番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#14

「あらあら、闘牛だってそんなに猪突猛進にならなくてよ。意外と曲がるんですの、あの子達」


 腰を浮かせて椅子に深く座り直すと、ケタケタ笑いだした。



「そんなに怒らないでくださいな。ねえ、わたくし常々……不思議だと思っているんですけれど、そんなに素直に衝動を発散しなさって、後悔しませんの?」


「なに?」


 化け物は首をかしげる。



「だってその野蛮な筋肉と銃で、エルフにひどいことをとーっても、たくさん。なさってきたんでしょう? 服を剥いで、乱暴して、火をかける。私達の家も森も焼いてきたんでしょう?」


 彼らはぐっと息を呑む。それにしても驚いた。彼らはこういった蛮行を好むのかと思いきや、言われて押し黙る程度の良心はあるのだ。むしろ感心した。



「でもあなた達がそうしたいのも、わかる気がしますの。きっと私のような女がいるからなのでしょう? だって私はいつだってそうされるように、振る舞っていますもの」



 彼女は音もなく、しっとりと立ちあがる。赤いダスターコートを脱ぎ捨て、汗だらけのシャツをあらわにする。でも彼らの視線はそこには向かなかった。そんなものより、ゴーレムの左腕と、火傷のある右腕に視線が集中する。そこで私は初めて気づいた。彼女の焼けただれた右腕に、ハサミやメスの形の凹みがあることに。事実、メスはそこに収納されていた。



 恐る恐る机の上のハサミをみると、その尖った先端といい、丸くて細い持ち手が合致する。この人はここからハサミをだしたのだ。


 どんな悪行がこの人を狂わせた?


 どれほどの悪意が人をこんな風にする?

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