撫子乙女の夢想奇譚~謎は妖怪と共に~

しもうさ

プロローグ

全ての始まりを話そうか。

それは空が厚い雲に覆われ、ちらちらと粉雪が舞っている日のことだった。

その日私は、神隠しにあった。

父と近所の神社に参拝しに来ていた時のことだった。その日は沢山の人が参拝にいらしていて、境内はとても賑わっていた。

父の隣に並んで、お賽銭を入れて二拝二拍手一拝する。しっかり家業の繁盛を祈願したあと、深深と下げた頭をゆっくり上げる。

その場に居た人が、みんな居なくなっていた───私と、もう一人を除いて。

境内にたった一人立っていたその青年は、顎まである銀の髪に鋭い赤い眼を持つ、この世の者とは思えない程の美丈夫な──妖怪だった。

彼はこの現象を「神隠し」と呼んだ。自分達はどうやら、「居てはならない世界」に紛れ込んでしまったようだと。

ならば、元の世界に戻るしかあるまい。

私達は仲良く手を組んだ。

長くなるのでここでは省略するが、紆余曲折を経た末に、無事元の世界への帰還を果たすことが出来たのだった。

そして、無事私は父と再開することが出来た。

「これでさよならだ」

それだけ言って、そのまま名乗りもせずにさっさと立ち去ろうとする彼の外套をぎゅっと掴む。

さよならなんて、してなるものか。

だって私は、彼の力に完全に惚れ込んでしまっていたのだ。その頭の回転の早さ、高い推理力に身体能力、そして彼本人にすらよく分かっていない妖怪としての力。

脱出の時に用いられた、彼のあらゆる力という力に私はすっかり、魅了されてしまっていたのだ。

もっと見たいと思ったのだ。その能力が存分に引き出されているところが、もっと見たいと。私のものにしたいと。

もっとよく───理解したい。

あなたのことを、もっと、知りたいと。

願ったのだ。

引き止められて怪訝そうな、不機嫌そうな顔をした彼に、ただの気まぐれで、そのまま思ったことを口にした。

私としては正直、それは彼を引き止めるための言葉戯言に過ぎなかった。

…その一言が、私の、私達の運命を大きく流転させることになるとは、露にも思わずに。

「──『探偵ごっこ』、してみませんか?」

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