番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#10

「水割りで?」


「ストレートで一本いただきますわ」


 ふんわりとした笑顔でそう注文すると、店主は驚き、嬉しそうな顔でカウンターに歩いていった。私はどきどきしながらそれを見ていた。私はミノタウロスが怖いのだ。黒目はぬいぐるみのようだし、かと思えばぎょろりと動くし、それにあの角で突かれたらと想像すると、心臓がばくばくする。


 そうして脂汗をかきながら視線をそらしていると、すっと伸びてきた白い指が私の顎をつまんだ。


「おかわいそうに。まだ怯えていらっしゃるのね……。そうですわ、ちょっと持っていてくださらない?」


 どこから取り出したのか、いつの間にか細身のハサミを右手に持ったその人は、コップの底に敷いてあるコースターを私に差し出した。そうしてそのまま動かず、持っていてくれという。言われた通りにすると、彼女は先の尖ったハサミで、ちょきちょきと切れ込みを入れていく。


「私の左手、繊細な作業は苦手ですの。私が言うとおりに動かしてくださる? あなたから見てそのまま右に90度曲げていただけますかしら」


 疑問に思いつつもそうすると、彼女はまた切れ込みを入れていく。それから数十秒の間に無数の切れ込みを入れた彼女は、私の手からひょいとそれを持っていくと、右手だけで綺麗に半分に折りたたんだ。それから端を口に咥えて、器用に小さく折りたたんでいく。


 私は興味津々でそれを見守っていたが、どかどかと幾つもの荒々しい蹄の音が外から響いてきた。それは立ち去ることなく、この店のドアを乱暴に開けた。あまりにも乱暴なものだから、からんころんと音を立てるはずの鐘が壁に叩きつけられて、カーンと甲高い音を鳴らすくらいだ。


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