アメリ 「パートナーを得る」

 "ミニマリスト"恋愛もの、「アメリ」を分析します。


●プロット概要

1. 主人公アメリは愛のない家庭で、両親に他人との関わりを奪われて育った。そのため空想の世界に生きるようになる。


2. 成長したアメリはカフェで働きながら一人暮らしを始める。ある日彼女は自分のアパートの洗面所で古い宝箱(子供がおもちゃを入れるような、ささやかなもの)を見つける。


3. アメリは宝箱の持ち主を探し出す。宝箱を返すと、彼はアメリに感謝した。彼女は人助けの喜びを初めて知り、積極的に、しかし特に見返りを求めず、周りの人々の役に立とうとする。


4. 人々に愛されたアメリは誰も愛さないまま死んだ、という妄想を見て泣く。


5. アメリは証明写真撮影機の前で他人が捨てた証明写真を集めている男、ニノに一目惚れする。彼女はニノが落とした写真アルバムを拾う。


6. アメリは「カフェに来て」というメッセージをアルバムに仕込み、ニノのバイクの荷物入れの中にアルバムを返す。


7. ニノはカフェに来る。アメリは彼に話しかけられるが、勇気が出せず人違いのふりをしてしまう。アメリは同僚のジーナ(3で助けられた恩がある)に彼宛のメッセージを託す。


8. ジーナはニノが悪い男ではないかチェックする。アメリはニノがジーナのことをアメリだと思っていると勘違いしてショックを受け、泣く。


9. ニノはアメリのアパートに来る。アメリはためらうが、隣人の画家(3で助けられた恩がある)に、人生にぶつかってゆきなさいと励まされ、アパートのドアを開き、ニノを迎え入れる。


●「パートナーを得る」

 プロット概要を眺めると、恋愛ものに定番の要素がとても少ないことに気がつきます。恋敵もいないし、生活環境の変化によるすれ違いもありません。それどころかアメリとニノの間には最後までまともな会話すらありません!

 これでは恋愛ものとして分析する意味がない、と思ってこの作品に関する記事を書くのを止めようと思ったのですが、一つ価値のある発見をしたので、それをお伝えしようと思います。


 その前に、この作品にも恋愛ものに定番の要素が一点だけあります。それは8のアメリの勘違いです。主人公が女性の場合に限りますが、友人が相手が主人公にふさわしいかどうか探りを入れ、その様子を主人公が見て誤解する、というのは非常に良くあります。この作品のようにオマケ的に使うならまだいいのですが、これをメインに据えるのは蛮勇でしょう。


 突然ですが、恋愛感情とは何でしょうか。運命的な出会いや、次々と襲いかかる障害の克服に焦点を当てている作品が多い中、この問いに答えようとする作品は意外と少ないと思います。「アメリ」はそれを「(1)他人の人生に影響を及ぼしたいという欲求&(2)他人が自分に対してそうするのを受け入れること」と定義しているようです。

 それを裏付ける言動が作品中にちりばめられています。定期的に証明写真を撮っている男をアルバムに発見し、それは自分が忘れ去られてしまうことを恐れているからだ、とアメリが言ったり、ならば絵の中の人物はずっと残るから勝ち組だ、と隣人の画家が言ったりします。これは(1)を裏付けますし、9での画家の後押しは(2)を裏付けます。

 1で描かれる幼少時代のアメリは(1)、(2)両方とも奪われていました。3で彼女は(1)を満たすことの快感を知ります。自分の世界に閉じこもって育ったため、(2)を実践することは困難でしたが、7~9で自分が助けた人々に逆に助けられ、新しい世界に踏み出す勇気を持つことができました。

 恋愛もの作品を作る場合、恋愛感情とは何か、ということについてしっかりとした哲学を持っていないと軽薄な作品になってしまいがちです。結局それって○○じゃん(○○には独占欲、性欲、依存などが入ります)と言われないような作品を作るには、上記の定義は良い出発点になると思います。壊れた恋愛観を持つキャラを描く場合でも、壊す対象をしっかり把握していないとうまくいかないですしね。


●「取り戻す」

 幼少時の経験から、アメリは人と関わることが苦手になってしまいます。「人と関わること」を取り戻すため、3で彼女は人助けを始めます。しかしそれはあくまで自分のため。善悪や高尚な理想などというものとは無縁であるという点を制作者は強調したかったのでしょう。アメリの行為によって、必ずしも皆が幸せになる訳ではないということを描いています。また、わざわざダイアナ妃とマザーテレサという「聖女」と対比させて、こういう風になるのが彼女の目的ではないと暗示しています。


●まとめ

 濃厚な恋愛ものを期待していると、徹底した断捨離によって肩透かしを食らい、また雰囲気や映像ばかりに気を取られがちですが、意外としっかりとした哲学がある作品です。自分の作品を作る際も、このような哲学を念頭に置けば、単に好きと言わせるよりもキャラに深みを持たせられそうですね。

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