第21話 狛

「う、ゲホッ…」


口に溜まった血を、掌に吐き出す。想像以上に量が多くて、服の袖まで飛んだ。赤く染まった袖を見て、顔を顰める。


「あー…くそ、おばさん強かったな…」


ふらつく足取りで、山道の入り口まで戻ってきた。木霊がひそひそと何かを話しているが、貧血気味の頭には入ってこない。

血が道に落ちないようにだけ配慮してきた。しかし、魔力の残滓は薄く残ってしまったかもしれない。

ぐらりと、一瞬目の前が暗くなった。

まずい、そう思った時には、遅かった。体が地面に引き寄せられ、山道の小粒の石が体に刺さる。


「いて…」


起き上がろうとするが、力が入らない。喉の奥に血の味が広がる。

「…こんな、ダメージ受けるほどの…攻撃…だったっけ…?」

思考がバラバラになっていく。その中で、こちらに向かってくる羽音を聞いた。

まずい。直感でそう思った狛は、最後の魔力を振り絞って木霊が住む木の陰に丸まる。風を切る羽音が上空を通り過ぎた。

同時に、狛の意識もそこで途切れた。


☆   ★   ☆


笙花は最短コースで斎の家まで飛んだ。玄関に降り立つと、待っていたかのように斎が扉を開ける。


「…笙? どうした」

「や、えっと…斎こそどったの? 出てくるの早いね」

「いや、…まあ、そこにいたからな。で? どうした?」

「ああ…うん…」


煮え切らない様子の笙花に、斎は首を傾げる。


「…みゆちゃん。みゆちゃんに会いに来たの! ちょっと作ってもらいたいものあってさ!」

「そうか…」


うんうんといつもの笑顔で頷く笙花を中に通す。

斎は暫く玄関の外を見ていたが、笙花に呼ばれて扉を閉めた。

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