お仕事その3 「俺、女神召喚がいい!」

「とりあえず、チートにしてください」

「無理です」


出た。

異世界に転生すればとにかくチートれるとか思っている男子高校生。

ったく、最近はそういうラノベが多すぎるから勘違いした奴ばっかり来て大変だっての・・・。


「・・・え~、転生とくればチートじゃないのかよ~」

「違います。というかそもそも、あなた学生ですよね?学校はどうしたんですか」

「高校生+引きこもり+ジャージ=異世界転生!の、方程式しか知らないし」

「そんな公式はありませんから・・・」


舐めてんなー、こいつ。

学生の本分は勉強だろうがよ、精進しろ精進。

私だって中学・高校時代と特に大した楽しかった思い出もなかったけど、一応は引き込まらずに頑張ってきたってのに・・・。


「とにかく!俺はもう嫌なんだよ、こんな世知辛い世の中なんて!いいから異世界にトリップしてフィーバーさせてくれよー!」


ケツの青いガキが・・・。

学生が感じる世知辛さなんて私たち社会人からしてみれば砂糖にハチミツかけて食べるくらいの激甘だっての!!


「大体なんで学校行かないんですか!周りはみんな頑張ってるでしょ?」

「・・・何も知らないのに、諭すようなことを言うのは止めろよ・・・。俺だって、最初からこうだったわけじゃない」

「あ・・・、その・・・すいません」


教師からの体罰、クラスメイトからのイジメ。

昔と違って、心の傷はすぐにできるようになった昨今。

確かに、学生も簡単には過ごせるような環境でもないのかもしれない・・・。


「・・・ふん、良い機会だ。聞いてくれるか?俺に何があったのか」

「はい・・・」

「・・・勉強って・・・いる?」

「・・・はい?」

「しんどくない?・・・そう思ったとき、俺の体は光を浴びることを拒んだ」

「はぁ!?それだけですか!?」


たっぷりとした間を取ったくせに理由それだけかよ!!

舐めんなよ、世の中の学生をーー!!

みんなそう思いつつも頑張ってんだよ!


「あー、もう、何ですかまったく!真面目に聞いて損しましたよ。理由が理由なら、ちょっとはチートの件優遇してもいいと思ったのに・・・」

「えっ!?あ、ちょっと待って、今何とかいい感じの理由考えるからっ!」

「もう遅いです!ほら、さっさといろいろと決めて行きますよ!まずは転生のパターンから説明しますので・・・」

「あ、それならもう決めてる。俺はこのままの姿がいいから召喚で!」


・・・流石に高校生。

一番ラノベとかで情報は知ってるだろうから、説明は省けて助かるけど。


「あ、そうそう気になってたんだけどさ、召喚方法ってこっちが指定できるの?」

「まぁ一応は。用意していただける費用にもよりますが」

「じゃあさ!俺、女神召喚がいい!」

「・・・女神召喚・・・?」

「そう、俺は普通の高校生。しかしある時、不慮の事故により全身血だらけの大怪我を負ってしまう。どんどん寒くなっていく体、霞がかっていく頭。最早これまでと気を失う寸前、俺は一つ願う。ああ、女神様、どうにか俺を異世界へと連れていってください・・・!すると、天から差し込む光が出現し、それは可愛い女神が俺を迎えにきてくれたのだった!・・・みたいな感じの!」


長ぇわ、この中二病が。


「あのですねぇ、そんな都合よく女神なんているわけ・・・」


あ。

・・・いたわ、一人。


「・・・いえ、分かりました。それでいきましょう」

「え、ホントに!?いいの!?」

「はい、それくらいならば、費用で何とかなりそうです」


-----------


依頼者が帰って、私は一通の電話をかける。


「はい、こちら交流課。って、レーネじゃん。どしたん?」

「ごめんね、忙しいところ。コルデールに繋いでもらえる?」

「あー、ちょっと待って。確認してみる」


交流課。

現世と異世界とを結ぶパイプ役となる部署。

依頼者の条件とマッチングする異世界を探したり、逆に異世界側からの転生者の依頼に応えたりしている。

コルデールは私と知り合いの女神の一人。

顔は美人なんだけど、他は基本的にポンコツ。


「ほい、レーネ。あと30秒で自動で切り替わるから」


本当はあんまり話したくないんだけど仕方がない・・・。


「何よ、レーネ!悪いけど世間話には付き合えないわよ。知ってるでしょ、こっちは今新しい勇者探しに忙しいの!今月はあと一件は契約取らないとまーたゼウスのクソ上司にドヤされるんだから!」

「朗報だよ、コル。その一件、こっちが用意してあげる」

「はぁ?何よそれ。どうせ男運のないアンタの紹介なんて芋臭い冴えない奴なんでしょ?そんなのいいわよ」

「ぐぎ・・・っ」


あいっ変わらず腹立つ奴・・・。

ほんっとこいつとは馬が合わないし。


「あ、そ。依頼者がとびっきり可愛い女神様に召されたいなぁって言ってたから。私の知る限りアンタくらいしかその条件に当てはまりそうになかったんだけど、乗り気じゃないならヤメに・・・」

「えぇ~、とびっきり可愛いぃ~?そんなハイレベルな条件出すなんてその転生者もわがままねぇ~!そんな条件、私ぐらいしかいないじゃぁ~ん」


・・・ふ。

女神もおでてりゃ木に登る。

こいつは嫌いだけど、ちょろいから重宝はしてる。

・・・にしても好き勝手いいやがって・・・。

いつか格好いい彼氏作ってやるからな・・・覚えてろよ・・・。


次回に続!


【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、召喚された人は現世ではどうなるの?

A、転生と違って、召喚は肉体ごと異世界に送りますので現世に体が残りません。ですので、現世の住人からしてみれば、召喚者は突如として消えたことになります。それでは現世の者に不要な影響を及ぼすので、召喚者に関する記憶をすべて消去するか、召喚者の死体を偽造して事故死したかのように見せかけます。

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