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 ――パタタ。


 誰もいない旧校舎の裏は2年前とはその様子を大きく変えていた。


 建物自体に老化は見られないが、その周囲の荒れ具合は酷い有様だった。

 雑草は伸びきり、外から投げ込まれたのか、風が運んだのか、ゴミが至る所に転がっている。


 パタタ……、とコンクリートの上に何か液体が零れるような音が断続的に響く。


 黒ずんだ赤色の液体だった。


 それは、この世のものではなくなってしまった少女の目から流れ落ちる涙であった。


 小さな点だったその赤が、少しづつ、段々と何かを歪に形どっていく。


 今は誰もこの文字を消す者はいない。


 けれど、ここへはもう誰も来ない。


 今ここへ理恩がいたなら、彼女の姿が見えただろう。


 あの日からずっと、血の涙を流し続ける野神沙耶香の姿が。


 あの日、悲しみと憎しみを彼女は孕んでしまった。


 どうして自分は殺されなければならなかったのか。


 どうして……ドウシテ……どうして?


 沈黙を守っていた手入れのされていない焼却炉に突然赤々とした炎が灯った。


 最初は何故あの人が自分を殺したのかという疑問と悲しみが大きかった。だが、時が経つと共に、憎しみだけが彼女の中で成長をしていった。


 膨れ上がったモノが産声をあげる時、恐らく彼女は誰かれ構わず取り殺してしまうだろう。


 もう、生前あった理性など、とうに失くしているのだから。


 彼女は悪霊――怨霊になってしまったのだから。


 コンクリートの上にはアルファベットの【T】の形が描かれていた。

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