第4話 つながり

ドキッ


思い切ってドアを開ける。

いるかもしれない、また会えるのか?

その瞬間!


「やーっ、おめでとう!」


そこに立っていたのは、


…シュンである。


シュン「タクローおめでとう!」

タクロー「おー、久しぶり〜。」

シュン「タクローもついにパパか。」

タクロー「まぁな。」

シュン「予定日今日だろ?」

タクロー「まっ、色々あって早まった。」

シュン「なんだ、サプライズ失敗か。」

タクロー「成功じゃない?驚いたし。」

シュン「いやー、本当なら病院行ってナミちゃんにも会いたいとこだが、時計の出張修理でもう出発の時間なんだ。」

タクロー「シュンも時計職人らしくなってきたなぁ。」

シュン「親父も引退したから俺しかいないってだけのこと。」

タクロー「まっ、落ち着いたらゆっくり飯でも食いに来いよ。」

シュン「おう。そうするわ。」

タクロー「じゃあ、気つけてな。」

シュン「タクローも頑張れよ。」

タクロー「わざわざありがとうな!」

シュン「いえいえ、じゃーな。」

シュン「パパッ!」

タクロー「パパは余計だ!」

タクロー「またな!」

シュン「じゃっ、また!」

久しぶりにシュンと会った。3カ月ぶりくらいだろうか?

ドアの向こうは期待と違ってたけど、これはこれでよかった。

きっと気のせいだったのだろう。

目覚ましも、もしかしたら最初からおめでとうって入ってたの気がつかなかっただけなのかもしれない。

誕生日かなんかに聞いてもらいたくて。

みたいな?

そう考えても納得はできる。

ただ今は家族が三人になり幸せいっぱいだという事は間違いない。

目覚まし時計は鳴り続け、もういるかもしれない誰かを探すこともしなくなり、幸せな日々は続いた…。



…そうして25年の月日が流れ…


ナミ「お父さ〜ん、靴下こっちよ。」

タクロー「あっ、ああ。」

ナミ「ちゃんとしてよ。ビシッとしていかないとリナに怒られちゃうわよ。」

タクロー「おっ、おう。」

ナミ「向こう着いたらすぐ着替えるから、ハンカチここに入れとくからね。」

タクロー「おっ、おう。」

ナミ「やだ〜、ちょっとー、ワイシャツのボタン互い違いだし〜。」

タクロー「あっ、ああ。」

ナミ「も〜、大丈夫〜?」

タクロー「大丈夫、大丈夫。」

ナミ「しっかりしてよ。」

タクロー「よしっ。行くか。」

ナミ「忘れ物大丈夫?」

タクロー「あっ、カメラ。」

ナミ「持ちました。」

タクロー「じゃあ大丈夫。」


バタバタしながら家をでる。

雲ひとつない青空が広がり、のどかに鳥も鳴いている。

6月も下旬になり、夏の訪れを感じる日曜の午前中。

今日は2人にとって長い1日になりそうだ。

道はそんなに混んでなく、予定より10分くらい早く着いた。

白く新しいそんなに大きくはない建物の屋根近くには、大きな鐘がキラキラ光る。

裏口みたいな小さな扉を開けると、そこは外とは別の空間である。

タイル張りのフロアに吹き抜けの高い天井。

奥の両開きの扉の向こうには天井近くのステンドグラスからはキラキラ溢れるように光が差し込んでいた。


リナ「こっち〜。」

ナミ「おめでとう。」

タクロー「おめでとう。」

リナ「お父さん、お母さんありがとう。」

新郎「ありがとうございます。」

ナミ「あらっ!素敵ねタキシード!」

リナ「タキシードが素敵なの?」

ナミ「あら、そんな事言ってないわよ。」

ナミ「じゃあ、着替えてくるわね。」

タクロー「また後でな。」


そう。

今日はリナの結婚式。

朝からそわそわしていたタクロー。

理由はそうなのだ。

小さな協会はリナの憧れだった。

職場で出会った旦那さんもそれに賛成してくれて、少人数での結婚式。

半年前から予定して今日無事式をあげられるのだ。

ただ、その間にリナは妊娠して、ドレスまでは希望通りにならなかったのだ。


スタッフ「それでは皆様、中のほうにお願いします。」

ナミ「大丈夫?」

タクロー「大丈夫だよ。」

ナミ「始まる前に泣かないでね。」

タクロー「わかってるさ。」

スタッフ「お父様、こちらに。」


ドキドキしてついていく。

なにしろ、これからバージンロードを歩くのだから。


リナ「お父さん…」

タクロー「バカッ!今は何も言うな。」

リナ「お父さん、今日までありがとう。いつも私のこと大事にしてくれて。」

リナ「わたしの大好きなお父さん!」


まだバージンロードを歩いてもいないのに涙がポロポロこぼれて。

生まれたあの日の事思い出していた。

そんな娘が今日結婚式。


ガーッ。


扉が開き、バージンロードには天井近くのステンドグラスから光が差し込んでいた。

まるでこれから歩く道を照らしているかのように。

涙がポロポロ止まらないなか娘をエスコートして歩く。

新郎の元に着いて、娘を見送る父親。

あの日ナミと出会い、結婚して娘が生まれ、その娘が今日巣立っていく。

いろんな気持ちで胸がいっぱいだ。


ナミ「お疲れ様でした。」

タクロー「俺の役目はここまでだ。」

ナミ「後は見守りましょう。」


涙が止まらない。

泣いてばかりの結婚式だったが、リナは幸せいっぱいの顔で嬉しかった。

今日という長い1日が過ぎようとしていた。


ナミ「お父さ〜ん。」

タクロー「おっ!どうした?」

ナミ「生まれたってー。」

タクロー「おー!そうかっ!」


結婚式から半年経ったこの日、新しい命の誕生である。

この日から全てが始まる。












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