もんばんとようじょ

 魔界では、日々の絶え間ない努力や、好ましい内面の輝きといった要素が、その者の評価を左右することは、さほどないのです。


 なぜなら、生まれ持った「血」で、能力のほとんどが決まってしまうからでした。

 そして力こそ正義なのでした。


 すべての魔物たちの頂点に立つ魔王は、その力ある「血」に恵まれていました。他にはなにもないのですが。


「おい、そこな、もんばん」


 今日も魔王は自信たっぷりです。なぜなら彼(彼女?)は、生まれに恵まれているからです。


 たとえいまは無力で愛らしいだけの幼女の姿でも、魔王は魔王として存在するだけで偉いのだと、信じきっているからです。


 しかし、そんな魔界の事情など、人間たちにはどうでも良いことです。


「ん? もしかして、おじさんのこと呼んだ?」


 門番と呼ばれた警備員は、小さな女の子を見下ろしました。


「うまいものはどこにゃ? ワシにくわせるにゃ」


 ここはショッピングモール。


 役にたたない変化の術を提案したことで、魔王の怒りをかったカラスが、


「そのお姿なら人間どもがとりどりの美味を捧げる場所においでになることができます。レストランというのですが」


 と、あわてふためいて弁解したので、はりきってやってきたのです。


 警備員の男性は、少し考えてから答えました。


「うまいもの? レストランかな?」


「うむ」


「それなら一階だね。ここから右にずっと行った奥にありますよ」


「そうか。すぐあんないするにゃ!」


「場所がわからないのかな? 係を呼ぶからちょっと待ってて」


「わからないとはなんにゃ! わかるにきまってるにゃ!」


 ぷりぷり怒りながら、魔王は気短に歩き始めました。


「カラス、こいにゃ! ぐずぐずするにゃ!」


「はっ」


 かしこまるカラスに、警備員はあわれむような目を向けました。


「お父さんさ、だめだよ。小さいうちからちゃんとしつけはしなきゃさ。あんな言葉づかいじゃ、小学生に上がってから苦労するよ」


 そして、遠ざかるふたりの背を見送りながら、


「まったく最近の子どもと若い親は……」


 とつぶやいたとか。

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