪文で【力】の行使を試みる。

 ただ、私の知るかぎり、過去にその【力】が顕現した記録はない。

 では、彼らが祈りや呪文に込めた、その強い想いはどこへ行くのだろう。

 この物語は、その疑問に対する一つの答えになるかもしれない。


 ◇


 夏の暑い日だった。

 高校一年の俺、黒田グレンは一世一代の賭けに出た。

 うるさいくらい蝉の声に包まれた公園で、ずっと想いを寄せていた幼馴染に告白したのだ。


「ずっと好きでしたっ! 友達からでもいいから、つきあってくらしゃい!」


 噛んだことに気が回らないほど緊張した俺は、汗ばんだ手をジャージのズボンで拭くと、握手を求めて前へその手を伸ばし頭を下げた。

 頭の上から聞こえてきた彼女の声は、わずかな希望を打ち砕くものだった。


「えっ!? 無理!」


 膝の力が抜け、足がもつれる。


 ガチャン


 その拍子になにかに足をぶつけた俺は、勢いよく後ろへすっ転んだ。

 誰だ、こんなところに物を置いたやつは!

 体をひねりかけた俺の視界に飛びこんできたのは、植えこみと小道を隔てる縁石だった。


 ゴシャッ!


(痛てー!!)


 縁石の角に額から突っこんだ俺は、強烈な痛みと遠ざかる意識の中、彼女の顔が心配そうに自分を見おろしている幻を見た。

 こんな幻が見られるなら、告白したのも無駄じゃないかも……。

 近所の子供が放置したのだろう、陰りゆく視界には古びた三輪車が映っていた。


(畜生! こんなことになったのは、アレのせいか……)


 頭に浮かんだ最後の思いはそれだった。


 ◇


 小さな頃から好きだった黒田君に呼びだされた時、私は複雑な気持ちだった。

 小学生の時、クラスの女子全員が憧れていた黒田君。もちろん、私も彼の事が好きだった。

 けれど、中学生になった頃、彼の人気は急落した。

 少しぽっちゃり体型になった彼が、黒縁の眼鏡を掛け、アニメ雑誌やラノベを読むようになったことが原因かもしれない。


「俺の右手に宿る炎が……」

「黒きドラゴンの血が……」


 そんなことをつぶやく彼は、クラス全員から中二病判定を受け、距離を置かれるようになった。

 小学生の時、彼の事が好きだった友人たちも、みんな爽やか系男子へ鞍替えした。

 その中で、まだ私だけが彼への思いを捨てきれずにいた。


 そんな時、彼に呼びだされ、突然の告白……。

 正直、戸惑った。

 告白の舞台は、真昼間の児童公園。

 ムードなんて欠片かけらもない。 

 しかも、頭を下げ、手を突きだした彼の後ろには、長いこと放置されているだろう、さびた三輪車が……。

 とことん場違いな告白に、しばし呆然とした後、目の前にある彼の頭、その寝癖で跳ねた髪を見て、私の口からは自分で思いもしない言葉が飛びだした。


「えっ!? 無理!」


 慌てて言いなおそうとしたけれど、彼はヨロヨロと後ずさり、なぜかジャージを履いた両足を勢いよく跳ねあげ、転んでしまった。


 ゴシャッ!


 置いたあった三輪車に足をとられ、縁石に頭をぶつけた彼は、マンガのように頭からぴゅーっと血を噴きだしている。


「グレン君! グレン君! 大丈夫!? しっかりして!」


 私が呼びかけると、彼は閉じかけた瞼の下から、こちらを見て笑った。

 それは、幼い頃私が彼のことを好きになった、あの笑顔だった。

 

「誰かっ! 誰か来てーっ!」


 私の叫び声で近所の人が駆けつけた時には、すでに彼の心臓は動いていなかった。

 それから数時間、自分が何をしていたか、今では思いだすこともできない。

 ただ、彼のお葬式で、まだ小学生だった頃の素敵な彼が笑っている写真を見て、私は深く祈っていた。

 天国では、好きな事をしても誰も彼のことを軽蔑などしないように。

  

 ◇


 その日、星など見えないはずの大都会の夜空に、鮮やかな虹色の尾を引く流れ星が見られた。

 ただ、それがニュースになることはなかった。

 なぜなら、それを目にすることができたのは、『中二病』にかかった者たちだけだったからだ。

 彼らから不思議な流星の話を聞いた友人や家族は、またいつもの悪い癖が出た、そう思うだけだった。


 しかし、それでも、確かに虹色の星は流れたのだ。


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