出会い系アプリで出会うは妹であった。

花林糖

日常編①

第一章 俺の彼女と実妹

第1話 プロローグ

 出会い系アプリ。

 それはSNS上に自身の情報を開示し、恋人あるいは結婚相手、はたまた友人などを探すために用いるアプリだ。


 アプリの数は膨大で、大手企業が運営している真面目なアプリや、金銭目的や俗に言うヤリ目的の悪質なアプリが存在している。


 年齢制限も当然付与されており、基本的に十八歳以上の者以外は使用することは出来ない。

 多くの真面目なアプリならば、必ず身分を証明するものを提出する事になる。


 ──が、悪質なアプリならその限りではない。


 危険もあるが、中には真面目なユーザーも存在している。

 全てが危険だとは言い難いのである。


 それこそ俺──沢田陽太さわだようたも、そんな悪質な方を使用しているユーザーだ。

 高校二年で十七歳の俺では、どうしても大手のアプリは使用できないのだ。


 とはいえ、別に俺から進んでアプリをインストールした訳ではない。

 友人の頼みで、怖いから一緒にやろうと誘われて、仕方なく試してみただけなのだ。

 誰も好き好んで、悪質そうなアプリに手を出そうとした訳ではない。


 一ヶ月使用して分かったことだが、この『出会いいね!』というアプリは、そこまで悪質ではなかった。

 高額な架空請求をされる訳でも、ましてや使用料を毟り取ろうとはしない。

 どうやらこのアプリは、金銭ではなくヤリ目的の強いアプリのようだった。


 もっとも、俺はそんな目的の女性と出会う気はなかった。

 俺は彼女いない歴史=年齢ではあるが、女性に飢えてるかと言われればそうではない。

 もちろん興味がない訳でもないが、どうせ付き合うなら真っ当な女性と出会いたい。


 俺は、言ってみれば全てが平均的な普通の高校生なのだ。

 容姿、学力、体力、知力など、どれを取っても平均的でこれと言った特徴はない。

 唯一の自慢があるとすれば、一つ下に可愛い妹がいるという事くらいなものだ。


 話が少し逸れたが、そんな俺だからこそ普通の恋愛を求めるのは、ごく当たり前のことだろう。


 アプリを使い始めて二ヶ月が経過した頃には、いい加減もうやめたいと思うようになっていた。

 ──だが、そんな俺に転機が訪れた。


「ん? 新しいメッセージ?」


 ある日、家で暇な時間を過ごしていた俺は、何気なくスマホを開くと、例のアプリにメッセージが一件届いていた。

 この頃になると、あまりアプリを開くこともなく放置していたのだが、暇だったせいなのか、気まぐれでそのメッセージを読んでみようと思ったのだ。


『はじめまして。Y.S.さん。


 私は、あなたのプロフィールを拝見して、是非ともお話がしたいと思いご連絡しました。

 もちろん返信する前に、私のプロフィールを読んで頂けたらと思います。


 今回、私がY.S.さんにメッセージを送った理由は、プロフィールが真面目さを窺える内容で、出身地やご趣味も同じでした。


 そこでふと、あなたに興味が湧いたのがきっかけです。

 なので一度、お話が出来ればと思います。


 どうか、よろしくお願いします』


 ──と、あまりにも丁寧な文面で送られてきたのだ。


「なんだ……これは?」


 俺は数分の間沈黙した。

 今までも何度かメッセージが送られてきたが、ここまで丁寧で真面目そうな文面は初めてだった。

 このアプリのユーザーにしては、不釣り合いな内容でもあった。


 今までなら、もっと軽いノリのような文面が多く、明らかに快楽目的だと分かった。

 しかしこのメッセージは、それとは対照的な真剣さが伝わるものだ。


 だからだろうか。

 俺は無意識に文面をなぞり、『R.S.』のプロフィールを覗いてみた。


「こっちも丁寧な文面だな……」


 プロフィールには簡単な自己紹介と、特技や趣味が丁寧に書かれている。

 写真の中の顔は手で隠れているが、清楚な感じが溢れた一枚だ。


「こんな人がこのアプリを使ってるとはな」


 正直怪しさも多大にあったが、それでも俺は『R.S.』という女性が気になった。


 そして──。

 俺に、人生初の彼女ができたのだ。



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