番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#16

 私はその瞬間を、時が止まったかのようにはっきりと思い出せる。金色の撃鉄がマッチを擦るより早く鳴らされる。アングストの臓物が、内側から背中に引きずり出され、こぼしたミルクのごとく血が跳ねる。それらが妙に美しく感じられ、官能的にさえ感じられた。どこん、どこんと空いていく穴に、私はすっかり夢中になっていた。



 彼女の銃口が次のターゲットに向かう。


 私はそれを目で追う。


 バカ面さらしたウシヅラが三匹。はしゃぎたてていた顔面の余韻が、皮をたるませている。



 片腕で狙っているはずなのに、彼女の銃弾はしっかりと彼らの腹を捉えた。後からわかったことだが、彼女はわざと頭を狙わなかった。苦痛を与えるためだそうだ。


 撃たれながらも彼らは反撃した。持っていた銃を構え、引き金を引く。だけど残念なことに、彼らのうち二人は、装弾するのを忘れていた。一人だけ、抜け目ない奴が撃ち返した。それは中折式のショットガンだった。私達をずたずたに引き裂くかと思いきや、私の前に飛びでた彼女の義手が、丸い弾を弾く。



 その下から、彼女の銃が最後の弾を発砲する。散弾銃のミノタウロスは、眉間をスイカのように割って、机を割りながら倒れ伏した。



 だけど快進撃はここで終わりだった。彼女の左腕ではもう片方の銃をすかさず抜くことはできない。



 アングストはまだ生きている。


 彼がその巨体で突撃してきたのだ。彼女の腕をもってしても……いや分厚い左腕は確かに角の一撃を防いだ。だがその体重までは殺しきれない。机を挟んだ私のすぐ向こう側で、壁に叩きつけられる。そしてそのまま、力の抜けた人形のようにずるりと腰を落とした。

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