メモリーズ オブ ナザリック【オバロ二次】

taisa

第1話 はじめに、役目が決められた

 DMMORPGユグドラシル。仮想空間没入型RPGの一つで、無駄ともいえるほどあるスキルや種族の組み合わせ、十の数十乗という生産アイテムの自由度、なにより遊び尽くせぬほど広大なマップ。日本国内でもっとも人気のあるタイトルである。


「では、割り振りは以上となります。長丁場お疲れ様でした。次回は二週間後です。もちろん個々の進捗で問題があったら、相談してくださいね~」

「おつかれさまでした」

「あ、二週間後用事があるんで参加できないんですが」

「参加出来ない人は進捗を私にメールください」

「了解~」


 そんなゲームの一角。危険なグレンデラ沼地の底、ナザリック地下墳墓とだけ名付けられたダンジョンの奥底。


 これみよがしに仰々しい玉座があるだけのフロアに多くのプレイヤーが集まっていた。


 ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの面々である。


 先日ナザリック地下墳墓というダンジョンを初見攻略し、新たなギルド拠点と位置付けて数日。ギルドメンバーは、さまざまな作業に追われていた。



・初期の六フロア(表層も合わせれば七フロア)のルート再設定

・追加フロアの作成とルート設定

・このダンジョンの核となるギルド武器(仮)の作成



 他にも玉座の間の前に防衛機構を配置したフロア(十層付帯)や、普段ギルメンがくつろぐフロア(九層)、安全にギルメンの財産を保管する場所(宝物殿)などを作りたい。


 雰囲気を演出するためのNPCも配置したい。


 などなど……要望は数多いが、最初に三つだけ設定が行われた。それは後で変更も可能からという理由もあるが、それ以上に急がなくてはならない理由があったからだ。


 それは、現在このギルドを護る防衛機構は一切無いことだ。加えてシステム的に保護されるのは取得して最初の一ヶ月のみ。いわばこの一ヶ月は、防衛機構を作るための猶予期間というわけだ。


 ここで問題となるのがユグドラシルというゲームの自由度である。昔流行ったタワーディフェンスモノやダンジョン作成モノとは比較にならない。フロアに部屋パネルとモンスターや罠を配置してハイおしまいという簡単なものではない。広さ、高さ、壁一枚のテクスチャに至るまでこだわることができる。また条件とコストさえ満たせば、飛行禁止フロア、転移禁止フロア、同時突入プレイヤー数制限フロア(いわゆるボスフロア)など、罠の配置など多種多様に作成出来てしまう。つまり凝ろうと思えばいくらでも拘ることができるのだ。



 特にナザリック最大の特長は、規模に以上のNPC保有量を有していることである。


 その総計は二七五〇ポイント。


 九つあるワールドにそれぞれ一つづつ配置されている最大のギルド拠点であっても三〇〇〇。このナザリックのポテンシャルの高さを示しているともいえる。


 そのようなわけで、今現在のアインズ・ウール・ゴウンの内情はリアルにおけるデスマーチの様相を呈しており、今日も集まり、いろいろ決めごとをし、やっと会議が終わったところだった。


 そんな中、バードマンの種族でギルドきっての遠距離攻撃力を有するペロロンチーノは、全力で妄想の世界に旅立っていた。そんなペロロンチーノの楽しい時間を妨害したのは、ギルマスにして親友のモモンガであった。


「ペロロンさんおつかれさまです」

「おつかれさまです。モモンガさん」

「なにかラストあたりから何か考えごとをされてたようですが、何か有りましたか」


 骸骨のアバターで死霊系をサポートする魔法使い装備をまとったオーバーロード。ギルマスのモモンガは、会議中、思考の海に落ち込む親友の姿を気にしていた。割り当てられた仕事が気に食わなかったのか、それでも何かしら言い出せない意見があったのか。そのへんが気になり会議が終わった後、軽く声をかけたのだった。


「ああ、割当のNPCをどうしようかついつい」

「なるほど。たしかペロロンさんの担当は、第一層から第三層のボスNPCと補佐NPCですよね」

「です」

「割当ポイントはたしか……」

「四〇〇です」

 

 NPCポイント四〇〇。

 

 NPC一人の最大割り振りポイントは一〇〇。つまりレベル一〇〇プレイヤーと同等のスキル構成のNPCが一人生まれる。そして四〇〇ポイントということは、最大でレベル一〇〇NPCを四人という構成が可能である。もちろんレベル差は圧倒的な差ではあるが、けしてそれが全てではない。数が必要な局面もあるし、質が必要な局面もある。ハマれば、それこそレベル二桁で、レベル一〇〇に一矢報いることぐらいできる。


 なによりペロロンチーノが担当するNPCに求められるのは、第一から三層のフロアボス。少人数のパーティーであればそこで殲滅。大人数であれば可能な限りの時間稼ぎを行うことが求められる。その要求で四〇〇ポイントというのは、戦術的にも、戦略的にもいろいろ取れるぎりぎりのラインであり、まさしく腕の見せ所ともいえた。


「で、ペロロンさんはどんなNPCにするかイメージあります?」

「もちろんですよモモンガさん!」

「おっ自信満々ですね」

「もちろんです。なんせ……」


 ペロロンチーノは、NPCを作ると決まった時、真っ先に思い浮かんだフレーズを叫んだ。


「オレの嫁ですから!」

「えっ」


 モモンガはペロロンチーノの言葉に一瞬思考停止してしまう。そして一抹の不安を抱えるも、ペロロンチーノの自信有りげな雰囲気に返す言葉をなくしてしまったのだった。

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