第2話 幼馴染一人目

「やっほぅ斎〜! 笙花ちゃんが来たよ〜!」

「うるせぇな!」


扉を叩きつけるように開けて、斎は迷惑に叫んでいる人物を睨んだ。


「あっ、みゆちゃん久しぶり〜! 元気だった? 小烏に虐められてない?」

「おいその呼び方やめろって言ってんだろ」

「え? みゆちゃんって嫌? こんなに可愛いのに? あ、もしかして嫉妬? 自分は恥ずかしくて呼べないから〜?」

「違う俺の呼び方だ!」


にやにやと、緑と桃色の色違いの瞳が歪む。ゆるい螺旋を描く明るい茶色の髪を持つそのひとは、笙花しょうか。日本生まれ日本育ちのサキュバスだ。


「いい? みゆちゃん。こいつになんかされたら『小烏もう嫌い!』って言ってやれば圧勝よ」

「嫁に変なこと教えないでくれるか」


斎と笙花は幼馴染だ。彼らの幼馴染はもう1人いる。小烏という呼び方も、斎が烏天狗だからだろう。幸岐は笙花に苦笑で返した。

笙花を家に招き入れ、居間に座る三人。

ふと、斎が首を傾げた。


「…おい、狛は?」

「あぁ、狛なら残業でちっと遅れるって」

「まだ人間の会社に勤めてるのか」

「んー、なんかいい子がいるみたい? い〜な〜! 小烏は結婚して可愛いお嫁さん貰ったし、ワンちゃんはいいひといるのか〜。誰かいいひと紹介してくれないかな〜斎」

「名指しかよ。いねぇよ」

「お嫁さんでもいいよ?」

「馬鹿か? やるわけねぇだろ追い出すぞ」


すらりと背の高い笙花は、足も長いが座高も高い。斎はその笙花より背が高いので、どうしても幸岐は二人を見上げる形になる。


「…ま、残業なら仕方ないか。先に始めちまうか。準備をしよう」


斎が視線を向けると、幸岐は微笑んで頷いた。


「はい。笙花さん、鶏と里芋の煮物が上手にできたんです。食べられますか?」

「食べる! みゆちゃんもう一人でお料理できるようになったのか〜。子どもの成長って早いねぇ」

「さー行こうお嫁さん。喧しい笙は放置だ、放置」


急かされるように背中を押され、幸岐と斎は台所に入った。


「箸と取り皿は持って行くな」

「はい。えっと、あとお漬物も持って行って下さい。今出すので」


冷蔵庫から漬物の入った深皿を出す。中から胡瓜を一本出し、まな板の上で切り、盛る。

漬物と箸、取る用の皿を数枚持った斎は居間に戻った。その間に幸岐は煮物を温める。

その他、斎が仕事に行っている間に作って置いた料理を出し、お酒を持ってくれば大丈夫かなと考えながら、鍋が焦げ付かないように混ぜる。


その時、玄関の扉が開く音がした。


「こんにちはー、斎―、幸岐ちゃーん、入るよー?」

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