第32話 三姉妹の再会
「シルヴェーヌ……リリアーヌ……ローゼ……みんなごめんね。千年もの間、ほったらかして、ごめんね……ごめん……ね」
涙が溢れて止まらない。そんな私を気遣ってか、ブラッド少佐が声をかけてくれた。
「あなたの責任ではな……セシリアーナ……姫? そのお姿は? 先程までは自動人形だったのに、今は人の姿だ」
「鋼鉄人形の中では元の姿に戻るの。自動人形は仮の姿。千年前のあの時、私の体は燃え尽きてしまったの。だから、キャトル型自動人形の筐体を使わせてもらった」
「そうだったのですね。しかし、お美しい。絶世の美女とは貴方の事だ」
「冗談はおよしになって下さい」
ブラッド少佐の視線が私に刺さっている。私の容姿は彼の好みだったのだろうか。それに対し、ブレイズ大尉は驚いてしまったのか地べたに座り込んでいた。とりあえず、二人の殿方の事は放っておこう。今はシルヴェーヌを元に戻さなくてはいけない。
私は再び彼女を抱きしめた。そしてその真っ黒な唇に私の唇を重ねた。
「シルヴェーヌ。目を覚ましてちょうだい。リリアーヌも目を覚まして」
私の涙が彼女の黒い頬に一粒こぼれ落ちた。するとどうだろう。涙が合図になったのか、彼女が目を覚ました。
「あ……セシル姉さまですか? 生きていらっしゃったの?」
「そうね。ちゃんと生きてますよ」
「姉さまは死んでしまったと思っていました。でも、姉さまは何故生きていらっしゃったのですか? 体が燃えちゃったのに」
「機械の体を使ったのよ。帝国製の自動人形の体を」
「え? 機械の体? 自動人形ですって? え? もしかして、あの私のお世話をしてくれた自動人形のセシルって、まさか、セシル姉さまだったの?」
「ええそうよ。私はあなたの事をずっと見守って来ました」
「姉さま。セシル姉さま」
黒い肌となっているシルヴェーヌが私に抱きついて来た。彼女は私の名を呼びながら涙を流している。
「シルヴェーヌ。ちょっとどきなさい。私だってセシル姉さまとお話したいんだから」
急に声質が変わった。やや高めの可愛らしい声から、ややハスキーな低めの声へと。
「セシル姉さま。セシル姉さま」
「リリアーヌね」
「はい。リリアです。こうして姉さまと会えるなんて信じられません。本当に死んじゃったって思ってました。だってあの時、王宮のテラスでお姉さまは全身が燃えてたんだから」
「そうね。あの時は本当に熱かったわ」
「涼しい顔をしてそんな事を言われるのですね。でも、姉さまに触れられてすごく嬉しい。ああ、姉さまの豊かな胸元が気持ちいい。私、ずっと憧れてたの。だって私の胸は貧相だったから」
「大丈夫よ。リリアだってもう少ししたら大きくなるわ。私くらいには」
「そう? 私も姉さまみたいになれるの」
「大丈夫よ。だってあなたは私の可愛い妹なんだから」
「うん」
彼女は私の胸に顔をこすり付けながら涙を流している。真っ黒な少女だが今はリリアーヌだ。
「ちょっと、私もお話したい。ね、いいでしょ」
また声が変わった。今度の声はシルヴェーヌよりももっと甲高い声。まるで子供のような可愛らしい声だった。
「はい、いいわよ。あなたはローゼね」
「はい。私はローゼです。ローちゃんって呼んでください」
「ローちゃんね、わかったわ」
「ありがとう!」
「元気が良いわね。ところでローちゃんに質問があります。よろしいですか」
「はい、セルちゃん」
「あら、私はセルちゃんなのね」
「はいそうです」
真っ赤な瞳。真っ黒な肌に真っ黒な鱗。そして頭にある二本の角。とても人間の姿とは思えない。鋼鉄人形の中核に設定されている少女。しかし、彼女は元々人間だったのだ。
「今はローちゃんの中にシルヴェーヌとリリアーヌがいるのよね。一つになってるの?」
「そうです。シルちゃんとリリちゃんよ。リリちゃんは以前の戦いで霊力を全て鋼鉄人形に捧げたのです。普通はその時点で魂が消滅するんですけど、私と一緒になる事で無くならなくて済むの」
「そうなのね。ローちゃんがリリちゃんを匿ってくれてるって事でいいかしら」
「はい。そうです」
「シルちゃんの方はどうなの?」
「この、鋼鉄人形ロクセ・ファランクスを稼働させるためには二人必要なのです。千年前は、シルちゃんが目にリリちゃんが心臓になりました。今回はシルちゃん一人だったので、私と一体化する事で目と心臓の役割を兼ねたのです」
「一人二役なのね。大変だったのかな?」
「はいそうです。でも、シルちゃんの方は霊力に余裕があるから、多分、分離できます」
そうなのか。リリアーヌは霊力をすべて使ってしまった。だから今は、ローゼと一体化する事で彼女の存在を維持できている。シルヴェーヌは鋼鉄人形を稼働させるためにローゼと一体化した。それならば元に戻る事ができるかもしれない。
「なるほどね。シルちゃんは元に戻れるかもしれないって事ね。じゃあリリちゃんの方はどうなの。元に戻れるの?」
真っ黒な少女、ローゼは少し俯いて瞑目した。
「うーん。可能かどうかという話なら可能です。でも、戦いにおいて消費した霊力を補充する必要があります。それは大体、人間ひとり分の命に匹敵する量になる」
「なるほど、それは大変ね」
「ええ、大変です。もし実現するとしたら、誰かの命を奪うか神様の奇跡に頼るしか方法はないと思います」
「実質的に不可能なのね」
「はい。そうだと思います」
今度は私の目をしっかりと見つめている。リリアーヌの方は、半端な方法では元に戻せない。彼女の凛とした表情がそれを物語っていた。
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