山でモフモフに会ったら異世界入り？！ 私、普通のJKなんですけどぉー？！

第12羽 打ち砕け！

「行くよ！」

　私は、望月を手に、魔物のそばまで駆け寄る。

　それを見て、魔物は手にしている木を振り下ろしてきたが。

「お・そ・い！」

　さらに加速して掻い潜り《かいくぐり》、望月で魔物の腹をねじ込むように回転させ突く！

　ドン！　

　鈍い音響く。

　魔物の腹がクレーターのようにへこみ、渦のようにねじれのシワが浮かぶ。

　そのまま素早く引き抜くと、体をねじり勢いをつけ。

「おりゃぁああああ！！」

　魔物の頭を叩き潰すように殴りつけると、クッションや柔らかい粘土でもつぶしたように、グニャっと押しつぶれる。

　魔物は、のた打ち転げまわり、耳障りな叫び声を上げている。

　このパッチワークのぬいぐるみのような魔物は痛みを感じる。

　生き物ではないし、攻撃手段としての駒なら、痛みなんて必要ない、それなのに痛覚があり痛み苦しむ、自分の手駒にさえ苦しみを与える、クワの性悪さが見て取れる。

「おぉう、すごいね！　望月」

　飛び跳ねて魔物から距離を取り、望月を見て話しかけてみる。

　あれだけ、攻撃が通らなかった魔物がコテンパンだ、さすがは御神器と言ったところなんだろうけど……、棒だからなー、剣とかならたたっ切って終わりだったんだろうけどー。

『……油断スルナ……ソシテ、ヨク見ロ』

「へ？」　

　魔物が雄叫びを上げて、側の立ち木を引っこ抜いて投げてきた！

　私は素早く体を回して、避けるついでに望月で木を打ち付ける。

　バキッン！　と派手な音と共に、望月で打ち付けた部分が爆散して、魔物の投げてきた木が吹き飛んで行った。

「望月……、あんた攻撃力過剰じゃない？」

『……』

　ちょっと呆れたように話しかけてみたが返事はない、えぇい、無口な奴め！

　魔物が吠え声を上げ、ちぐはぐな腕を振り回しながらノソノソと向かってくる、魔物的には全力なのかもしれないんだけどね。

　まぁ、待っているのもアレなので、私は大地を蹴り魔物に向っていった。

　一回、二回、三回、ステップを踏むように飛ぶように跳ね、魔物の背後に回り込む。

「ふっ！」

　望月を振るい、突き、回し、払う、鈍い打撃音が響き、魔物の体が一打ごとにへしゃげ、足を払われて耳障りな叫び声を上げて倒れこんだ。

「――乃！　莉乃！」

　胡桃の声だ、私を呼んでいる。

　何だろう？　私は跳んで、倒れている魔物から離れると、胡桃の方を見る。

　私が離れたのを確認すると、胡桃の術が魔物に飛ぶ。

「『土槍』！」

　地面から数本の土で出来た槍が飛び出して、魔物の体を穿つ！　

　耳障りな叫び声を上げ、まるで風船から空気が抜けるように、体がしぼんでいき厚さがなくなり、魔物はペラペラのパッチワークの布になっていった。

　……うん？　穿つ？　あれ？

「……あれ？」

　なんか、違和感があり頭をひねる、そんな私に胡桃が走り寄ってモフンと抱き付いてくる。

「莉乃！　やった、の！　魔物、やっつけた、の」

　うれしそうだ、んー、でも。

「うん、やったね～、でも何でやっつけられたんだろ？」

　そうなんだよね、胡桃たちの術は防がれていたし、おかげで、うさちゃん達は苦労してたんだし。

「ん、ん、望月が当たったら、魔王の、力が削げたの」

「えーっと、魔物の体の周りにあった黒いモヤモヤ？」

「ん」

　胡桃がコクコクとうなずいている、望月の力で魔王の力が削げたってことなのかな？　流石、御神器ってところか。

「へぇ～、やるじゃん！　モッチー」

　手にしている望月を見ながら、私がつぶやくと望月から返事があった。

『……ダカラ、”ヨク見ロ”ト言ッタダロウ、……”モッチー”トハナンダ』

「よく見ろって、そういう事だったんかい、あと、望月だからモッチーで」

『……却下ダ』

　えー、可愛いのにー。

　望月と話している間に、胡桃は倒した魔物に近づいて、ペラペラになったソレを確認するように突いたりつまんだりしている。

「胡桃、それどうするの？　てか、大丈夫なのソレ」

　ペラペラのパッチワークの布と化した魔物をクルクルと、巻きながら返事をする。

「もう、なにも力、感じない、の、置いておいても、邪魔なの」

「それにしても、ホントにぬいぐるみみたいなんだね、てか、風船？　何が入ってたんだろ？」

「たぶん、魔王、の魔力」

　なんかもー、色々できるなアイツ、うんざりだねぇ。

「何にしても、魔物を倒せる手段が出来たみたいだし、いい結果が出たよね」

　うんうんと、うなずきながら言う私、兎神様が望月を持たせてくれたのは、この効果を見越してかもしれない。

「あ！」

「ん？　なに？」

　胡桃が大声を上げてこちらを見た、私はのんきな声を出してしまった、なんだろう？

「蘭、と杏、加勢にいか、ないと！」

「あぁ！！　ワスレテター！　急ごう！」

　私と胡桃は、まだ魔物と戦闘中であろう、仲間の元にバタバタと慌てて向かうのでした。

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「えぇい！　しつこいですわね！　目ざわりですわ！　さっさとワタクシの視界から消えなさいっ！　『水弾』！！」

　蘭が叫び、水の弾丸が軌道を変え八方から、うさ耳を生やした歪なパッチワークワニモドキぬいぐるみの魔物めがけて、まるで豪雨のように襲い掛かる。

　魔物は耳障りな叫び声を上げるが、長い尾で地面をえぐり蘭に向って反撃をする。

「『水壁』！」

　蘭の目の前に水の壁ができ、襲って来た砂利を防ぎきる。

「お返しだよ！　『風牙』！」

　杏が魔物の側まで滑り込むように移動すると、その胴体に風をまとった拳を叩きこむ。

　鈍く重い音が響き、魔物が倒れこむ。

　トントンと地面を蹴り、杏は蘭の隣に並んで、うんざりと言ったふうに顔を見合す愚痴を言う。

「ったく、しつこいなぁ」

「まったくですわねぇ、……心配ですのに……」

「胡桃も付いているし、莉乃ちゃんも動けるようになっているんだ、心配しなくても大丈夫だと思うよ」

　蘭が小声でつぶやいたのをしっかり聞いて、ニヤニヤしながら杏が言う。

「べ、別に心配なんてしていません事よ！」

「？　あ！」

　何かに気が付いた杏が、蘭の体を抱え跳び退る。

「え？　なんですの？　あ！」

　蘭も気が付き、驚きの声を上げる。

「おりゃぁああぁああああああああ！！！！」

　魔物のはるか後方から、何かが叫びながらすごい勢いで飛んで向かってくるものが見えた。