第2話 あの日

タクロー「どこから話せば。」

ナミ「最初から。」

タクロー「あれは、ナミと会う1週間くらい前かな?」

ナミ「えっ?そうなの?」

タクロー「うん。ナミと会うちょっと前に朝起きたらいきなりいたんだ。」

ナミ「その娘が?」

タクロー「そう。」

ナミ「どういうこと?」

タクロー「起きたらいてさ、びっくりして気絶したわけ。」

ナミ「タクローが気絶とは珍しい。」

タクロー「誰でも気絶は珍しいと思うが。」

タクロー「で、目が覚めたら事情説明しだしてさ。」

ナミ「自己紹介的な?」

タクロー「まっ、そうなるか。本人が言うには俺の遠縁で、学校の休暇でこっちに来たとかで。知り合いとかいなくて、おばあちゃんから俺の話聞いたの思い出してここに。」

タクロー「みたいな。」

ナミ「で、なんでいきなり部屋にいたの?」

タクロー「俺も聞いたんだけど、ピンポン鳴らして返事なくて、鍵空いてたから勝手に入っちゃったとかで。」

ナミ「不用心だね。」

タクロー「そっちか?勝手に入ったほうじゃなくて?」

ナミ「あっ、そっちか。」

タクロー「まっ、そんでこっちに来た理由が亡くなったおばあちゃんの思い出めぐりみたいだったから、なんか協力したくてさ。」

ナミ「このお人好しが!」

タクロー「親戚って言ってたせいか他人って気がしなくてさ。不思議と。」

ナミ「へー、それで色々手伝ってたんだ。」

タクロー「手伝ったっていうか、なんかそうしなきゃって思って。」

ナミ「それでここに住んでたんだ。」

タクロー「居たのは数日くらい。」

ナミ「えっ?それだけ?」

タクロー「そう。短い間。」

ナミ「なんだ、結構長い事居たんじゃないんだ。」

タクロー「少しの間だけど色々手伝って、不思議な感じだったな。」

ナミ「かわいい??」

タクロー「ああ、かわいかったな。」

ナミ「やけに素直な!」

タクロー「聞くから。」

ナミ「おばあちゃんの思い出めぐりは無事終わったんだ?」

タクロー「うん。なんかわけわからない事多かったけど。」

ナミ「わけわからない?」

タクロー「例えばピザ初めて食べたとか。」

ナミ「へぇ、珍しいね。」

タクロー「オムライスも。」

ナミ「日本人?」

タクロー「そうだよ。」

ナミ「それで色々終わって故郷に帰って行ったわけね。」

タクロー「そうだと思う。」

ナミ「思う?」

タクロー「朝起きたらいなくて。目覚まし時計のボイスアラームいつも聞いてるあれをいれていなくなった。」

ナミ「そうなんだ。」

タクロー「最後に言ってた事は、ナミと会う日にあのベンチに座るなって。」

ナミ「えっ!?」

タクロー「そーいや、あのベンチも動かしてたな。手伝わされたけど。」

ナミ「えーっ!?あのベンチ動かしたのタクローだったの?」

タクロー「うん。そんでナミと会う日に絶対ベンチに座るなって。約束させられた。」

ナミ「なにそれー。予言者?」

タクロー「俺驚いてさ。ナミと会った直後に命拾いしたし。」

ナミ「だからあの時空に向かってありがとうって言ってたんだ。」

タクロー「それは記憶にない。」

ナミ「わたしは覚えてる。」

タクロー「まっ、話はそんなとこだな。」

ナミ「それは不思議だね。その娘はそれっきり連絡ないの?」

タクロー「うん。」

ナミ「ホント不思議。」

ナミ「わたし達のキューピット的な人?」

タクロー「かもな。」

ナミ「で、あの目覚まし時計使ってるわけだ。」

タクロー「数日の事だし、恋愛とかじゃなく忘れてはいけないような、なんかそんな気がしてさ。」

ナミ「そっか。なぞが解けてよかった。」

タクロー「それならよかった。」

ナミ「…う〜。」

タクロー「どうした!?ナミっ!」

ナミ「う〜っ」

タクロー「大丈夫か?ナミっ、今すぐ救急車呼ぶからっ!」

ナミ「タクロ〜、大丈夫。大丈夫だから。」

ナミ「救急車は大丈夫だから、タクシー呼んで。」

タクロー「わかった。」


タクローはタクシーを呼んだ。

ナミは少し落ち着いてる。

タクローは少し不安そう。


ナミ「わたしは大丈夫よ。」

ナミ「もう生まれるみたい。」

タクロー「あっ、来た来た。」

タクロー「よし、病院行くぞ。大丈夫か?」

ナミ「うん。」


2人はタクシーに乗った。

不安そうなタクロー。

そんなタクローを見て。


ナミ「わたしは大丈夫だって。」

タクロー「お、おう。」

ナミ「タクロー大丈夫?」

タクロー「大丈夫だよ。俺は。」

ナミ「そっかなぁ。」

タクロー「あっ、もう着く。」

運転手「横の救急の玄関に停めますね。」

タクロー「ありがとうございます。」


ナミはそのまま入院。

タクローは1度家に戻って、朝にまた着替えなど持ってくる事に。


ナミ「気をつけて帰ってね。」

タクロー「大丈夫。歩いても20分あれば着くから。」

ナミ「じゃあ、また明日ね。」

タクロー「おう、また明日な。」


1人で歩く帰り道。

月明かりがやけに明るく夜道もそんなに怖く感じない。

人もまばらな午前0時の街並み。

ナミが大丈夫で安心したせいか、夜風がなんだか心地よい。

家までは20分くらいかかるのだが、今夜は不思議と近く感じる。

歩きながら子供の名前を考えていた。

男か女か、まだわからない。


ガチャ


タクロー「ただいまって、誰もいないか。」


ナミは病院なので久しぶりに1人の家。

初めて会った日に付き合う事になり、1週間後には一緒に住むようになり、それ以来ずっと2人だったせいか、静かに感じた。

子供が産まれたらおそらく引っ越すであろうこの部屋も、長い事住んでるので結構気に入っている。

このアパートには子供もいるので、このまま住んでるのもありなんだろう。

そんな事をタクローは考えていた。

1人で少し広いこの部屋も、いつのまにか2人になりそして3人になる。

色々考えていたせいで、かなり遅くまで起きていた。


「起きろー」


タクロー「はっ、朝か。」


最近は目覚まし前に起きているのだが寝たのが遅いせいで、久しぶりに聞いた気がしていた。

ナミの荷物を用意して朝ごはんは軽くパンを食べる。

家を出て少し歩いたところで立ち止まったタクロー。


…ここは?


あの日、ここにおばあちゃんが住んでいたって言ってた場所である。

売りに出されてるみたいだ。

…思ったより高くないんだなぁ。

そんなに都会ってわけでもないここら辺の土地はそんなに高くなかったのだ。

…住み慣れたこの辺りに家を建てれたらいいかもな。

もうマイホームなんかを考えていた。


ナミ「あっ、おはよう。」

タクロー「おはよう。大丈夫?」

ナミ「大丈夫よ。」

タクロー「午前中の会議だけでたらすぐくるから。」

ナミ「無理しないでね。」

タクロー「会社には言ってあるから大丈夫だよ。」

ナミ「行ってらっしゃい!」

タクロー「おう。すぐ戻ってくる。」

ナミ「待ってるね。」


会議が終わった頃。

携帯のバイブが。

ブーッブーッ


タクロー「はい。」

病院「ナミさんの旦那様ですか?」

タクロー「はい。お世話になってます。」

病院「ナミさんが…、すぐ来れますか?」

タクロー「…はいっ、すぐに!」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る