第二十二話 諏訪と一丸


「なんだ、おぬしは?!」


 肩幅の広い、がっしりとした体格の諏訪大三郎すわ・だいざぶろうが進みでて、大地を見下ろした。


「まあまあ、ここはボクに任せてよ。田舎者の扱いは得意なんだ」


 大地と同じ体格身の丈の、ちょっと小柄な一丸初いちまる・はじめがさらに一歩前に競り出てきた。

 まるで二人して松浪を護るかのような陣構えだ。


「おら、おめさんたちには用はねえだ。松浪さあと話サさせてけろ」


「おぬしなんかと気軽に話ができる相手ではない。さあ、そこをど――」


 手で大地を追い払おうとした、そのとき――諏訪がつんのめるかのように体の均衡バランスを崩した。

 退がるかと思われた大地が逆に間合いを詰め、閃光の速さで扇子を抜いて諏訪の機先を制したのだ。

 大地の持つ扇子は諏訪の体のどこにも触れてはいない。だが、虚を突かれるとひとの体は脆くも崩れ出す。


 日頃から体幹を鍛えているのだろう。諏訪はかろうじて持ち直し、観衆の面前で転ぶという醜態を回避した。


「き、きさま!?」


 諏訪が思わず佩刀の柄に手をかけた。


「諏訪さん、ここで抜いたら恥の上塗りですよ」


 一丸がにこにこと笑顔でたしなめる。


「わたしにききたいこととはなんだ?」


 松浪がはじめて口を開いた。まっすぐの視線で大地を見据えている。


「聞こう。申してみよ」


   第二十三話につづく



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る