第4話 ファッションと流行

 何とか遅刻をせずに出社した。私の仕事は、一応事務仕事だ。伝票処理や電話対応やらをやり、新しい企画を考える。企画が通ると、そちらを優先する事になる。企画が成功すると評価が上がるので、皆必死で考える。

 今日も新しいアイデアは出ないまま、退社時刻になった。今日はちょっとテンションの上がる服を着ているので、ちょっとウキウキしている。


「美由さん、今日の服可愛いですね」更衣室で、後輩に云われた。

「ありがとう」若い子に褒められて、嬉しい。


 今日の私のファッションは、肩の所がふんわりして袖が縮んでレース仕様になっている短いニットに、ボリュームのあるデザインスカートを履いている。スカートには大きいボタンがついている。寒いので、タイズ(タイツとズボンの中間のようなもの)を着用し、ロングブーツを履いている。


 腕の所がふんわりしたニットやふんわりスカートは、百年前にも流行したらしい。けれども現代のふんわりスカートは、機能がアップしている。

 ふんわり感は昔の三倍程あるが、人や物に触れると自動的に縮む。電車の扉に挟まる心配も無いし、素材的に壁の水滴で汚れる事も無い。椅子に座る時、スカートをなでると足に密着するので保温効果もある。


「美由、そのスカート、とっても素敵だね。昔ならパリコレでしか登場しなかったデザインじゃないか」ロメリアがいきなり登場した。

「そうなんだ、今は色んな服があるよ。蛍光色とか、発色が良いよ」ロメリアは妖精なので、多分私にしか見えていない。


「今日はこのままDルームに行くよ」私は、少し小声でロメリアに云った。

「Dルームって?」


 Dルームとは、独身の友人同士が仕事帰りなどに集まる部屋の事だ。ごはんを一緒に食べたり、時々泊まって女子会をやったりする。

 アパートや使われなくなった公共施設の一室を、年間や半年契約で借りる。チームでお金を出し合い、途中脱会、途中入会OKの気楽な場だ。国から補助金が出ているので、県境に住んでいる人もエリアの心配が無い。

 契約しているチームメンバーの指紋認証を登録するので、セキュリティもしっかりしている。


「凄く画期的なシステムだね。美由が住んでいるアパートも、一人暮らし対策が施されているし」ロメリアは驚いていた、多分。


「ね、今の所、不便は無いよ。毎日愉しいし。でもあんまり一人暮らしが快適でも問題かなって時々思うよ。」

 私だって好きな人と一緒に過ごしてみたいし、一緒に暮らして、どんな所に腹が立つのかとか経験してみたい。それに、子育ては大変そうだけれど、孫には会ってみたいし囲まれたいよ。

「美由は現実的なのか夢少女なのか解らないねぇ」ロメリアは、フフン、と不敵な笑みを浮かべていた。多分。


                 〇


 休日の朝、お菓子をかじり珈琲を飲みながらパソコンを眺めていた。自作のお菓子はこれで終わりだ、今日また作ろう。今日のお菓子は雲平だ。


「美由、それ、雲平?」ロメリアが出てきた。

「そうだよ、雲平知っているの? 全国区じゃないと思っていた」

 ロメリアは、雲平の見た目が可愛いから覚えていると云った。覚えている? 生きていた時の事だろうか。

 雲平はピンクや緑のカラフルなもちもちした和菓子だ。微妙な甘さが後を引く。


「美由、何を読んでいるの?」ロメリアが、パソコンの画面に食らいついた。字が読めるのかな?


 私が今読んでいるのは、【枕草子に匹敵するものを書こう】と競うサークルのサイトだ。

 何でも西暦二千五十年に、それらしき本が出版されてベストセラーになったらしい。その熱を再び、みたいな感じだろうか。


「美由は枕草子が好きなの?」

 好きというか、古典を読んでいると自分が賢くなったような気になれるから。それに、何百年昔でも、人間って、基本的な事は変わらないんだなって思った。

 恋をしたり、生活の知恵を絞ったり、助け合ったり憎しみ合ったり。

 それに、昔って、鉛筆やタブレットが無かったんでしょ? 筆で書いていたとして、時間がかかっただろうね。それでも未だに読まれているって、凄いよね。保管の知恵や技術を含めて。


 

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