1-1『ようこそ! オカルトミステリー研究部へ!』

 小比類巻梢こひるいまきこずえは、心底落胆していた。


 いや、むしろ期待していた自分がいけなかった。


 夢に見た高校生活、夢に見たイケメンとの出逢い。そんな少女漫画のような奇跡は現実には起きないことを知っていたはずだった。


「ようこそ、オカルトミステリー研究部へ!」


 妙に明るい声でそう言ったのは、この研究部の部長である3年の大森淳おおもりあつしだ。

 風貌はよく言えば真面目、悪くいえばダサい。


 梢は今一度、部室内を見渡す。部室と言うには狭い。元々は資料室か何かだったに違いない。そこへ机と椅子が8組置かれていた。


 男子が3人、女子が1人がその椅子へ座って梢たちを見ている。


 大森以外の男子生徒はそれぞれ2年の佐野樹さのいつき田中尚之たなかなおゆきと自己紹介をしてくれた。佐野の方はどちらかというとミステリーに、田中の方はオカルトに興味があるとのことだった。


 それにしても――驚くことに全員メガネをかけている。


 ちなみに、メガネ男子は正直好物なのだが、この人達には全くと言っていいほど胸がときめかない。


「早速だけど、新入部員の2人に自己紹介してもらおうかな」


 梢はちらりと自分の横にいる人物を見た。

 同じ1年生らしいが、こいつが一番【ナイ】。


 墨汁でも塗ったのか? と思わせるような黒髪はボサボサで、これまたメガネをかけているのだが、今どき見ない瓶底メガネ。小さな目からは表情が全く読めないからか薄気味悪い。


 まあ、こんな胡散臭い部に入部をする人種なのだからまともな人間を求めるのが間違えているのだろうけれど、と梢は諦めのため息を吐いた。


「……あ、じゃあそっちからどうぞ」


 梢がそう言うと彼は口を開くのも面倒くさそうに「1年2組、宝生理恩ほうしょうりおん」とだけ声に出した。


「1年5組、小比類巻梢です。よろしくお願いします」


 ニッコリと微笑むと、この場にいる男女の表情が惚けた。


 梢は自他ともに認める美人なのである。


 梢の母の実家は青森県にあり、東北の血を受け継いでいる梢の肌は白く、陶器のように美しかった。

 目鼻立ちもまるで人の手に造られた人形のようで、誰も文句をつけられない完璧な美人なのだ。


 そんな梢がアンダーグラウンド的存在であるオカルトミステリー研究部へ入部したのには理由があるのだが……。


 新入部員2人の自己紹介が終わると、寂れた部室内に拍手の音が響いた。


「2人とも心霊経験は?」


 梢が入部するまで紅一点だった副部長の神楽坂燕かぐらざかつばめが興味津々と言った感じで身を乗り出してきた。


「経験はないですけど……【いる】か【いない】かはなんとなくわかります」


 そう、梢には霊感がある。


 けれど、本人が言った通り、存在の有無くらいはわかるが、視えるわけではないので、その辺は一般の人間と変わりはない。


「そうなのね。私は霊の存在を信じているんだけど何も感じないから羨ましいわ。宝生くんは?」


 話を振られた理恩の方を見るが、やはり表情が読めない。

 と、いうより無表情なのだろう。


「……視えるけど、声は聞こえない」

「え! 視えるの!?」


 神楽坂はメガネの奥にある瞳を輝かせた。


「素晴らしい! 我が部始まって以来の逸材が二人も……!」


 今度は大森が満面の笑みで手を叩き始めた。それに倣って周りの部員も拍手で盛り上げ始めた。


「え……まさか誰も霊感ないんですか?」


 梢が引き攣りながら大森へ問いかけると、彼は自信満々に「いない!」と答えた。


 本日2度目のガッカリポイントだ。


「じゃあ部としての活動は何を?」

「学校内における噂話の調査とか、世間に起きた未解決事件の考察をして、月イチで部誌を発行してる」


 そう言って大森は梢へ過去の部誌を手渡してきた。


 ざっと目を通したが、B級以外の何物でもない。


「これまでは予想や妄想でしか記事を書くことが出来なかったが、2人がいたら真実味を帯びた記事が書ける! それに小比類巻さん目当ての部員が増えるかも……つまり、部費も増える……」

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