第6羽 その名も モチツキ?

「魔王 クワ、ですか」

 兎神様の話を聞いて、私は変な顔をしていたのかもしれない、兎神様は心配そうに私を見つめている。


『外の世界から来た悪意』、人のモノだろうか? だとしたら私は何かしてあげたい。

 本当に何かできるのだろうか? 怪我をするかもしれない、死んじゃう……かもしれない……。


『魔王』臆病で狡猾で姿を隠していた者が、そう名乗って姿を見せた、ウサギの姿をした怪物。


 私の隣の椿が、私の手を握る。

 見ると小さくうなずいている、桔梗の方を見る、私の目を見て小さくしっかりうなずいてくれる。


 すーーーーーっ、はぁ!

 私は、大きく深呼吸して。

「わかりました! 私で何かできるのであれば、やらせてもらいます!」

 大きな声で、しっかりと、ただの女子高生の私に出来る限りの事はしよう。


「莉乃ぉーーーー」

「うわわっ」

 椿が私にモフンと抱き着いてきた、勢いで桔梗の方に倒れそうになる。

「こら! 椿! 兎神様の御前だぞ!」

 怒りながら少しうれしそうだ、うん、君たちが喜んでくれてるみたいで良かった。


「ありがとう、莉乃さん」

 こちらは兎神様、微笑んでくれてるみたいだあけど目が潤んでいる、なんか申し訳ない。


 兎神様は、金の飾りをシャラリと鳴らしながら立ち上がって、私の手を取ると立ち上がらせる。

 やっぱでかいわー、兎神様。

 続いて、桔梗や椿、周りのウサギたちも立ち上がる。


「こちらに……、莉乃さん、あなたに渡したいものが有ります」

 そう言いながら、兎神様は大きなフスマの前まで行くと、誰も開けないのに音もなくフスマが開く。

 うん、もう驚かない、オドロカナイヨー。


 私が連れて来られたのは、宝物殿ってやつらしい、入ったのは私と兎神様、あとは入り口でお留守番。


「ほへぇ……」

 さすが宝物殿、中は煌びやかな物で埋め得つくされている、ちょっと地味なのは巻物みたいのや本みたいなの。

 キョロキョロしながら、兎神様にたずねてみた。


「宝刀とか伝説の聖剣みたいなのもあるんですか?」

 パッと見、武器になりそうな剣や槍みたいなのは無いんだよねー、魔王と戦うなら武器いりそうだし。


「そうですね、剣やらほこやらの武器は、ココにはありませんね」

 兎神様は、なつかしそうに周りを見渡している。

「この世界を作るとき、ワタクシが外から持って来た物ばかりなのですが、ココでは必要のない物ばかりになりました」

 そう言って、またシズシズと歩き出した。


 そっかー、伝説の○○ソードとか使いたかったな、聖剣エクスカリバーとか、「念願のアイスソードを手に入れたぞ」みたいな。

 ……まぁ、剣とか握ったことないんですけどね。


「あぁ、ありました、この子ですね」

 そう言って、兎神様は台に乗せられた紫色の布で包まれた長いものを、手に取った。

 兎神様が持つと、麺棒みたいに見えるんだけど、私の背よりも長い。

 たぶん二メートル弱くらい。

 兎神様が、はらりと布を取ると、使い込まれた木の棒のようなものが現れた。


「莉乃さん、これを」

 手渡された、木の棒を受け取って、まじまじと見てみる。

 一握りくらいの太さの棒……、やはり二メートルくらいの長さで、使い込まれてる感はある、両端がちょっと太くなってる感じがするけど、棒。


「棒?」

 こてん、と首をかしげて私が言うと、手にしている棒がブルルと震えた。

 おぅ?! なんだなんだ? こいつ……動くぞ。

 それがおかしかったのか、兎神様はくすくす笑いながら説明してくれた。


「それは、『きね』です、そうですね、ワタクシがここを作った時に持って来た物ですから、古いものです」


「杵って、お餅付くとき使うやつですよね? ハンマーみたいな形のとか、もっと両端が太いのとかじゃないんですか?」


「つぶすのに工夫されて変わって行ったものですね、それは古い古い杵です、外の世界で言う付喪神と言うものになっています」

 私の疑問に、ニコニコと笑いながら兎神様は答えてくれる。


 おぉ、知ってるぞ付喪神、確か長い年月を経た道具がなるやつだ、兎神様が兎世界を作ったころより前なら、すっごい昔のモノだね。


「その子の名は『望月もちづき』と言います」

「もちつき?」

 うん、いや、杵だからモチツキ? また棒がブルルと震える。


「『望月』ですね、満月の意味ですよ」

 兎神様は面白そうに眼を細めている、おぉう、そうか、こりゃ失敬。

 でも、役に立つのかな? 棒ですよ棒、ヒノキの棒とかよりはましだろうけど。


「これあれですか? のびろ! って言ったらのびたりとか」

「のびませんね、何処かの物語の仙猿が使っている天の川の水位を図る棒ではありませんし」

 そっかー、のびないのかー、てか、「西遊記」知ってるのね、兎神様。

 今度、ド〇ゴンボールをお勧めしてみよう。


「莉乃さん」

 私の名を呼んで、兎神様は大きな体を屈み私を抱きしめた、良い匂いがする。


「こんな事を頼んでおいて、あまりしてあげられることが少なくて……申し訳なく思っています、あなたに頼らなければならない、ワタクシの無力さを許してください」

 そう話し、体を少し離す兎神様、私の頬に温かいものが落ちる。

 兎神様は、泣いていた。


「あなたには、辛い思いをさせるかもしれません、時間も……あまり残されていないでしょう」

 兎神様は、大きな両手で私の手を握って、美しい瞳に涙をあふれさせて泣いていた。




 兎神様のお屋敷を後にした私たちは、向日葵さんたちの居る集落に戻った。

 私の手には、兎神様から渡された『神杵しんしょ 望月もちづき』、ソレをバトンのようにクルクルと回している。


「うまいものだね」

「器用なのですねー」

 ソレを見て、桔梗と椿が感心したように言う。


「こうゆうのは得意なのよ、戦うとなると……また別だろうけどね」

 うん、小学生の時、ほうきとかでやってた、おてんばだったなぁ。


「神通力の修練もあるし、ソレの修練もしないとな」

 うんうんと、うなずきながら桔梗が言う、えー、修行っすかー。


「ふふふ、椿たちを触る時間もなくなるのですよ、ふっふっふー」

 笑いながら椿が言う、ハハハ、こ奴め。


「よーし! じゃ触り貯めだーーー!」

 言うが早いか、私は椿に飛びつきモフモフしだす。


「ひぇ!? やめるのです! はにゃにゃにゃぁあぁ」

 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ。

「莉乃……恐ろしい子……」


 じゃれ合いながら、私たちは向日葵さんの待っている家に向かうのであった。

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