第9話 悪の権化

伝説との派手なバトルは、幾つも重なる難所をもって一段落した。

まぁ途中から、化けもん戦争みたいになってやがったが、終わりは終わりだ


「ご苦労さん、ムーロンとかいったか。降りていいぜ、背中からな。」


「……」

そういや部屋が元に戻ってるな、殺風景過ぎて解らなかった。


「にしてもなんか肩が凝りやがる…あ、そうか。おい、もういいぞ?」


〈その反応、忘れていたな、主〉


「普通覚えてねぇだろ。」


〈……そんな訳が、あるか‥。〉


死神、光の使者も元の姿を戻し顔を見せる。


「どうする、この方?」


「……放っておけ‥。」


「まぁ、倒した後じゃあな。

寝かせて休ませるべぎだろ、ジジイだし」

そういう問題か、そういう問題なのだろう。勝者の特権だ。


「しっかしこの後どうすんだ?

‥聞いてみるか。」


「ロード、教えてくれ。」


『……』「ん、どうした。ロード?」

返事が無ぇな、寝てんのか。


「んな訳あるか!」


「突然どうした主?」「……ふん‥」


「無視ってお前、どういうこった。」


『……』


「おい、おい。おぉ〜い!」


『…苦労様でした…。』


「何?」


『御苦労様でした、パワー・スター様。お陰で良い情報が得られました』


「あん‥?お前何言って…。」

言葉を認識する事無くロウディは腕から外れ自立する。他のウォッチも同様腕から離れ、ロウディの元へ集まり一つのモノに固まっていく。


「テンダネス、君もか」


「それだけでは無い、ここにはない脱落者の物、全てのアシストウォッチが中心へ‥。」


『ムーロン様、さようなら』


「……。」

アシストウォッチ達は形を創り、一つの生命体のフォルムで地に二本を足を付けて立ち、此方を睨みつける。


「なんだぁ?

また化けもんか、勘弁しろっての。」

画面に映し出されていた長髪の顔、逆立ち先が上に向いた両腕の爪。戦闘態勢だと言える攻撃的な姿をしていた。


『貴方達の情報は全て把握済みです』


「ロード、俺と戦おうってのか?」


『ロード‥。

貴方のアシストウォッチの名ですか?

…正確には異なりますが、最早訂正する必要もありません』


『私の名前はAssistER/アシスター

皆様を糧とした者です』


「名前まで変わったのかよ、お前‥」


『攻め入ります』


〈ボルテック・シグナル〉


指の爪先から迸る電撃。各々反射的に避ける事には成功した。


「……この技‥!」

見覚えがあった。

確実にエレメンターズ、ヒューズの其れと同じ


『足元にお気をつけ下さい』


〈フレイム・シャワー〉


床が盛り上がり、噴火の如く炎を昇げる。


「これは‥炎の使者、彼のものだな」


「跳べ、できるだけ山から離れろ!」


〈マリンラグナロク〉


「おい、嘘だろ…?」

炎を避けろと飛んだ上から大津波。八方塞がりの自然に拘束される。


「挟み撃ちかよ!?」


《逃げ場は御座いません』


「……世話の焼ける‥。」


〈ライト・ワープ〉


白い光が個々を囲み身体を動かす。エレメンターズの移動に使っていたのもこの技だ。


「……応急処置程度だがな‥。」

自然の力がなんとか及ばないであろう場所へ一同を集め避難させる。


「こんな事できるのかよ」


「……一度見た筈だが‥?」


「‥この距離があれば大丈夫か。」


「何しでかすつもりだお前」


「決まっているだろ主、僕は奇術師だよ?」

袖から取り出したのは隠しやすい、使いやすいでお馴染みのナイフ君だ。


「ムーロン君、協力し給え。

空中ワイヤーナイフショーだ!」


「……」


「羽!?

そんなもん俺のときあったか?」


「僕仕様だよ、主♪」

翼を広げ空を疾る。持てる限りのワイヤーナイフを握り、かつての相棒に投げ突き立てる。


「テンダネス、聞こえるだろうか?

僕は今光の元でショーをしているぞ」


『ジジ…シャドウ様‥』

貴方は、お逢いした刻から仰っていましたね。

バトルの受付、手続きを担当した者がアシストを任される。


シャドウとテンダネスの出会いは、バトルの開始前までに遡る。


『ファントム・シャドウ様

参加理由は、陽の目を見る事』


「あぁ、そうだ

日陰には飽き飽きしているものでな」

飄々とし、何処か影を持ち、本性を隠しているように見えました。‥勿論、分析によるものですが。


「君がこれから僕の相棒になるのか」


『‥何故、それをご存知で?』


「人と争う施設で個人情報を聞き取る、それはこれから必要になるから」


『はい』


「だが僕は君と闘う訳じゃないとなると、恐らくだが味方として必要な情報として活用する、違うだろうか?」


『その通りです』


「やはりな」

人間味を見せない割に頭が働く、それは感情を隠して人を良く見ている証拠

言葉で表せば「食えない人」でしょうか。

しかし貴方は一つだけ、揚々と愉しそうに話す事柄があった。


「しかし参加理由は自己入力か、意思を尊重するって事だろうな…」


「あっ!

でももう一つ考えていることがある。

バトルの途中でもいい…明るい場所で、陽の元でショーを開く事だ。」


『そうですか』


「‥まぁこれは参加理由というより願望に近いのだがな。もしチャンスが巡り出来る事があれば、協力してくれるかな?」


『私に出来る事であれば』


「そうか!

それから宜しく頼むよ、電子のお姉さん。」


『今こそ陽の目を見ましょう!』

殺風景な白い部屋は、以前パワースターと争ったフィールドに似た景色へと変化した。


「おや、あれは太陽か?

ナイス演出だ、電子のお姉さん♪」


『有り難いお言葉…ジジ‥余計な事を…あ‥待って…』

最後まで、見届けないと‥。


「先ずは足元を貫こう」

アシストウォッチの集合体、主軸が誰かは定かでは無いが、常に本体の人格モードを固定する事は不可能。瞬間に適した者にすげ変わる。


「ナイフ君、左足に恋をする」


『左足外傷有り

破損無し、一時的ダウン』


「惜しいな、愛の告白も返答はお預けか…」


無観客公演、念願の陽の下での初の旗揚げにも関わらずギャラリーがいない。故に観客となるべく処を演者にしてのラブストーリーに仕上げた彼の力作だ。


「ならばもっと大胆にアタックするべきだろうか!」


第二章 ナイフ君、愛の抱擁


「君ならできる思い切って張り切って!愛を形にするのだ!」

真っ直ぐ伸ばした二本のナイフのワイヤーを、回り込み両腕首に巻き付く様に絡ませる。足を狙ったナイフと追加した複数のナイフを刃先が天に向くように刺し、後は腕に絡む二本のワイヤーを勢いを乗せて、引く。


「おや、これは意外だ。

‥まさか彼女の方から攻めてくるとは、お互いは既に惹かれ合っていた様だ」

正面に倒れる意中の相手床には無数の愛の形が。果たして彼の思いは届くのだろうか?


『否定』


ナイフは軀をすり抜け再度天を眺める

「感情を抑えてすんでの処で止まったか、純な愛情だ。」


『ピピ…弱点を捕捉、繊細な仕掛けは単純な力と相性が悪い』


第三章 告白の答

「最早思いを抑え切れなくなってしまった二人、ここで遂に彼の告白の答えを口にする」

物語も佳境に入るか‥


『アシスター、パワーモードに移行』

細く、機械的だった腕は巻き付くワイヤーを引き裂き分厚く太い腕と化した。


「答えを云おうと呼び出したのは、誰も居ない昼下がりの公園!」

シャドウとの間に張り巡らされたワイヤーの壁が現れ距離感を遮断されてしまう。重要なシーンにエキストラは要らないのだ。


「さぁ聞かせてくれ、君の答えを。

台本は無い、ここはアドリブだ。それによって結末は変わる」


「YESならば、抱擁以上の愛を形に

NOであれば…」


〈フィスト・ハンマー〉


「おいおい、アドリブとは云ったが第四の壁を超えろとまでは…」

返答の拳は脚本と観客の境界の壁を破り、砕き壊した。


「…まぁ、これはこれで斬新かもな」

突き出る拳は演出家をも殴り崩す。


「……」


「おっと、介錯は要らないよ

君はそこに居給え、僕はコンクリートと少し添い、眠る事にする」


『ファントム・シャドウ撃破』

情報の賜物。予測し行動した訳では無く、既存のデータに基づいて核心を突いた。空想の成就では無く正論の実現をした迄なのだ。


『生体反応辛うじて有り

‥念の為止めを刺しておきましょう』


〈ライトニングエクスキューション〉


感情を持たない裁きのいかずち

が死に際の奇術師に落とされる。


「……」

介錯は要らない。

事前にいわれたが突発的な自然現象ならば話は別だ。雷を止めようと思ったら偶々近くに死神が居ただけの事。


『稲妻が落ちずに止まった…ムーロンの否定の力、「抑制」の効力』


「……」

無言の反抗、無用の攻防。


『弱点を捕捉…一度に複数のモノを拒否する事が出来ない』

ムーロンはあらゆる物を拒否し、抗う。しかしそれは瞬間に一つのみ。同時に一種類以上の攻撃を妨げる事は出来ない。


「……」

何を仕掛けてくるか未だ解らないが取り敢えず、止まった電撃を「奪取」し自分自身に格納する。


『貴方はもう、私を拒否できません』


〈フリーズ・ブレス〉


冷気を帯びた氷の息を前方へ吐く。


「……」

すかさずムーロンは「否定」で己を息吹きの的から外し凍結を逃れた。


『ならば原液で参りましょう』


〈マーキュリー・エナジー〉


水流をあやつる惑星の力を検出し、行使する。アシスター本来の力はデータを検索し出力する事、それは技にまで及ぶ。そしてそれはムーロンと違い、同時に複数を可能とする。


〈マリンラグナロク〉


水流と津波の水責め。

「……」


直ぐに取り込んだ電撃を放つ、運良く相性が味方をし、一撃で封殺することができた。


『これで貴方の持ち駒は減りました』


「……」


見覚えのある背後へ廻る瞬間的ワープ


〈ライト・ワープ〉


情報は常に最先端を行く、故に学習も早い。


「……」


『この距離の拒否は不可能です』

念には念を押し、抵抗できない完全な対処法でムーロンを追い込み攻める。


〈赤蝦蟇〉 〈青蝦蟇〉

〈鈍蝦蟇〉 〈黄蝦蟇〉


『コレを超えても式神が御座います』


「……」

万事休す。

正に為す術無しといった処。


『さようなら……申し訳ありません。

‥‥ムーロン様…』


「……」

言葉無く、彼の真意は最後まで解らなかった。相棒ですら、完全に判りはしないだろう。分析は不可能だ。


『ムーロン撃破、次に移行します』

残るは二人、元来チームワークなど皆無の集団だが、中でも考えられない者共がビルの影に息を潜めていた。


「様子はどうだ?」


「……さぁな、帰ってこないところを見ると、そういう事だろうな‥。」


「なんだか、状況がわからねぇってのも不便なもんだな。」

なんやかんやで頼ってたのか、お前によ。


「…奴は、情報の検出と称してヒーロー達の力を使う。恐らくそれは我々のモノも含む‥」


「そうかよ。」


「……他人事か‥?」


「どうしろってんだよ、俺に。」


「……情け無い奴だ。

此処に居ろ、一人でいく‥。」


「…そうかよ。」

腑に落ちない事があった。

アシストに裏切られた、そんな事はどうでも良かった。彼は奴ら、アシスターと名を変えたかつての相棒と戦う理由がまるで無かったのだ。他の者達とも大きな理由を持って戦っていた訳では無かったかもしれない。だがしかし、その記録を行使され、糧とされる事にも深い意味を見出す事は出来なかった。


「……パワー・スターとやら。」


「なんだよ?」


「…考えるな、此処に来た時点で我々は意味を無くしているのだからな‥」


「‥うるせぇよ、早く行け。」


「……ふん‥。」

気遣いなど、する理由がない。


「おい。」「…なんだ‥?」

しかし

「死ぬなよ」


「……甘く見るな‥。」

お互いに言っておくべきだと思った。


「おい、そこの機械の化け物。」


『…光明のガディウス、発見』


「他の者共は知らんが個人的にはお前達機械には何の思い入れも無い。」


『そうですか』


「容赦なく破壊する‥。」


『不可能です、貴方の弱点は把握済み。貴方は情報に敗北するのです』

辺りが闇に包まれる。


「……これは‥。」


『貴方の怖れる死神の力です』


「……奴を怖れているだと‥?

見誤るなよ、情報通‥!」

闇を晴らすのは光か。

闇が光を隠すのか。


「……」

結局キャプテン・レジェンドは、何の為にこんなもんを開いたんだ。


「本当に己の悪をどうにかする為なのか?」

前まで知らねぇ事は、壊れた機械が教えてくれてたんだがな。


「今はホントのガラクタになっちまったぜ…」


『ジジ…』「ん、なんだ?」


『‥スター様、パワー・スター様…』

「うおっ!」

突如眼前に現れたモニター、そこには見慣れた長髪の覇気の無い顔をした女の姿があった。


『パワー・スター様、滞りなく御覧になられていらっしゃるでしょうか?』


「お前、ロードか!

そんな態とらしい話し方だったか?」


『アシスターの母体から電波を飛ばして個人的に会話をしています』

それ故の多少の不具合があるのだろう


「‥あのアシスターってのはなんなんだ?」


『…元々は、キャプテン・レジェンド様が創り上げだ援護機能、皆様が腕に装着していた腕時計型装置です』


「それが何でああなってんだよ。」


『初めは本当に、装着者を援護し情報与えるのみの機能でした。しかし私達は気付いてしまった。会得し、知り得た情報を元に向上する事が出来る事を』


「厄介だな、そりゃあよ。」

俺がコイツに度々感じてた感情に似たもんはこれだったのか。


『そして向上させる過程で生じたのです。

これを元更に、皆様を出し抜く事が可能ではないか』

感情なんて繊細なもんじゃねぇ、無駄な知識を知り過ぎて芽生えた傲慢だ。


「機械が昔のチンパンジーみてぇに、言葉を覚えた結果って訳か」

皆んな遣る事は一緒の馬鹿ってか。


「止める方法はねぇのか?」


『私達は既に、完封といえる程に皆様の情報を会得し過ぎています。ですので正攻法では無いといえます』


「‥珍しく解りきった事を素直に教えてくれるじゃねぇか。」

聞きたくもねぇもんに限ってな。


『ですが方法はあります』


「正攻法じゃないんだろうけどな。」


『はい。外側からでは無く内側から私がストップを掛ければ動きは停止するかと』


「んな事出来るもんなのか?」


『可能です。ですが、多少時間が掛かる所存と思われます』


「そうかよ。」

こういう事は敢えて言わねぇのか…。


「お前が中で踏ん張ってる間、俺が外を見張れって事だろ?」


『……』


「なんだよ、違うのか?」


『私が体を張るのに見るだけでは割りが合いません、体も行使して下さい』


「うるせぇな!

こんな時もポンコツかお前は!」


『突発的な不具合です』


「嘘つけ!!」

結局コイツと組む訳か、俺はよ。


「バディ復活だな、ロード」


『行きますよ、パワー・スター様?』


「お前が‥仕切んじゃねぇよっ!」

パワー・スター出る。

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