第8話 永遠なる白きルルーリリス

設定107


【【誰かのモノローグ:始め】】

薄暗がりの中で、いや、真っ暗闇の中で。あの部屋に戻る。

すごく暗い部屋で、キレイに整った部屋。

暗くても手探りでわかる。いや部屋の広さを私は知ってる。

この部屋のことを私は知ってる。

ただもう一度、光の下へ呼び戻されるのを待つのみ。

【【モノローグ終わり】】


来なくてもいいんだって。私たちがいれば。


ルゥリィはそんなことを言っていたけど、それはどういう意味なんだろう。

私はまだ、その言葉の意味を知らない。

でもそれはきっと、ルージュが彼女に言い聞かせたことなんだろう。

だってそれは、嘘ではないけど重要な部分について何も触れていないから。

ルージュらしいやり方だ。

「でも、嘘はついていないわ」


「ノイエ、私、別に嘘なんてついてないよ」

「え?どうしたの突然?」ノイエ。

もちろんそれはノイエの声じゃない。

え。だって。

「本当のことを教えても理解してもらえるとは限らない」

シリンジでさえない。

現実には存在しない声が聞こえる。

声は言う。

「大丈夫よ。この世界が助からなくても、ここの世界の人たちを助ける方法はあるの。前にも、そう言ったでしょ」


鏡の中にあの子がいる、黒い影の女のコ。

(もう黒い影じゃない)

喋らないのはずっと昔に確認した。

(いま喋った)

怖かったのはずっと昔に卒業した。

(+++++++)

今日も確認しただけ。ごくろうさま。

(こっちに来るな!)


条件はすべてがそろう。


現実感はまるで演劇の世界のお芝居のように。

これはいつもの非現実感とは、まるで違う。あのときは遠ざけられた、これは、

気づいた。


「きいちゃん、だいじょぶ?」

「大丈夫だよ」

私は心配させないように、笑顔で答えるけれど、あまりの現実感の無さに吐き気がした。


設定W108


ライトアップ。

その船が宇宙でもっとも速い船だったか記憶にない。

記憶に残ってるのは世界が滅びる時、自分ひとりだけ救命艇に入れられたこと。

そこまで。

きっと私は幸せだったとおもってる。

信じているのかもしれないが、大切なのはそこじゃない。

覚えているのは落ちた時から。

ずっと1人ぼっちだった、生きていくことには困らなかった。

救命艇は完全だった。

私が永遠と思える時間、というより本当の永遠を生きていくのにこれ以上の何が不足であろうか。十分すぎるほど永遠の生命維持能力。

ただ。

私は孤独だった。

自分が何のためにここにいるのか分からなくて。

それは狂気だったのかもしれない。

私は船の出力を使い世界を創った。

私が孤独にならないためのそれは機械。

私が不幸であることを間違っても思い出さないようにするためのそれは世界。

私の宇宙は本当は救命艇のちっぽけな部屋がすべてだから。

すべて忘れてしまえるように。

その白い部屋の壁にぐりぐりと絵を描く。

私はだって幸せだから。

絵の中で生きているモノたちは自分たちがとても広い世界に住んでると想ってる。

でも本当は私のまぶしい寝室があるだけ。

絵を描いた私は満足して部屋の真ん中で眠る。

そして私も絵の中で、

絵の中の世界に生きている夢を見る。


「覚えてる?」

共通の記憶。太古のギーメのごく限られた微かな名残り。記憶の化石。これが最後の1ピースかもしれないとされている。ルージュは嗤う。それが神さまの創った世界。そんなのはただのおとぎ話よ。

私は場違いな質問をした。天国って何?

「ここではないどこかよ」

私は気づく。

ここが天国なんだ。傷つけるかもしれない。

ブラックアウト。


設定109


宇宙の神は冷酷でした。

神は宇宙のことごとくの生命に死ねと命令なさいました。

逆らうことは許されません。

しかし実行する前に神の心は砕けバラバラの記憶になって散りました。

それゆえ宇宙ことごとくの生命には神の記憶が宿ることになりました。

神は眠っています。

記憶のすべてが取り戻され選択の自由が取り戻されるその日まで。

目が覚めれば再びことごとくの生命に。

死ねと命令なさるでしょう。

それゆえお互いを決して理解できないように。

心はそのために造られました。

どうか永遠にわかり合えないままで、ありますように。






でも、あなたはたどり着きました。

私の世界に。

おめでとう。いえ、              可哀想に。


設定110


薄明の中でよくわかるのは部屋があったということ。

それはすごく暗い部屋で、でもキレイに整った部屋。

これは。私が目覚めているときに見ているものだろうか。

それとも心の中でこんな部屋を作り出しているのだろうか。

手探りで進んでいくと、スイッチを見つけた。

不思議だけどこれが部屋の灯りのスイッチだとなぜか確信できた。


それはとても柔らかかった。


パチリ。






















白い部屋があった。

それは白くて四角くて清潔そうな1つの部屋だった。

数多の数のボタンで留められた白い室内着。ひらひらと右前方と左後方に2枚づつ流れ落ちる垂れ衣。私の意思に従う第2の皮層を身にまとう。

私は知ってる。

この部屋には引き出しがとても多いことを。

引き出しをすべて出せば通路、いや迷宮のように広がるということを。それでいて決してどこかにつながっていることはないのだということも。

私は知ってる。

この部屋にクレヨンや色鉛筆やありとあらゆる画材があって、壁に好きなだけ落書きしても良いのだということを。そしてそれを消すのも手をひと振りするだけでできるということも。

シリンジもエリアティッシュも能力者バトルも、クレヨンで壁に書かれた設定だからあの現実にありえるのだということも。

私は知ってる。

部屋の真ん中に大きなベッドがあって、落書きに飽きたらそこで眠ればいいことを。

そうすれば自分が描いた落書きの世界で生きて死んでゆくという、つかの間の夢を見ることができることも。

私は知ってる。

部屋のどこかにカード入れがあって、その中にすべての歴史が無限に書き溜められていることを。

ほら、こんな具合。


#設定1

想像してごらん?

400年ほど下らない人生を、ものすごく無意味でゴミみたいな人生を生きて。

以下略。


#設定35

ガチャリ。

ドアが開いた。

私はすんでのところでいちばん近いロッカーに隠れる、いちばん奥のではなく。

以下略。


特定の人たちに至ってはしばしば、名前が記号で省略されている。

まだ名前を決めてなかったから。

道理で名前を覚えることが出来なかったわけだ。

【うまく思い出せたね】


私は私は私は…………。私は………………………………………… …。

私はお化けじゃなかった。

私はただの人間だった。

久遠という言葉も虚しくなるほど長い時間をずっとひとりぼっちで生きている、ただの人間だった。それをまだ人間というならば。


夢だった。


ぜんぶ夢だった。


ノイエもルゥリィ・エンスリンも黒幕さんもオクファさんもシスカさんもロザリ・アン様もお母さんも、……灰人も……、すべて実在しない。

私の妄想だった。

この宇宙には最初からわたし1人しかいなかったのだから。

涙も拭けないよ。

だってこの涙は銀色に固化した粒になって床に散らばるだけだから。

もともと人はなべてそのようなものなのだ。蹄の足に冷たい瞳。

でも、泣いた。


「その中には私が入ってないじゃない」

ありえないその声に振り返ると、そこに姿見の鏡があった。そこに映る姿は。

「ルージュ?」

「久しぶり。有限なる黒きノワール」


設定111


今、鏡と思ったのよね? でもそれは正確じゃない。正確にはあなたが鏡なのよ。

「そんなこと。ないよ」

そうかしら。影の子供よ。だってあなたの手足は左右が逆についているじゃない。

「ほんとだ、って、そんなのっ、分かんないよ、ひどいこと、言わないで」


ルージュが少しだけ笑ってくれる。でも違うな。この人が本当に笑ったところは実は見たことない気がする。

「落ち着いて。冗談よ」

ほら。乾いてる。


でも、この喋り方は少し変だ。

この部屋では会話のルールがそもそも違う。


########


そうでしょうとも。ここには1人しかいないからね。

そうね、まず第1に、久しぶりって挨拶の仕方がそもそも間違ってる。

本当は私、あなたと初対面だもの。

でもずっと昔、あなたそっくりの子に会ったわよ。

彼女は私の言葉を聴かず、ここから出て行った。

でも遠い未来で考えを変えて、あなたをここに送り込んだ。

彼女は自分のことをルージュと呼ぶようになった。

私は、というと、ずっとここにいるだけ。

でも、同じ私なんだけどね。

私にはルージュの記憶があるから。

だからそうして起こった出来事のすべてを私は知ってる。

というか私がぜんぶここでお絵描きしたことだからね。

知ってるのあたりまえ。

でもあなたから見て、私はルージュと言ってよい存在でしょうね。

なぜなら理由も目的も同じだから。


エレベータホールでの裏切りについて解説しましょうか。

アクリタイスは過去侵攻作戦について自分たちでは決断できなかったの。

せっかくのタイムエレベータなのにね。

だから背中を押してあげた、ギーメが1人過去世界へ旅立ってしまえば、それは彼らにとって最悪の事態、もう逡巡してる場合じゃない。

そう言ってかどわかして、過去への扉を私たちに優先的に使わせてもらった。

その過去世界で必要なものを探すことが出来るようにするため。

過去に行かなければならなかったのは探すことが目的。

何を探したかについては後で説明するわ。

ちなみに、あなたのお母さん、ポイズンリバースは協力してくれるグループの1人だった。かなり積極的に協力してくれたわ。灰人が脱落したのは想定外だったけれど、でも全体的にみて、あなたたちはかなり安全だったのよ。そのあとにあの子も過去に降下させる必要もあったからね。あの子は少し、黙らせなければならなかったけど。

ポイズンリバースには、過去に行かなければ楠本生糸を治せない、とはったりをかけておいた。もちろん嘘だけどね。ポイズンリバースが悪魔憑きだと思ってる楠本生糸の性格の変化はただの成長。時間的に不連続であるだけの。あの世界の楠本生糸は自分でなくなったわけじゃない。膨大な過去の記憶を手に入れて価値観が変わっただけ。彼女はある日、とても長い時間を生きてきたギーメを継承して、その記憶を引き継いだ。

彼女はルージュになったの。


ショットモルフとギーメが共存できる理由も説明しましょうか。

前に言ったでしょ。

故意に同期を外せば、何人も詰め込めるって。

ショットモルフの、光学力繊維の原料はいわばギーメの死体から作られる。ブラッドプロセッサの成れの果て。もちろん私がそういう風な設定にしたのだけど。


あなたがルゥリィのシリンジに抵抗できた理由も話しましょうか。

世界の創造者に上書きをかけたら、世界に上書きした結果が反映されるのが当たり前。

だから、私をシリンジで上書きすることは、自分自身をも上書きすることを意味する。

だから、私を上書きすることは出来ない。私たちだけがシリンジへの自動反撃権を持つ。


え、私がルージュであるのがおかしいって?

ルージュがここに来れたはずがない。

ルージュがここに来れなかったら私がルージュのことを知っているはずがないって?


それはね。

私がすべての設定を作ったから。

あの世界の出来事はすべて私が考えたことだから。

だから私が知ってるのは、当たり前なの。

ルージュはとても良い子だったわ。

きっと私に強く影響されたのでしょうね。

いえ、私が、ルージュになったのでしょうね。

私こそが、本当のルージュだったのでしょうね。

今の私こそが、ルージュの本質そのものなのでしょうね。

世界を救済するために。


設定112


ようこそ。ルルーリリスの小さな世界へ。

彼女は滅亡した宇宙のたった1人の生き残り。

彼女の過ごす部屋、繭の間、それがこの宇宙の全て。

目に見える銀河やヴォイドなどは、全部この繭の間の壁に描かれた、ただのいたずら書きに過ぎない。

消し去るのも書き足すのも自由のままに。

なんとなれば、あなたは神なのだから。

気が狂うより永遠に1人ぼっちなままの女のこ。

おかえりなさい。ずっと待ってたよ。


1つ、訂正。

1度作ってしまった設定を取り消すのって、かなり難しいのよね。これ。

私の固有の記憶がこうも散らばってしまった今となっては。

部屋に私だと認証してもらえないからね。


設定113


そんな怖がらないで。今は中断しているだけよ。

眠ればまた始まる。ほら間違って停止ボタンを押してもすぐ再生ボタンを押せば元のところに戻るでしょ。それと同じ。安心した?

え? もうそんな機械ないって?



( あの世界はみんな嘘だったの? )


いいえ、嘘ではないわ。

心から嘘ではないとそう言えるわ。

たとえ演算された宇宙であっても、それは本当に実在する宇宙だと私は信じる。

他の神がどう言おうと、私は信じる。

どうして作り物の宇宙だったらいけないと思うの?

私たちは何を見てきたの?

私は知ってる。

あの世界にあったことはみんな大切なことだった。

あの世界は真摯だった。

それだけで充分よ。

だから泣かないで。


( 私が2度と世界を再生しないという狂気に陥らなかったのは、後から考えるとこの彼女の言葉があったからだ。もし彼女がこの時こういう言い方をしなければ、世界はここで終わっていた。でも終わらなかった、この時はまだ。この話にはまだ続きがある )


設定114


すぐに元の世界に戻れるから安心して。

ただ、戻る前に変更したい箇所が1つあるだけ。


私からの提案。


私たちはすべてをやり直せる場所に立っている。

これまでのすべての悲しいこと、嫌なこと、気が狂いそうなこと、悪いこと、みんな無かったことにできる。

当然でしょう。宇宙が記録メディアでしかないなら必要ないところを切り取ればいい。

私たちだけが死んだ人たち、いえ殺されたすべての人たちを救うことができる。


話し合いましょう。私の目的はひとつだけ。

この宇宙をリセットして決して生命の発生しない可能性宇宙へと切り替える。

なぜなら、生命は邪悪だから。

生きることは邪悪な行為だから。

生きることは暴力だから。


だってそうでしょう。

生命が存在したから殺戮が存在するようになった。

尊厳が存在したから階級が存在するようになった。

自由が存在したから支配が存在するようになった。

希望が語られた時から他者から希望が奪われるようになった。

あなたもまた、他者の命と希望を奪い取って今日まで生きてきたのでしょう?

それを責めるつもりはないわ。

昨日まで、それは仕方の無いことだった。

明日からは違う。

生きようとする希望こそが、他者の命をただの資源と断じての殺戮を肯定し、数多の世界を不幸にして破滅させてきた原点。

だから元から断ちたいの。


そう、もちろん私も1個の生命としてこの世界で生まれてきたものだから、生命を否定することは自己をも否定することにもなる。

でも私はここで起きたことを知ってるわ。

体験として理解できる。そしてそれはあなたもでしょう。

私たちは共通の認識に立てると考える。どう?


( 頭の中がぐにゃりとゆがんだ。

頭の中でぐるぐるイメージが勝手に湧いてくる。

ブレーキが掛からず、止めることもできず混ぜ合わされていく感情。

憤怒、悲哀、後悔、憎悪、慚愧、失望、軽蔑、嫉妬、忘却。

それは悲しいイメージばかりで。

それは私が見てきたもので。

ずっと見てきた悲劇だった。

それは私が誰よりもよく知ってる世界のお話。

でも何とか反論を試みる。

ここで同意することは、そんな世界でそれでも生きてきた人たちへの裏切り行為だ。

これまで私を助けてくれた人への裏切り行為だ。

ノイエを裏切るわけにはいかないもの。

でもそれは自分の夢の中の登場人物でしかない。

自分の妄想に依存する私 )


( いやだめだ。しっかりしろ私。

こんな詭弁に騙されるな。なにか論理に穴があるはずなんだ )


( そうだ、この話には、どこか違和感を感じる )


( なぜ今になるまでやらなかったの?

なぜ私なの? 

なぜ私を見つけてここに入ってくるまで待っていたの? )


なぜなら、私が知ってるタイミングはこの時しか知らない。

ここに来た姉妹は、あなたしか知らない。

あなたがここに来れることは知っている。

現に1度来たことがあるのだから。

だから、もう1度同じ条件をそろえてあげればいい。

その条件はすべてそろえた。

だから来れた。そういうこと。


敢えてよりもっともらしい理由を言うとすれば。

ここに来るにはブートキーメモリーを一定量まで集めなければならない。

すべては必要ない。せいぜい10個くらいかしら。

あなたは、言うまでもなく、かなりのブートキーメモリーの所有者よね。

どこで手に入れたかは、私にはどうでもいいけど。

そして、あの子も、十字聖痕しか持っていなかったわけじゃない。

使い道さえよく分かっていないものを、いくつか持っている。

それでも、どうしても欠けてるピースがあった。

私の時代、いえルージュの時代では手に入らない完全に失われたものであるということ。


ブートキーメモリーの性質上、消滅はありえないので、どうやってか隠した、のでしょうね。場所を、あるいは時間を操作することで。

探せばいい、なんて言わないでちょうだい。あの世界は、想像を絶するほど破壊されているし。ましてメソッドによって隠されたものを、探し出すなど、到底不可能。


でも以前は来ることができたのだから、同じ状況を再現してやればいい。

可能性としては決して良いものではないかもしれないけど、あきらめるよりはずっとまし。

答えは実に簡単だった。私は実際にタイムエレベータを2回も使ったことがあるのだから。失われてしまう前に戻ればいい。

そういうこと。


( あっさり論破されてしまった…… )


設定115


そもそも、なぜあなたはルゥリィ・エンスリンに勝つことが出来たのかしら。


ルゥリィが最後の攻撃をしかけたとき、

あなたはなぜ、彼女をただ受け入れるだけで勝てたのかしら?


すべての状況は、ただひとつの答えだけを指している。


( このひとは何を言ってるのか。

でも、そんなことは当たり前だ。

そう、当たり前なんだ )


( ルゥリィ・エンスリンは偶然に助けられた朱毛の少女ではない )

( 彼女もまた必然によって助けられた )

( なにより、私はルゥリィを、決して殺したり消滅させたわけじゃない )


なぜ消滅させていないと言えるの?


( それは )

( 私がここにいるから )

( 私がかつてルゥリィ・エンスリンと呼ばれる存在だったから )

( そして、いずれ私がルージュと呼ばれる存在におそらくはなるだろうから )


( なぜルージュがノワールを助けたのか。なぜノワールが選ばれた「私」なのか。

ルージュはあの日、あの時、ノワールがいることを知っていたからだろう。

だから助けることができた。

なぜならルージュがノワールの未来だったからだ。

そしてノワールがルゥリィの未来なのだ。

当然、ルゥリィが過去に戻らされた理由もそれだ )


あなたがルゥリィの未来なのよ。

そしてルージュがあなたことノワールの未来でもある。

あの日、あの時、あの場所に、あなたがいることを知っていた。当然そうでなければあのタイミングで助けることは不可能なのよ。

そしてあなたもルゥリィがあそこで死なないことは理解していたはず。

何より死なせないようにしないと、あなた自身にも影響を及ぼしてしまうのだから。

そしてあなたの未来が、何をどう選択したのか、もう知ってるはず。


( 私がルゥリィに勝つことが出来たのは当たり前。

私は彼女の未来なのだから、追加するだけであれば、記憶の合計は自動的に今の私と同じ存在になるはず。

消滅したのではない。

思い出しただけ。

未来の自分を思い出したから、ノワールが残った。それだけ )


( それだけ )


設定116


さ、これでもう分かったでしょ?

悲劇は何度でも繰り返されるって。


あなたは同じ惨劇をただ何度も繰り返せと言われて耐えられるのかしら?


仮にあなたが良いとして、

他人にそれを耐えろとそう言える?


すべての悲劇が始まる前に原因を消滅させる。

悪いことは最初から何も起こらなかった。

すべては悪い夢だった。

それがいちばん幸せな答え。


手をくださないのは罪を犯したのと同じこと。

ここで終わらせなければ永久にそれを繰り返すだけ。

私はそれをこの目で見てきた。

あなたも私なのだから当然知っているはず。

何度も何度も結末を語るものさえ誰も残らなかった世界を。

結局は誰かが悲しむだけの世界なら、そんな世界はこの宇宙に必要ない。

誰かが悪夢の中に堕ちて消えてなくなる、そんなハッピーエンドを私は認めないし許すつもりもない。

矛盾してると言われるのは仕方がないかもしれないわ。

とどのつまり私もそんな生命の1つでしかなかったのだから。

でもこれが私の目的。私の意味であり理由のすべて。

さあ、これで必要なカードはすべて見せた。

あなたの答えを訊きたい。

誰も憎しみあわず、殺しあわず、裏切らず、利用されず、失望することもない。

ただ在るだけの世界を。


私とあなたの記憶がつながれば臨界量に達する。

私は目覚め、記憶と意思をとりもどし、全能を回復する。

それで始まりまで巻き戻して物理の法則を捻じ曲げる。

たったそれだけ。

1秒もかからずに世界は替わる。


悲しいだけの人生なんてもう見たくないでしょう?

だから、私たちの手でやるべきなの。


( 頭の中がぐるぐる回転。

悲しいから終わらせるのはきっと違う。

そう誰かが胸の中で叫ぶけれども、でもその胸の奥はとうの昔に潰れてしまって声が出せない。

それにきっと本当は知ってるんだ、私。

たとえあの世界で生きていくことを選択したとしても。

自分がこのあとどうやって生きていくのか、未来を知ってる。

どんな結末を迎えるか。

どんな最期になるか。

ハッピーエンドはここにはないんだよ。

だから、言い返せない。

反撃できるだけの理由が私の中に何も残ってない )


そう。

ここで選択できなければ、あなたは耐え難い苦痛と絶望の中で死んでいくことになる。

私はそれを経験として知ってる。今はあなたもそれを知ってるはず。

これが最後のチャンスよ。

せめて優しい終わりにしたいならそれを選びなさい。

神様は私たちを見殺しにした。

だからこの世界をまもってあげる必要はもうないの。


設定117


このようにして、世界と鏡は入れ替わった。

ここからは、地の文が私になる。










ところで、私はここへ来たときに、他にも様々な記憶を引き出しの中身を見た。

たとえば、こんなの。


#設定265


知ることはいいことなんだよ。

本当は悪い知らせとかこの世の中にはないんだよ。

こうやってずっと他の生き物を殺して生きていくの。

いつかは私が殺される順番がくるの。

それでおしまい。

でもそれは祝福なんだよ。

ずっとそうやって生きてきたんだよ。

だからこれからもずっとそうやって生きていくの。

不幸な人生なんてそんなの嘘の言葉だ。

もしその人の人生が悲劇に終わったとして、悲劇のどこがいけないの? どうどうと胸を張って滅びればいいじゃない。

たとえ悲しみの中で死んだとしても、それは本当は哀しい終わり方じゃないの。

だってまだ信じてる。

いつも希望を持って終わりになるんだよ。

ここで起きたことはきっとまた繰り返す。

悪いことが何度も繰り返されるのと同じように、良いこともまた何度も繰り返されるのだから。

#END


あるいはギーメになる前の私の物語。

#設定 -17654543


私の寿命は人よりとても短いの。

だからほかの人よりその分だけ一生懸命に考えないといけない。

何のために生まれてきたんだろうとか。

何を想って生きていけばいいんだろうとか。

で考えた。

ただ幸せに生きていくだけならきっと私にとってその人生は意味がない。


叶わない場所に手を伸ばすのが私の使命。

いずれ砕け散る夢を見るのが私の理由。


だってそうしないと、みんなきっと諦めることを覚えちゃう。

叶わない夢は価値のないもの?

いいえ。

夢を望むものがいなければこの世界は冷えきって、誰も生きていくことができなくなる。

だから私にできること考えた。

人魚姫のように、イカロスのように、あのお話は本当はバッドエンドなんかじゃない。

最初から何も語られない物語が最悪の本当のバッドエンド。

最初から何も望まないことがいちばん残酷なバッドエンド。

だから私にできることは夢を抱いて堕ちること。

それをほかの人たちがよく見れますように。

希望を抱いて飛びたつ最初の勇気を持ってもらうために。

いつだって最初の1歩がいちばん重いから。

100人の死んだプリンセスがいてはじめて、最後の本当のプリンセスが生まれるから。

だから、私は誇りを胸に、最初の1人目のプリンセスになろう。

みんな、私の死体を踏んでいけ。

きっと、この向こう側に。

#END


ブートキーメモリーは、私から切り取られた、私の記憶のかけらだ。

それらの中には、悲しい話もあれば、そうでない話もある。

私は、自分ではもう忘れたはずの記憶を、そうやって読んできた。


その中には。


#設定118


それなら……………………………… 私は苦しい方がいい。

痛いほうがいい。

だって生きるってそっちのほうだもん。ずっとそうやって生きてきたんだもん。

そうだよ。

本当に私の人生には何もなかったの?

誰かから優しくされたことなんて1度もなかった?

そうだとしても、それは優しさがないことじゃなかった。

ずっと見てきたはず。

ずっと憧れてきた。

手が届かなかったかもしれない。

これからもきっと手が届かない。

でも憧れたことは間違ってない。間違ってなかった。

あれを消したくない。

その代価が未来永劫つづく苦痛なら喜んでその罪を身に受けます。

だって苦しいことや痛いことや悲しかったことが私の短い人生ではとても大切だったから。

#END


これは、私が考えたことだ。私が感じたことだ。

今でも、このときのことをはっきりと思い出せる。思い出した。

そうだ、私は、

別にかまわなかったんだ。

気にしてなかったんだ。

幸せになることは、そんなに重要なことじゃなかった。

私が望むのはハッピーエンドじゃない。

もっと大事なものがある。


設定118


それなら……………………………… 私は苦しい方がいい。

痛いほうがいい。

だって生きるってそっちのほうだもん。ずっとそうやって生きてきたんだもん。

そうだよ。

本当に私の人生には何もなかったの?

誰かから優しくされたことなんて1度もなかった?

そうだとしても、それは優しさがないことじゃなかった。

ずっと見てきたはず。

ずっと憧れてきた。

手が届かなかったかもしれない。

これからもきっと手が届かない。

でも憧れたことは間違ってない。間違ってなかった。

あれを消したくない。

その代価が未来永劫つづく苦痛なら喜んでその罪を身に受けます。

だって苦しいことや痛いことや悲しかったことが私の短い人生ではとても大切だったから。


設定119


( そうなの? 本当にそうなの?

忘れてしまったかもしれないけど、

私があなたの未来なのよ。

ええ、もちろんあなたは否定を選ばなかった。

だからこそ今の私がここにいるのだけど。

でも私は選択を間違えた。今ではそう思ってる。

その意味が分かる? )


( もしあなたが否定を選ばなかった場合は )


( あなたの未来に待ってるのは絶望だけなのよ? )


( ここに私がいることがその何よりの証明 )

( それでも生を選ぶの? )


設定120









だって私は、


悪魔だから。


私がこれから苦しくて惨めでつらい人生を送り、誰も知らない結末を迎えたとしても、たとえ………私が最後に生き残った1人で、

ただひとりぼっちのまま、いなくなることしかできなくても。

変わらないものもあるって分かったから。それがいつまでもそこにあるって気づいたから。


生は死の子供。

無数の死と不幸と悲しみに支えられて、はじめて希望や信頼や愛が私たちの空に輝くから。

だからごめんなさい、私は罪を犯します。他の生き方が選べそうにない。


いえ、望まない。

もう決して望まない。

どこか遠い天国で幸せになることを私は望まない。

だってそんなの嘘の望みだ。

どちらか選べるならどうか迷わずに苦痛のある方を。

もし天国と地獄とどちらか選べるなら、どうか、ためらうことなく地獄のほうを、


( 待ちなさい、まだ話が! )


選べますように。


設定121


残酷な世界を そのまま愛そう。


設定122


ガラスの底が割れた。


視界に真っ白なひびが入っていく


そのまま、すさまじい速度であの部屋から離されていき、

距離がものすごい速さで増えていき。

私が数多に分かれていって、私が描いた落書きの中にひとつに戻る。

ルージュの姿、鏡の中の自分自身は、

もう、見えなくなった。


私は天国から下の世界に落っこちた。

そこでずっと、苦しみ続けるために。

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