第4話キャラメイク

 ビックリしています。何も感じなかった足に感覚があるのです。

 ちゃんと足の裏に床を踏んでいる感覚があるの。

 足の指を動かすと浮き上がったり床に着いたり。

 何ヶ月ぶりでしょう。

 ああ、私のあしがあるわ。

 足踏みをしてみる。ちゃんと振動が伝わってきます。

 歩ける、自分の脚で歩けるのよ。

 ふと圭吾の方を見てみると、白い影はつっ立ったまま。

 どうやらじっとこちらを見ていたようです。

 声をかけてくれたらいいのに。と思っていると声がかかる。


『ばあちゃん、わかった? じゃあ続けてもいいかな?』


 ええ。私はうなづいた。


『これからゲームの中のばあちゃんを作るんだよ。まずは姿、形は今のばあちゃんで作るよ。その方が動く感覚を掴みやすいからね。それ以外は自分で作ってみようか』


 そう言われたがどうやって作るのかさっぱり分からない。それを教えてくれるんじゃなかったのかしら。


『ばあちゃん? まずイメージしやすいように右手を前に出してステータスって言ってみて』


 えっ?何それ。

 えっと右手を前に出して。

『すてーたす』

 すると半透明なガラスのような板が目の前に出現する。

 よく見ると何か文字が書いてあるようだ。で、コレをどうしたら良いのかしら。

 影の圭吾を見ると、彼は丁寧に教え始めた。


『うん。今、画面が目の前にあるでしょ?』


 ええ。あるわね。


『名前の所が空欄になってない?』


 確かに名前【⠀】って書いてあるようだ。【⠀】の中は空欄のようね。



『そこがばあちゃんの今の名前になるよ。空欄を押さえるとカーソルが出るはずなんだ。カタカナで入れられるようにしてるから、キーボードで使いたい名前を入れてみて。あ、名前はこれから何度か変えるチャンスがあるから適当でいいよ』


 なるほど。ここの空欄を押さえればいいのね。

 ユキ……じゃあ現実のままになるわね。せっかく現実じゃないゲームに入り込んでいるんだから……

 コウかセツだったら……


【セツ】といれて。これでいいのかしら。

 私はセツ……うん、この世界ではセツね。


 名前を入れると後ろから圭吾が声を掛けてきた。


『次は種族ってあるでしょ?そこは今回は人族のままにしてね。この次は自分の好きなようにしていいから』


 種族?人族のままってどういうことかしら。それに動物にもなれるのかしら?でも今回は、次はっていうからには……もう一度作ることがあるの?

 確認しとかないと。


『次? またコレを作ることがあるの?』


 圭吾は当然と言わんばかりに答えてきましたね。あなたは知っていても私は初めてなのよ?


『うん。今回はね、動きの感覚を覚えて貰うためなんだ。色々やってもらうから楽しんでね』


『そう……』


 それなら次は自分で作るのだから、きちんと覚えておかないとね。


『性別は変えようと思ったら変えられるけど、あまりオススメはしないよ。動きに不自然さが出るから』


 性別 ?それを変えることもするの?動きに不自然って、当たり前でしょう?


『そ、そうなの?』


 圭吾はうんうんってうなづいているけれども……


『次の項目だけど、スキャンされたばあちゃんの顔や身体が右側に写っているよね。そこは多少変えられるよ。目の色や髪型、髪の長さ、肌の色、目や鼻や耳、唇なんかはその部位をタッチすれば候補が出るし、微妙に変えたいなら横のバーを動かせは変わるよ』


 言われて画面の右側を見ると確かに私の姿がある。マネキンみたいな感じの裸のまま。

 髪型もそのままね。

 髪を触るとその横に色見本みたいなものと、長さや形が描いてある。

 色の部分で黒い所をさわると、髪色が黒くなった。

 あら。久しぶりの黒髪。やはり黒はいいわね。

 眉も黒くしようとして目に触れてしまった。ビックリして指を離すと。何故か二重まぶたになっています。どうやってやったのかしら?直そうとして触れるけどなんだか少しづつ変になるわ。諦めましょう……これでも普通の顔ですし。いえ、少し若返っているようにも見えます。わ、わざとやったのではないのよ。


『ちょっと若くなったね。年齢はどうする?えっと、今回は幅のある設定しか出来ないけど。動きになれるために50代くらいにする?それとも30代?』


 歳も変えることができるのね。

 でも今更若くなってもおかしくないのかしら?


『けいちゃん……今の年齢ではだめなの?』


 そう聞いてみると、笑ったような声で答えてきた。


『ううん。別に構わないよ。ただ若い方が嬉しいのかなって思っただけ』


 おかしくないのなら、少しだけ若くしてみようかしら。私は50代を押した。

 すると、背がのびて血色が良くなったような気がする。

 これは気がするだけなのかしら。

 でもつい言葉がでる。


『これぐらいの時なら運動もそれほど苦手にはなってなかった気がするのよね……』


 背も伸びて、山歩きをしていた頃をおもいだす。


 すると圭吾から次の指示がでた。


『ばあちゃん、次のスキルだけど最初は【観察】と【手技】だけは取っておいて。あとの三つは好きなのを取っていいから』


 すきる?ああ、この種族の下にある【⠀】の事かしら?五つ有るけど、まずそのすきるとやらが何か分からないわ。


『けいちゃん?スキルって何?』


 少し間が開いてから、彼は答えをくれた。


『えっと、スキルは技能的なものかな?それを持って色んな事をすると上達するのが早くなったりそれで出来ることが広がったりするんだ』


 技能ね。じゃあ、それは上達するためにいる基本的なこと?

 スキルって書いてある横の文字列から観察と手技を探してタッチすると【⠀】の中に文字が入った。


『最初は五つしか取れないんだ。でね、この中で戦いとかもあるから普通は戦闘用の攻撃スキルと防御スキルをとる人が多いよ。あと職業を魔法使い系にするなら魔法スキルも何かをとるんだ』


 戦闘?わたしが?いったい私に何をやらせるつもりなのかしら。

 魔法使いって?あら魔法が使えるの?


『魔法って……私でも使えるの?』


 答える声に間があったけど。


『う、うん。初期スキルに魔法系を入れているか、魔法使い系の職業を選べば使えるよ』


 何を焦っているのかしら。


『どんな魔法があるの?』


 魔法使いになれるのね。どんな魔法なのかしら。薬を作る魔法とか?良く絵本である薬を作ったり、空を飛んだり?


『えっと……初期魔法には火、水、土、風なんかが有るけど?使いたいの?』


 火?水?なんだか思っていたのとは違うみたいだけれど。


『そうね、使ってみたいわ。現実に出来ないことでも出来るのでしょう?』



『街の外に出て戦闘とかしたいわけじゃないんだろ?もしかして狩猟とかしたいの?』


 戦闘とか狩猟とか?この子は私に何をさせたいのかしら。


『戦闘って……あなた私に何をさせたいわけ?』


『だーからー、それをしないんだったらなんで魔法とか使いたいのさ。だいたいあれは戦うためのスキルだよ?』


 魔法が戦うためだけにあるなんて!


『あら、便利には使えないのね』


 悲しいわ。


『便利って……』


 薬を作るのに鍋に水を入れるのはどうしたらいいの?井戸水?

 まさか川から汲んでくるんじゃないでしょうね?

 鍋の火はどうするの?

 そういえばご飯やトイレはどうするのかしら?


『だって井戸水とか汲むの大変なのよ。それに火おこしだって』


『はっ?』


 えっ?井戸もないの?


『えっ?ちがうの?』


『なんでそう思うのさ』


 なんでって……


『あなたが私のやりたかったことが出来るって言うから』


 魔法使いならお薬でしょう?箒で空を飛ぶのでしょう?


『どういう世界を考えているのさ』


『前に聞いたことがあるとこからして、狩猟したり、木の実や薬草とかを採取しながら生活するのでしょう?だったら日本でいうと平安より前になるじゃない』


 平安なら井戸くらいはあるのよ。


『違うよっ。中世のヨーロッパみたいなやつだよ。畑も有るよ』


 中世で畑はあるのね。

 でも…


『でも現代じゃないのでしょう?水道はあるの?ガスはどう?お風呂やトイレはどうなの?』


 ゲームで生活っていうのだもの。

 色々必要よね?


『ばあちゃん、リアルじゃないからその辺は上手くできてるよ。異邦人にトイレは無いよ!そんなの誰も求めてないからっ。あとお風呂は考えて無かったよ。いるの?』


 あ、あらそうなの?

 トイレはないんだ……便利なんだろうか?

 お風呂は無いのね。はぁ。


『感覚があるなら汗とかかくんじゃないの?ないなら……わからないわ』


 お風呂に入りたいのよ……今現在……


『とりあえず、今はないよ。でどうする?』


 どうするって?魔法のこと?


『便利そうなので水がいつだって使えるのは良いと思うの』


 生きるのに水はいるもの。狩猟はしたくなくても必要になるかもしれないのね。


『ばあちゃん……もしなんでも出来るなら何がしたいの?』


 なんでも出来る?のなら、前と同じように身体が動いて、普通にお茶したり、お菓子を作ったりしていたいわ。もう無理だけれども。


『わからないわ。でも……前と同じ生活はしてみたいなぁ』


 圭吾がうなづいたような気がした。


『じゃあさ、魔法スキルは無属性をとるといいよ。どれもちょっとずつ使えるけどどれも大したことは出来ないよ。いわゆる生活魔法っていわれるやつだから』


 生活魔法ね。字面からして生活を助ける魔法ね。


『分かったわ。じゃあ、これを……』


 無属性魔法という文字を押さえると【⠀】に無属性魔法と入った。


『今回は職業は空欄にしておいてね。それが無いときのスキルの動きを確かめるから』


 職業なしって……


『ええ』


 言うとうりに空欄のままにする。


『この姿でゲーム時間でいう一週間を過ごしてもらうよ』


 ゲーム時間。そういうものもあるのね。うん。期間は……


『一週間だけなのね』


 どうしてかしら。


『うん。色んなのを試して貰うから。あと同じようにテスターが入ってるけど気にしないでね。彼らとばあちゃんは違う事を試してもらっているから』


 他の人もいるの?違う事をしてもらっていると。


『そう。じゃああまり話しかけない方がいいのかしら?』


『それはどっちでもいいよ。普通にしておいて。話す事があるなら話せば良いし、無理にとは言わないよ。できるならゲーム内で暮らしている住人とは話をしてみて欲しいよ』


 同じようにゲームをしている人には話しても話さなくても良いのに、中の人には話しかける方がいいのね。ええ、わかったわ。


『ええ、わかったわ』




『それから僕は今から見えない案内人になるよ。【ナビ】って呼んでもらうと分からないことには答えるから。あと、ばあちゃんは今からは【セツ】になるからね。他のテスター達からは名前が【セツ】って表示されるから。いい?』


『ええ。私は【セツ】あなたは【ナビ】ね』


 こうして私はセツ、圭吾はナビとなった。



 プレイヤー【セツ】


 レベル:1

 HP:5

 MP:5

 職業【⠀】

 スキル【観察】

【手技】

【無属性魔法】

【⠀】

【⠀】





『じゃあログインしてみて』


 ナビがそういうので私は声に出して言った。


『ログイン』



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