第27話 本当の偽物だと言えますか?

「クローンはオリジナルの偽物なのか……この話からすっか。孤児になった俺は靴やら服を修理する店を構えた結構いい女に拾われ、その店で使われてる技術を叩き込まれ、安いものから高いものまで針を通したり、頼まれた通りに服を作って来た……もうあの女と同じくらいの腕前にはなったんだが……まぁ治安の悪い国だった、店は戦火に包まれ女ごと燃えたよ。そんな俺が手に入れた技術で何とか生き延びようとして手を出したのが……ブランド品の偽物作りだ。偽物は本来のものより安い素材で見てくれだけマネたもんだ……そして本物と同じ値段で売れた日には大成功よ。これを美術品でやると贋作って言うらしいなぁ……つまり俺にとっちゃ偽物とは本物を前提とする劣化品だ……本物には絶対に全てが届かねぇ。ところがクローンは偽物でも贋作でもねぇ……複製だ。ブランド物のバッグを素材も仕上がりも構造も全て同じに作っちまったら、そいつはもう偽物じゃねぇ……商品としての価値が全く同じ……本物だ」


 ゴードンが身の上話も交えてそう言ったけど茶遠一は黙って聞いてるのでゴードンの語りが更に続きます。


「しかもこの世には複数の遺伝子情報の合成結果を予測したデータをを元手にした人間の組成全てをマジで完全に作成する全自動装置までありやがる……おまけに遺伝子情報が正しければ元手の遺伝子も要らねぇって代物だ……そんな機械によって生まれたものが人間かって聞かれた日にゃ、俺は人間だと答えるしかねぇ……全てが人間と同じもので出来てるなら何ひとつ人間との差がねぇんだよ……そんなのもう人間じゃねぇか。どんなに見てくれを人間に似せても結局は機械で出来てるアンドロイドとは別物だ。生物学的な観点とか俺にはさっぱりだが本来複製とは、何処ぞの輩が創造した価値あるものに対して用いる概念だ。クローンはオリジナルにとっちゃ自分の偽物に見えるかもしれねぇ……だがクローンから見れば、そいつの身体は余す所無く……本物の人間だ」

「私は……偽物じゃない?」


「あぁ。そもそもクローンはオリジナルの複製だ……人間であるオリジナルが命を持ってるんならよ、その命もクローンに複製される事になるんじゃねぇか? 俺は命ってものはあると思うぜ……失うって事が起きるんだからよ。それにお前の家族は自分たちがクローンになってでも、お前っつう娘の存在を諦めたくないが為に、二度もクローンに手を出したんだぜ……何だかんだで愛されてるんじゃねぇのか? 形はどうあれ、今日までずっとお前を育ててくれたんだ……普通に家族じゃねぇか」


 せっかくなので銀行強盗でオリジナルの茶遠一が人質に取られた時、強行突入が決まった際の両親の言葉を再現……発言は母親からだけど、内容は結構要約してて口調は実際とは異なってるかもです。


「あの子に、いい思い出をたくさん残して欲しくて旅行に来たのに……こんな事になるだなんて」

「生き残っても、こんな思い出……子供には辛過ぎるだろう」


「記憶消去サービス……お願いしてみる?」

「バックアップ保険には入ってる……オリジナルでもその設備が利用出来ないか……掛け合ってみる価値はあるな」


 結局、オリジナルの茶遠一は死亡し、記憶消去に関してはクローンに適用する記憶データの範囲を少し削るだけで済んだんだけど……茶遠一が生きてれば保険会社に無理を言ってる茶遠一の両親の姿は間違いなくあっただろうね……


 あとセールス側はベータと見るや、医療保険や火災保険のノリでバックアップ保険の加入を勧めて来るし、顧客も本当に利用するとは思わずに登録してる場合も結構あります。


 せっかくなのでこの要約も……


 3人目の茶遠一が事態に気付いて両親を問い詰めた日……両親はこんな感じの事を言ってたよ……発言順は父親、母親です。


「お前がいるこの家庭を……失いたくなかったんだ」

「貴方がいないと……もう私達とは言えないの。記憶をインストールされた状態で目覚めて人生を続けますかって言われたら……続けるしかないじゃない」


 さて、ゴードンの発言の途中だったね……ゴードンが更に言います。


「だったらお前が何なのかって答えは単純だ……お前はただの人間だ。両親に愛されて育てられただけの……ただの幸せもんだ! ……さて、気が付けば挟み撃ちか……おら、話は終わったぞ。その嬢ちゃん逃がすまでは無抵抗でいてやるよ……さっさと連れてけ」


 茶遠一がゴードンの意見に圧倒され何も言えずにいるのを他所に茶遠一を乗せたブロッサムはその場から離脱し……新たに現れたブロッサム2体の間に焔陽がいる状況になる。


 茶遠一の機体が遠ざかったのを見てゴードンが言った。


「さて俺はこの街並みをぶっ壊しに来たんだ……武器が無いならしょうがねぇ」


 そう言うとゴードンはダッシュローラーの起動を行う為の操作行為の手前まで……横着してレバーに手を掛けたと言っておこうかな、実際は違うけど……


「ったく……バックアップクローンの保険費用なんて貧乏人にゃあ頭おかしい額になるんだぜ……それを家族丸ごとって……見せ付けてくれるじゃねぇか。俺は金持ちが嫌いだ。俺が持ってねぇもん全部持ってやがる……安い素材でどんなに頑張って作っても、高い素材で作ったものには敵わねぇ……貧乏人がどんなに頑張っても金持ちにはなれませんって言われてるような気分になっちまう……何でもいいから金持ちどもにデカイ泡の1つや2つ吹かせたくて俺は今こうしてるんだ……金持ちってもんをぶっ壊してやりてぇ……だからって金持ちどもをブチ殺しても、金持ちどものいる世界を台無しにしても何にもならねぇってんもは判ってる。こんなのはただの幼稚な行為だ……要するに俺は図体だけがデカイ――」


 ゴードンの言葉だけど小声過ぎて、焔陽から音声が発声されてると言えるかは怪しい……レバーの例えを続けよう。


 すぐ傍の建物に体当たりする事を決めたゴードンは焔陽の右拳を大きく振りかざすとレバーを押してダッシュローラーを起動……


 ゴードンは荒々しいまでに声を大きく昂らせ、こう叫んだ。


「ただのガキなんだよぉおおぉおおおお!」


 その直後、前後で構えてたブロッサム2体が焔陽のコクピット部分目掛け、40ミリガトリングを掃射……装甲は貫かれ弾丸はゴードンの体にも届きます。


 というわけで死ぬ間際のゴードン・スタークの台詞を紹介……心の声を拾う感じなので喋って無いけど。


「まぁ、こうなるわな……そういやロットナー卿に仕立て服は俺にしちゃあ丁寧に作ったな……毛皮のコートと革の上下……毛皮も革も偽物だから長持ちしねぇがな……ま、ボロボロになるまでは大事に着てくれりゃ御の字だぜ」


 こうして茶遠一は名前も顔も知らない男性から生涯背負っていくほど重いものだと考えてた悩みを結構ブチ壊してくれたので、これからは大分軽いものになりそう。


 そんな茶遠一が西にしごおり灯花ともか北内きたうち桃奈子もなこ岩瀬いわせ麻七まななの3人が集まる場所に合流するのは時間の問題で、茶遠一の無事を喜ぶ一同の声に包まれる中、茶遠一が焔陽搭乗者の事を思い出し……不意に少しだけ呟く。


「お礼……言いたかったなぁ」


 焔陽搭乗者が殺処分された事は帰還中にカヤが茶遠一に伝えててその際は名前を聞かなかった事を残念がってたね。


 4人が合流すると学園に戻るべきか軽い議論が始まったけど……もう少し様子を見る為、まだ残ろうという案が採用されてたよ。


 ロットナー卿と塔子の麻雀観戦がどうなってるのか少しだけ見てみよう……


「ほー、トップ目が跳満直撃して点棒状況が平らになったな……今回のルールでは西入シャーニュウを採用していないから……次がオーラスだな」

「しゃーにゅう?」


「麻雀の原点は3万点だ。2万5000点の3万点返しでやっていようと、半荘オーラス時に誰も原点である3万点に到達しないまま南4局が終わった場合……西1局になり、誰かが3万点になるまで最大西4局まで続く……それが西入だ」


「へーー……あ、始まった」


 これならまだ追わなくていいかな……恵森清河の昔話の続きと行きますか。


 スタッフルーム内を進んだ先にあった扉を開けると、そこには例の男性3人組がいて……恵森清河の入室が一斉に気付かれ、発言が続くよ。

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