第37話 憐れ

 正社員というのが飼い犬ならば、僕は野良犬ということになるのだろう。

 気ままに生きて、誰かのエサをアテに生きる。

 鎖に繋がれない代わりに、野ざらしで生きる。


 壁の向こうの飼い犬が羨ましく…憐れにも見える。

 自ら鎖を抜けた僕にとっては、捨てられた犬とは違うプライドがある。


 自分で選んだという責任がどういうことか…僕は知らなかっただけ。


 どうとでもなる。

 そう思っていた。

 飼い犬は知らないだけ…

 世界は広く、己の能力など無価値に等しいということを…


 僕の25年など…無価値だったと、冷たい雨に身を晒す。


 飼い犬が食べ残した、雨水が溢れるエサ皿からエサを貪る…


 惨めだ…無様だ…


 それでもプライドが残るなんて…

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