お仕事その8 「そんな普通の女の子に」

「ちぃーっす!」

「ち、ちぃーっす・・・」


何このガキ・・・。

年上に対する挨拶がまったくなっちゃいないんだけど。

今日のお客様は私よりもずっと年下な中学生くらいの女の子だった。


「えーっと、現在13歳で・・・大学4年生!?」

「あ、飛び級っす」

「あ、そ、そうですか・・・」


21歳、レイン・アーワル・カーネーション、高卒。

13歳に学歴で負ける。

・・・天才っているよねぇ・・・はぁ。


「ウチ、小さい頃から何でもできちゃって。人生イージーモード過ぎてつまらないんすよね~」


チートがぁ!

異世界転生する前からすでにチートってんじゃねぇよ、もぉ~!


「だから現世こっちで生きててもどうせありきたりな人生なので、異世界むこうに飛んじゃおうかなぁ~って思って」


いやそんなだったら別にこっちで余裕な人生送ればいいじゃんかよぉ~。

私があんたくらいの歳のとき、何事も上手く行かなくてどれくらい苦労したと思ってるの!?

こうなったら異世界移住計画を頓挫させるしかないな・・・。

決して私怨とかじゃなくて、コーディネーターとして、今後のこの子の人生及びこの国における影響とかを考えてだからね!


「そのー、異世界転生といってもタダでできるわけじゃなくてですね、お金も相当な額が必要に・・・」

「あー、全然問題ないっすよ。ウチ、いろんな功績とか実績とかで、寝ててもお金が湯水のように入ってくるんで」


うぐ。


「えーと、あなた様みたいな凄まじく影響力のある方が急に消えたら、世界が大きな混乱に陥ってしまうと思うんですが・・・」

「またまたぁ!その混乱を防ぐのがあなた方『転生管理局』の仕事じゃないっすか!ウチが消えたくらいで世界に波紋が起こるなんて不祥事、あなた方が起こすなんて微塵も思っちゃいませんよ」


うぐぐ。


「こっちでは上手く行っていたかもしれませんが、向こうではそうとは限りませんよ!というより、井の中の蛙大海を知らずと言った感じで、何もできずに挫折を味わうかもしれませんよ!」

「挫折!それはいいっすねぇ!ウチが今、一番味わってみたいものっすから!」


うぐぐぐ~!このクソチートがぁ!!

ぜんっぜん勝てる気がしない!一言ったら十返ってくるよ、これ!!

・・・はぁ、もういいや・・・。

私は私の仕事しよ・・・。


「・・・かしこまりました・・・。でしたら、まずはプランの説明から・・・」

「あ、問題ないっす。事前にすべて把握してきているんで」

「そ、そうですか。流石ですね・・・」

「ウチは、異世界転生でお願いしたいっす!」

「え?」

「・・・?どうかしたっすか?」


彼女の一言に、思わず私は聞き返してしまった。


「て、転生でいいんですか?てっきりあなた様は召喚を選ぶのかと・・・」


召喚であれば、今持っている才能すべてをそのまま異世界に送ることができる。


「いいんすよ、転生で。言ったじゃないっすか、ウチの人生はすべてイージーモード、やろうとしたことは、すべて簡単に出来てしまう。周りの人はそれを羨ましいだ卑怯だ言うっすけどね、本人からしてみれば、これほど味気ない人生も無いんすよ?」


彼女は今日、初めて悲しそうな顔を見せた。


「だから、異世界転生の条件としては、年齢は今くらいのままでいいんで、普通の女の子としてウチを転生してほしいっす。努力しないと前に進めない、そんな当たり前な普通の女の子として。普通に失敗して、普通に挫折して、そして、普通なことが努力を重ねてできたとき、そのことを心から喜べるような、そんな普通の女の子に」

「・・・かしこまりました」


今まで、ハーレムを築きたいだ、メス奴隷になりたいだ、そんないかがわしい理由ばっかりで異世界転生したいって言ってきた奴ばかりだったのに・・・。

一番真っ当な理由・・・。


・・・何か、心の面でもこの子に負けた気がした。


-------------


後日。


「おーい、レーネ。今日の分の異聞が出てるよ」

「ありがと」


異世界新聞、略して異聞。

この管理局はあらゆる異世界をつなぐパイプ役。だから必然的に、異世界の情報は大量に集まってくる。その情報をまとめてくれているのが異聞ってわけ。


「さて、今日は何か起きてるかなっと」


私が異聞を手に取るやいなや、一面大見出しにとんでもないことが書かれていた。


「ええ!?ジエーニオ壊滅!?」


『異世界ジエーニオが新たに進軍してきた魔王によって征服され事実上の壊滅を迎えた』


朝からすごいニュースだな・・・、ていうかこの世界、この前の天才少女を送った場所じゃん!!送ってから大して日にちも経ってないのに、こんな大変なことになってるなんて!


「あの子、挫折してみたいとは言ってたけど・・・。っちゃー、何だかあの子に悪いことしちゃったなー・・・」


『魔王として君臨した彼女は巧みな戦術を繰り広げ、戦力差などものともせずあっという間に旧支配者を凋落したという』


彼女ってことは女の子なんだ。あ、魔王の写真もついてる。どれどれ・・・って。


「・・・あの子じゃん」


そこにはピースサインをした例の天才少女の笑みを浮かべた写真が掲載されていた。


「えぇぇぇええええ!?あの子何世界征服してんの!?」


まさかの被害者じゃなくて加害者側!?

チート能力をつけるなんてことはもちろんしていないし、可能な限りスペックも落として希望通りふつうの人間として転生したのに・・・。

やっぱ天才はどこに行っても天才か。

・・・それにしても・・・。


「そっか。魔王になっちゃったのか・・・」


才能溢れるものは、善悪どちらとしても非凡な成果を残すことはできるだろう。それでも悪に堕ちてほしくなかったな・・・。何だか物悲しい気分になる。


「ん、新しくなった世界の特徴も紹介されてる。どれどれ・・・」


『新たな魔王軍は定時退社・週休二日・残業なし・賞与あり・・・etc。征服した下界の住民にもそれぞれの適正に合わせた仕事を提供しており相乗効果によってよりよい世界の形成をモットーとしており・・・』


「え?」


『異世界レビューは以前は★1だったのが現在では★4.8に跳ね上がっている。ここで取材に応じてくれたジエーニオの住人のコメントを掲載する。

<初めは世界を征服されちゃって不安しかなかったんですけど、物価も安くなったし子育て制度も図ってくれたしいいことばかりです!>

<俺はもともと旧魔王軍にいたんだけど、あの頃とは比べられないくらいに待遇がよくなって驚いたよ>』


「ゆ、有能だ・・・」


・・・もしこの仕事辞めたら、魔王と知り合いというコネで魔王軍にでも入れてもらうか・・・。


【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、異世界新聞って?

A、異世界経済新聞社が書いている全宇宙最大規模の新聞です。

異世経という略称で周知されているこの新聞は、あらゆる異世界に支社を構え、日々取材に勤しんでいます。魔王や人外の敵などにも取材を行うまさに命がけの取材のため、その分、法外な購読料を取りますが、書かれている内容はどれもこれも役に立つものばかりなので、取って損はありませんよ。


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