第23話 魔王のセーブ13

「冥土の土産話にでもするんだな」





「ま、待て!命だけは助けてくれ!」





その言葉を待っていたいたとばかりに、


契約書をアトリックに即座に出させる。





「この契約書にはお前の土地を譲渡する旨が書いてあるもので」





「サインッ!サインすれば助けてくれるんだろ!」








重要な説明をすっ飛ばしてサインをご所望されたので、望むとおり





契約に際して魔界で重要な証拠として扱われる筆跡を誰のものかを


明確にするサインペンのべワイスをオプファーに契約書と共に放ってやった。





ずるずると腹這いになって

老人のような手つきでやっとサインを書いたのを見届けた。








「はあ、はあ...これで解放してくれるんだよなあ?」








「ああ。この世からな」





「!」





手のひらをオプファー共に向ける。








「話が違うぞ!!」








「契約書にはお前の命を引き換えに助けるなぞ書いてない。


 せいぜい身の保障について書いてあるのは、お前の民と親族に危害は加えない


 ことを保障することだけだ。有り難く思って欲しいくらいだな」





「!!」








有り余った魔力をこの一撃に込める。








「その小さい頭でしっかり文字を学ぶべきだったな」








「そ、そんなアアッ!」











まず、これが魔王共への復讐の一撃だ











「≪空よ、爆ぜ散れ・エクスプルディオーサ≫」








静かに唱えた魔法は、反対に轟音と共に敵を全員爆殺した。





周りに激しい煙が暴風で飛び交い、


しばらくして視界が晴れると


オプファー共のいた場所は黒煙を上げながら焼け焦げていた。





跡形も無く消し飛ばせたようだ。





風が吹いて後は焦げ臭さと黒く燻んだ雑草が残るのみになった








「陛下は優しすぎるくらいです...こんな一瞬で片付けてしまわれるとは...」








アトリックが一歩前に出て俺の横に並ぶ。


その表情は険しく、まだ焼け焦げた地面を睨んでいた。








「ゴブリン族に恨みでも?」








「私たちサッキュバス族は生気を糧と出来る上に悪魔の種族です。





 こんな奴らに遅れを取った事も、侮蔑を許したことはありません...ただ...」








彼女が風呂場にあるアメジストの様な

紫色の目で深い悲しみを湛えてこちらを見てくる。








「あなた様の今までの苦しみを思えば


 あまりにもあの者が受けた苦しみは一瞬に過ぎます...」





そう俯いた彼女の肩に手を置いてやる





「良いんだ...明確な恨みがあったのは剣の勇者だけだ。


 俺は邪魔な敵を速やかに排除する、それだけで良い。苦しませて敵を殺しても...


 もう父も母も帰っては来ない」





そう残して部下たちに後処理を任せると一足先に





浮遊魔法{フローマ}を全開にして我が城へと向かった。










勝利の夜空の月はとても細い三日月であった。


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