第一話 王都散策

 ~王都ベルグラディス~



私がアイディールになってから数日。

王都を自由に歩き回れるようになった為、私は一人何処を目指す訳もなく歩いていた。

まずは王都、そして世界の現状を自分の目で確かめたかった。

テュシアは『私もいくー!』と言っていたが断った。

私の前では幼さを感じる言動や行動もするけど、外ではお嬢様であり、部隊を率いてはいないが地位の高い王国騎士なのだ。

一緒に居たら目立って仕方がない。


家を出る前の事を思い出しながら歩いていると、ふと一つの張り紙が目に入った。

傭兵募集中……?

この王都には王国騎士、そしてその下の兵士達が数多くいるのにも関わらず傭兵が存在するとは。

どういった境遇の人がなり、何をして、させられているのだろう。

私は少し興味が湧いた。

帰ったらテュシアに聞いてみよう。



~王都ベルグラディス・商店区~



その後も歩き続けると沢山の店が並ぶ場所へと来た。

店によって売られている物は様々で、食料から衣料、武器や防具等も売られている。


「そ、それはわたしが先に買いますって言いました!」


「……?」


食料を扱う店から小さな女の子の声が聞こえた。

店には店主、少女、それから中年の男性がいる。

私は足を止め続く会話を聞く。


「悪いね、お嬢ちゃん」


中年の男性が少女に言う。

少女は納得がいかない様子で抗議する。


「後から割り込んで人が買おうとしたものを奪うなんておかしいです!」


「やだなあ、奪ったわけじゃないよ。ちゃんとお金は払っただろう? 君の何倍もの額、ね」


少女は怒った顔で中年の男性を見た後、店主の顔の方へと向き直る。

店主は苦笑いで少女を見て言った。


「ご、ごめんね……」


中年の男性の去りゆく背中を悔しそうに見つめる少女。

私以外にも周囲でその場を目撃している人は沢山いた。

だが、皆気まずそうにその様子を見ているだけで誰も助けはしない。

あの男は財力を使い少女が買おうとしていた物を奪い取った。

理不尽ではある、けれど力で何かを手に入れることは正しく、少女が弱いから悪い。


「弱いから、悪い……力がないから……」


私は自分に言い聞かせるよう小声で呟き、その場を去ろうとしたが、体はあの男の後を追っていた。


男を追うこと数十分、ようやく男の家を突き止めた。

なるほど、いかにも小金持ちが住みそうな趣味の悪い大きな家だ。

二階の右の部屋、灯りが点いたことを確認して、私は一旦家に帰ることにした。

この男は残り短い人生を楽しむといい。


~王都ベルグラディス・ミュラーゼ邸~



「おかえり! 遅かったね、心配したよ」


「ただいま、シア。ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど……」


私はテュシアに事情を話し転移魔法が使えないか聞いてみた。

テュシアは頷きながら答える。


「ふむふむ、なるほど。リアは優しいからその女の子がされた理不尽な行為が許せないんだね」


「違う、個人的にあの男が気に喰わないだけ……だよ」


「ふふっ、そっか。良いよ、転移魔法、このテュシア様にお任せあれ! ではでは、転移したい場所を強くイメージしてね」


私はあの男の家、二階の右の部屋を強くイメージする。

本来転移魔法はもっと正確なイメージや座標がなければ出来ない。

だが、テュシアの魔法は目に映った簡単な記憶だけでもほぼその場所へいける。

本人に聞いてみたところ、秘密らしい。

私の足元に魔法陣が展開される。


「じゃあリア、夕飯用意して待ってるね!」


「うん、ありがとう」


魔法陣が強く光り、私はあの男の元へと転移した。

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