第二章 邪気捕獲

第5話 第二章 邪気捕獲(1/2)



   第二章 邪気捕獲




 兄石典高あにしのりたかは高校の入学式に欠席してしまい、その翌日が初登校となった。


 朝、転校生のように先生に呼ばれて教室に入ると、1人だけビキニ姿の女子がいる! ビックリしている典高に、その女子は兄と呼んで寄ってきた。


 名前を妹石姫肌せのいしひめはというらしい。


 どうやら、苗字に兄と妹が入っているから、典高を兄と言ったようだ。

 それを確かめようとした時、姫肌は天井付近の壁を見つめて『邪気が来たのです』と、怪しい言葉を口走ったのだった。




「じゃ、邪気?」



 典高には続く台詞が出てこない。そのくらいに突拍子もない単語だった。朝の教室には似合わないし、とても、姫肌のかわいい口から飛び出した言葉とは思えなかった。


「兄様は、黙って見ていればいいのです」


 それらしいものは何も見えない。見えないのだから、黙っていろと言われたら、まあ、黙っててもいっかと、典高は思った。



 当の姫肌は、兄と呼んだ典高が隣にいるなんて、忘れてしまったかのように、その邪気に意識を集中する。



 シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン



 他のクラスメイトたちも、特進クラスの授業であるかのように静かになり、姫肌の視線を真似して同じ所を見ている。


 想定外の展開に、典高は兄妹についてそれ以上聞けないでいた。

 それよりも、典高当人が、その邪気について気になった。名前からすると相当邪悪なものに違いない。



 ――典高が思う邪気

 見るからに凶悪な、見た者に不幸を与えるような、そして、何人もの命をむさぼり食ったような、子供ならビビって小便を漏らす恐ろしい形相のやつだ。



 そんな想像を携えて、典高は改めてみんなが見る壁に目を向けるが、邪気らしいものは欠片も見えない。何の変哲もない壁……。


 スーーーーッ!

 その時、小さい何かが、その壁を抜けて入ってきた。



 小鬼だ!



 壁をすり抜けるようにして、30センチくらいの小さい小鬼が教室に入ってきて、宙にプカンと浮いている。


 ピッ! ピキンッ!


 教室全体が凍りついた! まるで、共通認識を持ってるかのようだ。



 その小さな小鬼は、黒っぽい肌に、フンドシ一丁で、額には短い角を2本生やしており、鼻は思ったほど高くないが、口は裂けるように大きい、悪巧みを思いついたようなギラギラとした目つきで、ピリピリとした緊張感がみなぎる教室内を見回している。



 あの小鬼が邪気なのだろうか?


 教室内の様子をうかがう小鬼。クラスメイトたちは恐れを隠せないのに、誰も一言も発しない。言われたように、黙っているのがいいみたいだ。


 見えている人は、クラスの半分くらいで、彼らは一様に恐れおののいている。残りの半分は見えていない感じだが、見えている人の反応を察して恐怖に便乗しているようだ。




 もちろん典高は見えている側だ。



 典高は小学生の時に、多くの異形が見えるようになった。

 たが、どれも、その輪郭がボヤケて見えていたし、人間に危害を加えることはなかったので、典高は見えない振りをして、異形たちには関わらないようにしていた。


 でも、この小鬼は輪郭がはっきりしているし、クラスの異様なまでの緊張感である。典高の違和感はビンビンだった。


 この小鬼は悪さをするに違いない。なら、いったい、どんな悪さだろうか? 不謹慎ながらも、典高には興味が湧いてきた。


 当の姫肌は、もう小鬼を見ていない。邪気が来ると告げ、その通りに湧いてきたのに、本人は注目していない。


 特別な存在など、教室には何も居ないかのような普通っぽい素振りで、関係ない方向を見ている。

 いわば、ここでは姫肌が知らん振りだった。



 しかし、当の小鬼は天井付近にフワフワと浮きながら、姫肌にゆっくりと近づいていく。

 当事者を除く全員の目が、小鬼と姫肌に注がれる!


 スーッ

 宙を滑るかのように、小鬼が姫肌の腰辺りに降りてきた。


 スルー ルルルルル ルルーッ ピタッ!

 小鬼は、腰を舐めるように見つめながら姫肌を1周し、少し通り過ぎて止まった。ちょうど典高の前である。

 姫肌から見れば、右の腰。


 小鬼はニヤニヤして、姫肌が着ているボトムビキニの紐に、その手を伸ばす!

 紐を解いて脱がす気か? なんと、スケベな小鬼!


 止めるべきか? いや、自分に止められるのか? でも、黙ってろと言われたし。

 典高が悩んだその瞬間!



「エイッ!」



 姫肌の一声!


 次に気付いた時には、小鬼は姫肌の右手にあった。

 猛禽類が見まごうばかりの素早さで、獲物を捕らえた時のように、あっという間に、鷲づかみの中に収まっていた。


【1800文字】

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