第6話 怪しい男

 あの頃の私は今井さんが好きだったけれど、自分からは何一つ動かなかった。こうして愉しくお喋りをしているのだから、きっと今井さんも私に対して好意的な筈……という何にもならない思い込みだけで毎日を過ごしていた。

 私に恋人の話をしないのは、もしかして、今井さんも何処か私を……なんていう思い込みもしていた。


 何もしなかった私。何も起こらない毎日。それを、『今井さんの現在が幸福でない』と思い込み、ホッとしようとしていた。最低で小さくて心が貧しい、私。


 さすがにへこんだので、友達に話した。Ⅾルームだと周りの目が気にならなくてどんどん落ち込みそうだったので、敢えてファミレスを選んだ。

 私が色々話していたら、隣の席の男が声をかけてきた。「貴方は間違っていません」とか何とか、いかにもニセスピリチュアルな単語を並べていた。


 昨今よくいる救世主まがい。しかも、少しイケメンなので更に自信があるタイプだろう。私が友達に弱音を吐いていると思い、そこにつけ込むつもりだろう。ていうか、盗み聞きしていたのか。

 こちらが言葉を挟まないように、救世主まがいは連続で自分の言葉を発し続ける。友達は可笑しいのだろう、下を向いて笑いを堪えている。


 少しイケメンの救世主まがいは、いきなり私の肩に手を置いた。女子の体に触れるとは、通報レベル。その瞬間、私はそいつにひじ打ちを食らわせ、背負い投げをした。

 救世主まがいの男が床に倒れていた。何が起こったのか。私はカッとなると一瞬、見境が無くなる。

 周りが騒がしい。男の胸ポケットから落ちたのだろう、携帯電話が何台も散らばっていた。

「何こいつ、怪しい」友達が男の顔を撮影し、犯人検索アプリを起動した。

「詐欺、窃盗」友達が呟いた瞬間、大勢の人が、男を囲んだ。誰かが通報していた。

 何が起こったのだろう。


 男を取り囲んだ大勢の中から、女の人が私に話しかけた。


「私たちは県内で活動する占い団体です。あの男は占い師を騙り詐欺行為をしていましたが逃げ足が早い上に中々証拠が揃わずに捕まえる事が出来ませんでした。先ほどの痴漢行為を含め、貴方のお陰で捕らえる事が出来ました」


 散らばった携帯電話に証拠がわんさか残っているらしい。

 女の人はお礼がしたいと云ったが、私は断った。自分があの男に腹を立てて、ひじ打ちを食らわせただけなので……。

 それならばと、女の人は、私を占ってくれると云った。

「貴方のご先祖様も、真理を持って生きてきた方です」


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