探偵、桜井明日香7

わたなべ

プロローグ

その人物は、警戒するように辺りをそっと見回した。

時々、車が走っているが、こちらを誰も見ていないことを確認すると、玄関のチャイムを鳴らした。

『ピンポーン』と、部屋の中にチャイムの音が響き渡り、しばらくすると玄関のドアが開いた。

中から出てきた人物は訪ねて来た人物の顔を見ると、口元に笑みをうかべ無言で部屋の中に招き入れた。


『ちゃんと、約束の金を持って来たのか?』と、相手は尋ねた。

『持って来た』と、訪ねて来た人物は頷いた。

『確かに、受け取った』と、相手は金を数えてニヤリと笑った。

『ちゃんと払ったんだから、例のものを渡してほしい』と、訪ねて来た人物は言った。

『後100万くらいで、考えてもいい』と、相手は笑った。

『そんな……。約束が違う!』と、訪ねて来た人物は叫んだ。

『嫌なら、これを公開する。あんたは終わりだ』と、相手は言った。


『一週間待ってやるから、また来週のこの時間に来い』と、相手は言った。

訪ねて来た人物は、無言で部屋を後にした――


その直後――

訪ねて来た人物は、再び部屋に戻って来た。

『なんだ、もう持って来たのか?』と、相手は言った。

『持って来た――』そう言いながら、訪ねて来た人物は部屋に上がると、隠し持っていた包丁を相手の心臓に突き刺した。


訪ねて来た人物は、部屋を出た。

夏の日の、まだ明るい昼過ぎの出来事だった――

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