ものかたり部ミュンのみょんなほら話

米占ゆう

序章 隣りに座っていた青年による推薦演説

 世の中ひろしと言えど、はまぐりと一緒に失せ物探しをしたり、絵の中の鷹を飼育してみせたりした人物ってのは、そうは多くないだろうな。

 だから、そういう人物の話が聞けるっていうことを、俺たちはもっと幸せに思わなくちゃいけない。

 なぜって?

 そりゃ、ミュンっつーやつはそういうやつだからだ。


 いや、まあ、あいつは至って普通のやつだよ。

 登校時間だって始業の十分前だし、体育の授業の後はだいたい寝てるし、牛乳は毎回全部飲んでる。掃除の時間はサボることもないし、点呼の声は中くらいだ。あと特筆すべきことと言ったら、古文の成績が変にいいことくらいかな。それくらいしか覚えがない。普段のミュンに関しては。

 でもさ、案外そんな人間の方が、クラスの人気者なんかよりもみょんな目に会うもんなのかもしれないぜ。

 だってそうだろ? ハルヒに振り回されるキョンだって二言目には「俺は一般人だ」なんて調子だし、まどマギのまどかだって、ごく普通の素朴な女の子だ。最近だと君の名は。の瀧くんだって言ってみれば普通さ。――顔以外は。


 ま。それにしたってミュンの場合には、あまりに限度を超えていると感じることも少なくないっちゃあ少なくないんだがね。

 っていうのはだ、ミュンのやつ、身の回りにみょんなことがあまりに多すぎるんだよな。あんまり多いもんだから、それぞれのみょんが圧迫されて、どうも一つ一つが小粒に見えるのが珠に傷だ。

 ありゃあ、さだめし、なんかの因果を背負っているんじゃねえかな。前世で他人にドッキリを仕掛けて、結果相手を殺してしまった、とかさ。そんなふうに俺なんかは思うわけなんだが……。


 ――え? 全部ほら?

 いやいや、冗談じゃない。

 そんな娘じゃないよ、ミュンは。

 全体的におとなしそうだし、ボブの髪だって染めてないし。ま、地味だけど、その分真面目そうだろ?


 ……。


 うんうんうん、わかったわかった。

 そんなに疑うんなら、一度、ミュンの話を聞いてみるといいさ。

 ほら、そろそろ始まるみたいだ。

 背筋を伸ばして、襟をビシッと正して聞くといい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る