3話ヒーローランキング

「よっと」 『転送完了致しました」


 どこに着くのかと思いきや見慣れたすし詰め空間か。戦いが終わったらここに戻されるって仕様だな。

それにしても…おかしいな。


「少し、減ってねぇか?」

気のせいか?

いや、明らかに減ってやがる。

そんな事あるのか?


「何処行きやがった‥。」


『脱落したものは、施設から除外され、元の在り処へと戻されます。』


「脱落者?」


『はい。戦いに敗れた者、自ら放棄した者』


「敗れた者…て事はアイツもか?」


『いえ、ファントム・シャドウはいわば判定負けといったところでしょう。ここでの敗北は死、または死に最も近い形での戦闘不能を意味します。』


「判定負け、そういえばさっきのバトルのルールって何だったんだ?」


『‥把握されていなかったのですね。

先程のルールは

〝体力をより多く減らした方の勝利〟』


「体力を減らしたって、あの野郎は元気にピンピンしてたぜ?」


『在り方での違いでしょう。貴方で言われる体力といえば適切なのは単純なエネルギー、つまり力の事を意味しますが彼の場合は豊富な手数、技術や戦術の数々のバリエーションの事だと処理されてしまった。』


「なんだか都合の良い話だな。‥まぁ普通に見たらモヤシだもんなアイツはよ。」

『それは個人的見解によって異なるので判断し兼ねますが、貴方の勝利に決して違いは御座いません。』


「‥そうかよ。」

労いのつもりか、辿々しいな。機械だから仕方無ぇけど。…それより厄介だ、仕様や戦術によって勝敗の判断基準がちがうのか。俺の場合は、単純なエネルギー…。


「もうちょい凝った事プロフィール欄に書いときゃあ良かったなぁ。」


『バツ‥ブブッ…』


「ん?」

何かの接続音、現れ出たのは数分前に見たあのでかい液晶モニター。そこに映ったのは当然あの男。そう、伝説のあの男だ。


『諸君、また会ったな。いや、会えなくなった者も居るのか、これは失礼』


「わざと言ってんのかアイツは。

…嫌味な野郎だ」


『恐らく天然かと。』「知るか!」


『バトルに勝った者、敗けを見に帯び打ち拉がれる者、様々だろう。だが間違い無く一つだけ云える事は、ここに残った者達は紛う事なき英雄だ、勝敗など関係ない。』


「…白々しいな、随分と」


『恐らく、天然かと。』


「だから知らねぇって‥。」


『そこで諸君に英雄の証明を記した。

こちらをご覧頂きたい!』

でかい声を上げて出した二つ目のモニターに浮かんでいたのは集うヒーロー共の名と奇妙な数字の羅列だった。


「なんだコリャ?」


こんなモンまで作りやがってでかい画面で見せびらかしてよ。派手好きか単なるバカか…。どちらにせよこんな年寄りにロクな奴はいねぇ、目立ちたがる奴にもな。


「伝説を皆が敬うと思うなよ?」

言い方さえ変えりゃ時代遅れだそんなもん。


「っと、勘繰りが過ぎたか。

話聞いてやるとしよう。」


『これはヒーローランキング。君達の指標となるであろう力の序列を表す票だ』


「ほう。」


『バトルに勝利した者にポイントが加算され、敗れた者は減っていく。対戦相手や形式によって減少、増加する数は異なるが、勝ち進む事でより高みへと昇りつめる。』


「ポイントが付いてるのか、俺達に」


「それを奪い合って上位を目指す‥」


「面白ぇ!!」

ギャラリーが湧いて来やがった。逆にここまで黙り続けてたのか、肝が座ってる‥訳でも無さそうだけどな。


『常に湧き続けていましたよ?』


「何だって?」


『薄い結界を張り、会場の音を遮断させて頂いていました。‥耳障りかと思いまして』


「…お前、やるじゃねぇか。」


『‥滅相も御座いません』


「そうか。」

それにしてもランキングって、何の為に付けるんだ、そんなもん?


「競争が嫌でここに来たのに!!

こんなとこでまで順位を付けられるなんて嫌だぁ〜!!」

……。


「ロード、あいつ誰だ?

出口があった方向に走っている奴。」


『サラ・リーマン。通称シャッチク

‥ギロッポンタウンのヒーローです』

苦労してるんだな、逃げ場からも逃げるとは。


『そこの者、何処へ行く?』


「え…?」


『‥まさか、棄権するのか?』


「……しない。

現実よりはマシだ」


「‥‥思い留まったな。」


『そうですね。』


『…え〜っと、そうだ。

ヒーローランキングだったな?

ランキングの順位はポイントによって変動する。ポイントを得る方法は主に二つ。バトルに勝利する事、評価を高く獲得する事だ。』


「評価?

あったかそんなもん」


『バトルの評価は様々な観点からアルファベットで表記されます。基準は主にタイム、ダメージ、ミッションの三つです。』


「なんでそんな大事な事を教えねぇんだよ‥」


『お聞きになさらなかったので。ちなみに先程の貴方の評価はレベルEです。』


「散々じゃねぇか、恐らくよ。」


『今からこの票を皆へ転送する。自らの順位は左腕のRead Watch《リード=ウォッチ》からいつでも確認できる、気になる者はそこから見るといい。』

リード=ウォッチ、中身とは別に名前が付いてんのか。


「俺は何位だ?」

『確認致します..パワー・スター様

既存する800人中、267位』


「微妙だな、高いのかそれは?」

800人って数も定かではなぇな。多いのか、少ないのか。


『一応、半分は切っているという事なので、気を落とす程では無いかと。』


「306位!」 「412位!」「503位」


「‥僕なんてどうせ…798位!

下に二人いる!

競争なんか勝った事ないのに!!」


「確かに、そうみたいだな…。」

人並み以上な実力は有ると捉えていいんだな。粒揃いだと思ったが割と疎らに纏まりは薄いみてぇだ。‥余り数字で物事を決めるのは好きじゃねぇがな。


『大まかな説明は以上だ、暫く休み給え。次なる戦に備えてな!

刻が訪れればウォッチが響く事だろう、ではさらばだ!…バツン。』

言うだけ言って帰りやがった、こんなのばっかりか、ここは。


「まぁいいけどな」


『戦いを終え、準備の体制を整える休憩期間となりました。如何なさいますか?』


「決まってるだろ、奴を探すんだ。」


『奴?』


「卑怯な手品師だよ!

脱落してねぇって事はこん中にいるんだろ!」


『しかしこの部屋には貴方を含め800人もの数のヒーローが存在しています。一人一人を掻き分け見つけ出すのは極めて困難な所業かと..』


「かも知れねぇけどな

他にやりようも無いだろ?」

ただでさえ隠れるのが好きな奴だ、掴むのは雲よりもムズいかもしれん。


「なんて言う程大袈裟な話でも無いけどな、どこだ!」


「なんだ?」「何してんだよお前?」


「動くな、これだけ人が犇いてんのに!」

うるせぇ連中だ。俺だって動きたかねえっうんだよ! 


「うざってぇこった」


それからは同じ繰り返し。動いてはぶつかるデカイ身体を腕で省き間を開ける。揃いも揃って同じ格好しやがってコイツら、何が嫌かって俺自身も似たようなカッコしてる事だ情けねぇ‥!


『パワー・スター様。

何故彼をお探しに?

‥今更ですが。』


「気に食わねぇからだよ!

本当に残ってやがるか確認しておきてぇんだ、二度と合間見えたく無ぇからな!」


『そぐわない相手故に見つけ出して距離を取る。正式には、脱落して還っていて欲しいのですね…。』


「アイツの定められた基準は知らねぇが、放置しておくと後々に…」


【チョコマカ動くのは何処のどいつだぁ?】


「うおっ‥」

視界が突然一段と高くなった。むせ返る人の山を掻き分けていた筈が見下ろす形で眺めてやがる。俺の高さじゃねぇ、禍々しい声が俺を抱えて見せた景色だ。


【静かに開始を待ったらどうだ、小僧?】

デカイ両の腕で俺を包み、厳つい顔で睨みつける。ゴリラかヒトか区別が余り付かねぇが、図体は確実にゴリラ寄りだ。


「ロード‥こいつ誰だ…?」


『表示します。

ピピッ‥情報を報告、こちらです。』


〝ナックル・フィスト〟通称 暴獣

ガラナ・タウン出身。

地下監獄場での異名

ブレイキング・ビースト


「地下監獄場…なかなかヤバそうだ、壊される勢いでな。」


【先にハシャイだのはお前だ】


「……」

はしゃいだだけで首チョンパか、笑えねぇな。はしゃいだつもりも特に無ぇけど。


「悪いな、私用で先走っちまってよ。…離してくれねぇか、腕をよ?」


【………。】


「おい、どうした?」

急に黙り込んでなんなんだ、返事くらいしやがれってんだ。


【ダメだ】 「何…?」【ぐふう!】


「がっ‥ぐぉっ、コイツ…!?」

力いっぱい首を絞めやがる!

ゴツい腕に血管昇らせてよこの野郎…


【潰れろ‥クソ餓鬼。】「離せっ‥」

理性くらい無ぇのか!

本気で不味い。奴にも会えねぇしこんなゴリラに絡まれて‥くっそが…。


『ビービービービー!!』


【ぐおぉ‥】 「痛って…何だ?」

急に手ぇ離しやがって。


『警告音。

いや、合図です。準備はよろしいですか?』


「準備たってお前…」


『準備が出来次第転送致します。』


【ガキが! 雑音立てやガッテ!!】


「出来た、直ぐに転送してくれ。」


『了解しました、転送準備開始します。』


【ドコに行くキだ!!】


「はやくなー。」『転送します』

行く先はジャングルか?

だとすりゃ棄権だな。


【……消えタ。‥オレも消えル。】


『転送完了』 「よっと。」

茶色いな、全体が。足元が柔い、砂か?


『詳細を表示します。』


バトルフィールド 砂漠

状態 昼(不安定)


『砂場により、足場にお気を付け下さい。』


「敵は?」 『目と鼻の先です』

‥確かに影は見えるが。


「そうじゃねぇ、情報をくれよ」


『…かしこまりました。』

不服か、やっぱり。

見てわかる事は自分で判断しろってか。


『相手の情報です』


ガルディウス ブルート出身

武器 鎖(チェーン)

通称 C-(チェーン)ガルディー

参加理由

鎖の錆を磨く為


「良かったぜ、さっきのゴリラ野郎じゃ無さそうだな。一安心だ」


「何が安心だって?」


「…なんだ、ありゃ。」

素肌に白のジャケット、あとは腹、腕、腰に鎖でぐるぐる巻きだ。


「晒しのつもりか?」


「ふぅ、良い事を考えなさる。だが違うなぁ。

これは…クサリだ!!」


「‥見りゃあわかるよ。」


「それでは、参ろう。」「何?」


「チェーン・クロウ!!」


「うおっ!」

いきなりかよ!

鎖が砂に突き刺さってやがる。形状まで自在なのか?


「捕らえ損ねたかぁ‥!

次こそは!!」

直線的なフォルムは変わらねぇ唯、先端を尖らせたり軌道を操るくらいは自在にいけそうだ。手品師の次は鎖職人か


「今の鎖の軌道は上から下へ、次はどっからだ?」


「んぬぅ?」 「…何だよ?」


「貴様まさか、深読みをしているな」


「だったら何だよ。」


「いけないぞぉ。深読みなんて、いけずな事をしてはなぁ。」

何が言いてぇ、コイツ?


「そんな事をされたら正々堂々、正面から攻め立てるしか無くなるじゃないかよぉ!!」


「なっ‥」

腹の鎖が解けて先端が一斉に俺の方へ


「クソがっ!」

腕を構えても意味無ぇ

このまま串刺しかよ!?


「にやり、としまして。」


「‥?…なんだ‥?」

鎖の先が俺の身体を避けて展開した。


「刺されて穴開けられると思った?

残念、目的は‥」


「ぐおっ!」


「締め上げて、捕らえる事でした♪」

動けねぇ。手前で別の動きを加えやがって、卑怯者もいいとこだ。


「そしてそれらの繋ぎ目は左腕に。ってことはこのまま手を引くと?」


「うっお!」身体が、持ってかれる!


「そしてそして!

身体が行き着く先にあるのは〜?」


「てめぇ‥!」

ふざけやがって。


「そう、俺の左腕☆」 「ぐっ…!」


「腹に命・中!

こういう使い方もあるんだよ〜♪」

めり込んで食い込みやがる‥この野郎。


「引力パンチ、俺はそう呼んでいる。

ヒーローっぽいだろ〜?」


「‥あぁ、そうだな。

今のは結構聞いた」


「だろう?そうだろう?な?」


「だけどよ、良い事教えてやるよ。」


「ん、なんだ?

離せ..男のハグなんて、クソ動けねぇ!」


「鎖なんざ使わなくても動きは止めれるし、引力なんて無くとも‥打撃は打てんだよ…。」


「え、お前何言って...ちょっ、待てよ、待てって、おい!」


悪りぃな、ハグはオレも趣味じゃねぇ。


「何するつもりだあぁあぁ〜!!」


「星砕きヘッド・バットォ!!」

ダセェ名前だろ?

だが言葉通りだ。試しにほら、聞いてみろ。星をも砕く音が頭に響くだろ?


「がかっ…!」

ただの、頭突きかよ‥!!


「終わりか?」


『気を失っています、止めを刺さなくてよろしいのですか?』


「結構冷めた事言うなお前。

大丈夫だろ、ただでさえ陽に照りつけた砂漠の真ん中だ。放っておいても干からびちまう、置き去りにしておきゃあ勝手に街へエスケープだ。」


『そうですか、ならば私たちも同じという事ですね。』


「そういう事だ、転送してくれ。」


『了解』


ガルディウス

パワー・スター

砂漠の決戦 勝者 パワー・スター


「なんだコレ?

263位‥六つしか上がってねぇ。」


『相手のランクの問題でしょう』


「ランク?」


『確かに先程のバトルは見事でした。打撃こそ受けましたが深手を負う事も無く、迅速に勝敗を定め完勝と呼べるものでした。が、相手の順位らんくが低かった。いくらベストな戦い方で事を納めても、そもそもの順位が低ければ乏しい結果と成り得ます。』


「そういうことかよ‥厄介だなおい」

確かに手応え無かったが、悪党退治専門のモンから言わせりゃ正義に強弱なんざないんだがな。


「ん、待てよ。…なら何でだ?」 『……』

相手のランクで決まるなら。


「最初の個人的な順位ってのはランダムで着けられるのか?」


『‥いえ、質問の意味合いが理解し難いですが初めは皆様800位、つまり最低ランクからのスタートとなります』

やっぱりそういう事か。初めの相手は順位が存在しねぇから、ランクの上げようが無ぇ。


つまり。

「一人目の相手を倒す事で上がる数値は、機械共が勝手に定めた力のでかさだ。」

それが街にいた頃の統計の算出なのか、勘で弾いたテキトーなもんなのかは知らねぇ。


だが。

「俺が相手したあの野郎は確実に、相当な手練れだ。」

じゃなきゃ最低だった俺の順位が、一発で半分をデカく飛び越えたランクになる筈が無ぇ。


「アイツは何位かなぁ‥。」


『確認致しましょうか?』


「いや、いい。」

俺より上なのは間違い無ぇ、なら見るのは、俺の順位だけでいい。


「ただそれを上げてけば、いずれ辿り着く。」

着いてもいなきゃ、それも好都合だしな


『‥それでは、私はいかが致しましょう?』


「決まってんだろう。俺について来い」

レベルを上げて、踏ん反り返った上の連中を叩き落としてやるよ。


「待ってやがれ自惚れ共!!」























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