第7話 へんな奴に懐かれたのだがどうしたものか
「はあ!?」
ケネスの素っ頓狂な声がキャンプで響いた。俺のかわりに兵を率いて獣人たちと合流し、ゴブリンたちと戦っているところで、巨大な方向と、ほどなくして断末魔の声が上がった。
それでゴブリンたちは算を乱して逃げ散ったというわけだ。
「アルはカッコよかったニャー!」
俺の左腕にしがみついて離れないネコミミ。
ケネスはいろんな意味で唖然としていた。
「っていうかですな。オークと真っ向から渡り合って叩き切るとかどんだけ?」
「ケネス、このこん棒の切り口を見てくれ」
戦後処理に当たっていた小隊長の一人、アントニオが一抱えもある丸太を引っ張ってきた。
「……すごく、なめらかです」
ケネスがポカーンとしたままわけのわからないことを言う。
「……なんだ、その口調?」
ケネスははっと我に返ると、俺に矢継ぎ早にツッコミを入れて来た。
「なんでそんな細い剣であんな馬鹿でかい丸太を斬れるんですか!? あとオーガって普通十人がかりとかで罠仕掛けて討伐するような相手ですからね? 後そのネコミミ何者ですか!?」
「なんか、頭の中で剣術スキルが発現したとか声が聞こえた。そうなのか? さっきの戦いで共闘した」
とりあえず順番に答えたが、ケネスは頭を抱えている。
埒が明かないのでとりあえず名前を聞いてみることにした。
「なあ、俺、お前さんの名前も知らないんだが?」
「ウニャ!? ニャーの名前はシーマ、ニャ。末永くよろしくニャー」
「末永くって、いや、そもそもさっき会ったばかりだよな。そんでお前さん俺にさんざん矢を放ったよな?」
「にゅふ? ほら、人間長く生きてたら間違いの一つや二つあるニャー」
「待て!? なんか軽いミスっぽく言ってるが、俺は殺されかけたんだからな?」
「死ななかったんだから結果オーライにゃ。それより、ニャーと番いになるのニャ!」
少し困ってケネスの方を見ると…‥なぜかすごくいい笑顔でサムズアップしてきた。
まて、なんでその親指を人差し指と中指の間から突き出す?
「美少女ネコミミから結婚申し込まれるとか爆発すればいいのに」
「なんか笑顔でサラッとひどいこと言った!? っておい、結婚!?」
「……ニャーのこと、嫌いニャ?」
じわっと目元を潤ませてこっちを見上げてくるネコミミ少女ことシーマ。うん、間違いなく美少女だ。胸部装甲はつつましいが、弓を射るのに邪魔になるだろう。
「……ブレストプレートを外したら、すっごいニャ!」
なにがすごいんだろう? とりあえず「後でな」と伝えると、ケネスをはじめとした兵たちがものすごい形相でこっちを睨んでいる。
「とりあえず、だな。負傷兵もいるだろうし、戦死者を弔ってやらんとならんだろう。引き上げの準備を!」
「はっ! 爆発しろ!」「了解です! 爆ぜろ!」「夜道は気を付けろ?」
何やら不穏なセリフが飛び交う。そしてシーマが俺の胸元をツンツンとしてくる。
「アルはすごいニャー。剣術スキルなしであそこまで戦えるとか、惚れなおしたニャー」
「スキル?」
「神様がくれた力ニャー。ニャーは射貫くものという称号もちニャ」
「な、なんだってー!」
わざとらしいタイミングでケネスがツッコミを入れてくる。
「もしや……神弓のシーマか!?」
「うにゃ!」
ケネスが驚きの表情を浮かべている。話を聞くと、姿を見せず超長距離からの狙撃をこなす凄腕の弓兵がいる。それが目の前のネコミミだというのだ。
なんか「にゅふー」とか言いながら耳をピコピコさせている姿からはそんな雰囲気は全く見えない。ただ、一度弓を引いただけでオーガの両目を撃ち抜いた技術は本物だろう。
「シーマ、今日初めて会ったんだから、お互いを知る時間が必要じゃないか?」
「む? 何が言いたいニャ?」
「うちの傭兵団に来ないか?」
「む、ニャーへの依頼は高いニャよ?」
ケネスの方を見ると顔を高速で横に振りながらバッテンをしてきた。
「……むう」
「身内価格にするニャ?」
「……その身内の定義は?」
「もちろん、ニャーの旦那様だけニャ!」
素敵なドヤ顔で宣言してくる。まあ、その笑顔は花が咲いたようで、見ていて悪いものじゃなかった。
そして、ケネスがいい笑顔で俺の肩を叩きつつ好耳元でささやいた。
「やっぱ爆発してください」
ひとまず、シーマが引き連れて来た獣人たちをキャンプへと招いた。獣人族は総じて敏捷性とか力とかが高く、人族より個人的武勇が優れているとされる。
要するに、戦力を大きく向上させることができるというわけだ。
「アル、彼らを身内に取り込むんです。獣人の傭兵は依頼料が高い。うちの財政を大きく改善できる!」
アントニオの鼻息が荒い。土魔法の使い手である彼は土木工事を一手に担っていた。俺の提案した戦場での野戦築城は彼がいなかったら実現しなかった。
もともと裏方で働くことが多い。そして何より……うちの傭兵団の財布を管理しているのはアントニオだ。
戦力の増強と、それによる依頼料の増加、同時に人手不足の解消。それが全て解決すると目で訴えている。
だが、結婚とか人の人生の一大事をそう簡単に売り飛ばさないでほしいものだ。
「アールー! ニャーと一緒に狩に行くニャー!」
「え? ちょ!? おい!?」
「隊長。くれぐれも……」
俺は返答の代わりに手をひらひらと振って、弓を手に取った。
森の中をシーマと一緒に歩く。俺も気にかけているが彼女の歩き方は実にしなやかで足音一つ立てない。小声で会話をしながらたまに耳だけ別の方向を向いている。
腰から伸びる毛皮に包まれた尻尾はゆらゆらと揺れつつ、風の流れを読んでいるようだった……たまにサワっと俺の腰辺りを撫でて行くのは気のせいだと思いたい。
「……一つ、聞いていいか?」
「ニャーのことなら何でも聞くニャ」
「なんで、俺なんだ?」
「強いからニャ」
「俺より武勇に優れた者はいるだろう?」
「そーニャ。真っ向から戦ったら、ケネスのあんちゃんもかなりのもんだと思うニャ。兵の指揮はアントニオのおっちゃんとかかなりやると思うのにゃ」
「もう一回聞くぞ? その話から俺が選ばれた理由はどこだ?」
「アルの、魂の強さにゃ」
「魂?」
「普通は、スキルを一つ授かったらいっぱいいっぱい、けどアルは違うニャ」
「そう、なのか?」
「ニャーを見てほしいニャ」
そう言われてシーマの方を向くと……ブラウンの瞳が金色に輝いている。
その眼差しに、なぜか俺は吸い込まれるような気持ちになっていた。
「やっぱり。アルの魂は特別ニャ。まるでこの世のものじゃないみたいニャ」
シーマがぽつりとつぶやいた一言は、なぜか俺の胸にじわっと染みて行った。
何となく、彼女の頭をわしっとつかんで、撫でまわしていた。ピコピコ動く耳はとても温かい手触りで、何となく癒される気持ちになったのだ。
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