解放する

 制限や抑圧から解放すること、脅威から逃げることです。


●コンセプト


 刑務所、収容所などから脱走する。(ショーシャンクの空に)


 カーチェイスする。


 偽りの現実から脱出する(マトリックス、トゥルーマンショー)


 抑圧から逃げる(テルマ&ルイーズ、アメリカン・ビューティ)


●考察

 主人公を束縛するものや、脅威となるものから逃れる「面白さ」です。一番単純なのはカーチェイスや警察など、主人公を追ってくるような存在を設定することです。追っ手をうまくまいた時に感じる解放感や安心がこの「面白さ」の源泉です。(ただし、カーチェイスなどの追いかけっこを緊迫感をもたせて文章で表現するのはなかなか難しいです)


 この「面白さ」をメインとするストーリーでは、主人公は最初、囚われている状態にあることがほとんどです。その状態がどのように異常なのかを描写するところが腕の見せ所です。刑務所や戦場などのわかりやすいものから、不満の多い日常(テルマ&ルイーズ、アメリカン・ビューティ)、逆に完璧すぎる日常(トゥルーマンショー)、古い体制や許嫁などのしきたりや生贄などの非人道的な儀式、城砦や宇宙船の中などの物理的な制約などがあります。「天元突破グレンラガン」では人口制限が課せられ、地下に閉じ込められた人類が描かれています。話の発端としては主人公が感じる不満や日常のちょっとしたほころびのようなものから掘り下げてゆくとよいでしょう。


 長い時間束縛に慣れてしまうと、束縛しているものに無自覚になってしまったり(マトリックス)、束縛そのものに依存してしまい、外の世界を怖がったり(ショーシャンクの空に)します。「自分が抑圧されている」という自覚を持たせるイベントやモノによって、主人公の解放されたいという欲求を高めます。「マトリックス」なら仮想世界から脱出できる薬だったり、「アメリカン・ビューティ」なら魅力的な女の子との出会いなど。


 自由になる、とはどういうことか決めておきましょう。主人公の身体が拘束されたまま、あるいは主人公が命を落としても心だけは解放された、とか主人公が犠牲になって大切な人が解放された、でもこの「面白さ」を達成することができます。


 「友達になる」と似て、ただ自由になるだけでは、ストーリーの結末としてやや不満足になりがちです。一般的な解決方法の一つは、自由になった後、主人公を拘束していたものを破壊する、というストーリーで、それを採用するなら「敵を倒す」に移行します。この場合は主人公を拘束しているものは“悪”として描写する必要があります。脱獄がテーマなら刑務所は悪にはなりえませんが、例えば主人公が冤罪だったり、刑務所自体ではなく、所長がやっている悪事を暴くとかの設定を追加することによって「敵を倒す」ことが可能になります。


 自由になる行為自体が法的・倫理的に正しくない場合、「敵を倒す」に移行できないので高い確率で主人公は死にます。もちろん束縛から自由になったという事実を残して、ということですが。特殊な例では、自由になれないまま悲惨な状態で主人公が死ぬことがあります。プロレタリア文学がこれで、主人公を拘束するものに対する享受者のヘイトを増幅するのが目的なのでしょう。


 主人公を抑圧・拘束するものをきちんと描けるかにすべてがかかっている「面白さ」です。設定を描写するのに紙面・尺を取られがちなので、サブストーリーとして使うなら脱獄やカーチェイスなどのわかりやすいものに限ったほうがよいでしょう。

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