第三話 口封じ

 ~王都ベルグラディス・傭兵所前~



昨晩、テュシアに兵士の多いこの国で傭兵とは何をしているのか聞いてみたところ『リアなら実際に自分の目で見た方が良い』と返ってきた。

テュシアにしては曖昧な言葉だった。

仕事を受けるのに登録等は必要なく、誰でも受けれるらしい。

私が傭兵所の扉を開けようとすると、中から一人の小さな女の子が出てきた。


あれは、この間の商店区に居た子……?

誰でも受けられる、とはいえまさか仕事を受けてる訳じゃない、はず……だよね。

なんだか急いでる様子だった。

何であれ私には関係ない、関係ない……。

しかし、再び傭兵所の扉に手を掛けようとしたところで私の体は少女の向かった城門の方へと向かっていた。



~ベルグラディス領内・ベルト森林~



私は城門を出た少女の後をこっそりと付ける。

王都を出て十分程歩いた先にはベルト森林が見える。

森に着くと、少女は辺りを見渡し警戒しながら森へと足を踏み入れた。

森とは言っても視界は良好で、ちゃんと歩ける道もある場所のようだ。

後ろを歩くこと数分、前から声が聞こえ、少女は木に隠れその様子を見ていた。

私も奥の様子を伺う。

木で出来た小屋の前には十数人程の男達が見え、何かを話している。


「は、話が違うじゃねえか」


「依頼には取り逃がした一人って書いてあったのに、くそっ!」


「ど、どうするよ……?」


どうやら仲間というわけではなく、三人と十人が対面している。

装備の見た目からして少ない方が傭兵で、小屋の前にいるのが盗賊のようなものだろうか。


「傭兵か、運がなかったな」


盗賊側の一人が言った。

傭兵達は想定外の状況に驚いたままだ。

このままでは全滅は避けられないだろう。

と、そこへ少女は隠し持っていたナイフを手に盗賊の方へと対面するように姿を現す。


「薬、返してっ……!」


震える手でナイフを盗賊に向ける少女。

盗賊は笑い、馬鹿にしたように少女を見て答える。


「薬ぃ? なんのことか知らないが、はい返しますって返す奴がいると思ってるのかよ。それより嬢ちゃん、もう戻れないぜ」


盗賊は未だ状況に飲まれたままの傭兵に提案をする。


「そこの傭兵達、俺達はお前らを殺すよりもこの嬢ちゃんを持ち帰った方が得なんだ。今おとなしく帰れば見逃してやってもいいぜ?」


傭兵達は顔を見合わせ、そして少女を見て三人が頷く。

死を覚悟していた状況で見知らぬ少女一人が犠牲になれば自分達は生き残れる道が生まれたのだ、利用しない手はないだろう。

だが、傭兵達の行動は私の予想とは違った。


「ふざけるな! そんな提案、受けるとでも思っているのか!」


「ここでこの子を身代わりに逃げ帰るくらいなら、俺はここで死ぬ!」


「や、やるしかない……!」


三人の傭兵は少女を庇うように前に立ち、賊と向き合う。


「馬鹿な奴等だ」


賊は数を利用し三人を囲むように展開する。

傭兵達のとった選択は……愚かだ。

三人が助かり一人が犠牲になれば良い状況を投げ出し、四人共が助からない選択をしたのだから。

本当に……愚かだ。

私は隠れていた木から飛び出し、傭兵達と少女の背後に回った賊の首を吹き飛ばす。


「まだ仲間が居やがったか!」


そのまま止まることなく二、三人と確実に仕留めていく。

残るは横と正面の七人。

私は傭兵達に視線を送り言う。


「その子を守ってあげて」


傭兵達は頷き盗賊と距離をとる。

左右に居た二人の盗賊が少女を狙い私を無視して後ろへ行こうとした。

盗賊の装備は軽装で武器も短剣、素早さを重視しているのだろうけど、遅い。

飛び出してきた二人を葬り、正面の五人を処理するのは簡単なことだった。


ここにいた盗賊を一人残らず殺し、私は後ろへ向き直る。

そこには三人の傭兵と一人の少女。


「凄いなキミは! 一人で十人の盗賊に勝っちゃうなんてな」


「助かったよ、ありがとう」


「し、死ぬかと思った……」


この三人は本当に傭兵なのだろうか……。

と、そこへ一人の盗賊が持っていた薬の入った袋を取り返した少女がやってくる。


「お姉ちゃん。助けてくれて、ありがとう」


「――ッ!!」


テュシア以外にお礼を言われるなんて経験なんてなかったから、なんて反応していいのか分からない。

それに私は何をしているのだろう、今この子や傭兵達を助けたってそれは一時的なものに過ぎず、ただの自己満足、偽善行為だ。

でも、何だろう、この気持ち……。


「ど、どういたしまして」


私は自分なりに優しい表情、のつもりで少女に答えた。

後ろの傭兵達も嬉しそうにしている。

そのうち一人の傭兵が話しかけてきた。


「キミ、名前はなんて言うんだい?」


「え? あ、ああ、アイディール、です」


「今回の報酬はアイディールちゃんが受け取るべきだな。戻ったら一緒に傭兵所へ来てくれないか?」


「私が勝手に助けただけですので報酬はいりません。皆さんで貰って下さい」


そんな訳にはいかないとその後数分は話が続いたけど、夕飯をご馳走になるということで納得してもらった。

そして、私を含め五人で帰路に就こうと思った時、人の気配と微かな殺気を感じた。

右、後ろ……!

私は咄嗟に剣を振り、一人の傭兵の頭を目掛けて飛んできた銃弾を払い落す。


「な、なんだ!?」


急に飛んできた銃弾に驚く傭兵。

偶然じゃない、明らかに狙って撃ってきている。

銃弾の飛んできた方角から相手の大体の位置は分かった。

しかし、他にも隠れているかもしれない以上、今この場を離れる訳には……。


「敵は王国狙撃手、数は五。位置は……」


突如私達の目の前へと姿を現した帽子を深く被り、黒いレンズの眼鏡とマスクをした怪しい人物。

私以外の全員は一瞬硬直し、警戒した。

この趣味の悪い恰好、そして気配を感じさせず一瞬でこの場に転移出来る存在は一人しか知らない。

私は武器を構える傭兵達を止める。


「この怪しい……人は仲間。大丈夫です」


テュシアが四人を護衛してくれるなら私は安心して敵を殺しに行けるし、敵の正確な位置も小さな光で表してくれている。

敵は王国の狙撃手と言っていた。

何故王国が盗賊を始末した傭兵を殺そうとしたのか……。

目撃者を残す訳にはいかない、逃げられる前に殺す。



私は四人の狙撃手を殺し、一人は捕まえてきた。


「どうせ言わないとは思うけど、一応聞くね。誰に頼まれてここへ?」


捕まえた狙撃手に聞くが、黙って首を振られた。

素直に吐くとは思っていない、私は剣を持ち、相手の太腿を目掛けて突き刺そうとする。

だが、その直前に急に胸を抑え苦しみ出す狙撃手。


「あ、ぁぁぁぁ!!」


悲鳴をあげ、地面に倒れ、そのまま動かなくなった。

怪しい恰好をした人、テュシアが近くに寄り状態を確認するが、どうやら死んでいるみたいだ。

テュシアは小さな声で呟いた。


「呪い……」


王国兵による攻撃、捕まえた兵士の謎の死、私達は気味の悪い雰囲気で王国へと戻るのであった。

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