3.戦

 朝、エイレスのもとに村長がやって来た。仕事の話だった。

 「今日なんだが、街まで行ってきてもらいたいのだ。この村でも作物は取れるがそれでもどうにも出来ないものがある。だから荷馬車で行ってもらいたいのだ」

 エイレスは何を買ってくれば良いのかと聞いた。

 村長は紙を渡して「ここに書いてあるものを買ってきてほしい」と言った。任せたぞと言い残し村長はその場を後にする。

 その紙を持ってエイレスは荷馬車へと向かう。そこへエウがやって来て頼み事をした。

 「エイレス、私も乗せてください。買いたいものがあるので、手伝えることがあれば手伝いますから」

 エイレスは尋ねる「仕事は大丈夫なのか?」

 エウは「大丈夫です。言って来たので」と言いながら荷馬車に乗り込む。問題は無いだろうと思いエイレスはエウを乗せて行くことにした。

 

 荒野の中、荷馬車は走る。

 街までは一時間ほどを掛かり無事に着いた。買うものは油や魚など村では生産できない物ばかりだった。街の案内はエウがしてくれた。

 「そこが油屋、酒屋、あっちが魚屋です。」エウは何を買うのか疑問に思いエイレスは聞いた。「エウは何を買いに来たんだ」エウは笑顔を見せ、それは言えないと言ってどこかへ行ってしまた。エイレスは不思議に思った。


 すべての買い出しが終わり後はエウが帰ってくるのを待つだけだった。そのとき人々が噂話をしているのが耳に入った。

 「隣村が東国の剣士共に滅ぼされたらしい。」

 「時期にこっちに来るんじゃないか。」

 「いや、その前に周辺の村を殲滅していくはずさ。きっとこの街を包囲するだろう。」

 「逃げなくて良いのか」

 「この街は安全さ。あんな田舎剣士にやられるほど落ちぶれては居ないからな。」

 エイレスはその話をしている人達に尋ねた。「一体どこの村が襲われたのだ」エイレスは突然話しかけたせいもあり住人は驚いたように答えた。

 「北の方の村だよ」北はエイレスが今住んでいる村の方角だった。あの村にも戦が迫っている。それを知りエイレスは自分の身体が冷たくなってくるのを感じた。

 「エイレス遅れてしまいました。頼まれたものは買い終わりましたか?」エイレスはエウの言葉に反応できなかった。

 「エイレスどうしたんですか?」エウはそう言ってエイレスの肩を触った。そこでエイレスは我に返るのだった。

 「エウ。大変だ村が危ない。早く戻ろう」エウは可笑しく感じてどうしたのか尋ねた。

 エイレスは荷馬車に乗り込んだ。エウも乗ったのを確認すると手綱を取り言った。「街の人達が話していたんだ。北の方の村が滅ぼされたと、あの村にも戦が迫っている」荷馬車は来たときより早いスピードで走る。

 「噂が本当かはわからないじゃないですか」そういうエウにエイレスは「じゃあ、確かめてみよう。私達の居る村から東側の村を見に行こう」

 エウは心配そうに「エイレス」と呟いた。村に帰るには少し遠回りになる。噂通りであればただごとでは無く、確認すべきことだった。

 

 東側の村に見えてきた時、様子がおかしいことに気がついた。慌てて荷馬車を止めて村を確認した。微かに見える煙、建物の形もおかしく感じた。しかしここからではそれ以上は確認できなかった。

 エイレスは荷馬車を木々の影に隠し言う。

「エウ、ここで待っててもらえるか」エウは頷いて「無理はしないでください。」と言った。

 エイレスの表情は硬く緊張しているように見えた。

 荷馬車から馬を外すとエイレスは馬にまたがり走り出した。気づかれないようになるべく影にまわる。

 そして村の全体がはっきりと見えてくるところで止まった。明らかに村人ではない人間が百人ほどは居た。その姿にエイレスは見覚えがあった。そして男女、子供関係なく無残に亡骸が山に積まれている。それを見たエイレスは思わず吐き気を感じ口を手で塞ぐ。その手は震えていて思うように動かせなかった。

 すぐにこの場を立ち去らなければと思い後ずさり馬にまたがったところに一人の男が物陰から出てきて声をかけてきた。

 「エイレスじゃないか。お前どこに行っていたんだ。俺達はお前のこと心配してたんだぞ」

 エイレスは心臓を握りつぶされるような感じがした。そして震えを抑え、ゆっくりと馬を降りた。

 「来いよ」

 エイレスは言われるがまま付いていこうとしたが「少し待ってくれ」とエイレスは力のない声で男に言った。「ああ」男の足は止まった。エイレスは馬に男が聞こえないほどの声で話しかけた。

 そして馬はエイレスの元から離れて走ってゆく。男が「馬が行っちゃったけど良いのか」そう聞かれたが「ああ、問題ない」と答えた。

 そして男は歩きながら親しげに話しかけてくる。

 「久しぶりにエイレスの戦うところを見たいよ。この村の奴らもなかなか手強かったけど、まあ結局はただの農民さ」

 「そうか」

 エイレスは返事を返したが、返事はいらないようで話を続ける。

 「こうやって周りを皆駆逐していくのさ。最終的にはあの街を支配すれば任務完了。最初はどうなるかわからなかったけどさ、やっていくうちに現実的になって来て、人を殺すことも楽しくなってきたわけだよ。お前もそうだろう。あれだけの使い手だもんな。伝説的だよ。剣使いが多かった村の奴らを一人で数百人殺すなんて、今いるやつでできるかな。いるとしたら隊長くらいかなあ。」

 沈黙するエイレスに笑いながら語りかけてくる。男は剣士たちのいる方へ大きな声で呼び手を振った。

 「英雄のお帰りだ」

 皆エイレスのいる方を見た。

 「噂じゃあ。戦うのが怖くなって逃げたって聞いたけど」と周りの男達がブツブツと言っているのをエイレスを連れてきた男が「何を言ってるんだ。怖いなら帰って来るわけ無いだろう。お前みたいなぼんくらと違うんだよ。」と言ってみせた。

 隊長と思わしき男も近づいてくる。身長はエイレスより遥かに大きかった。その威圧的な雰囲気はここでしか役には立たないだろう。

 「エイレスどこに居た」

 エイレスは今までの雰囲気とは変わり、常人は近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

 「少し休んでいただけです。たまにそういうときも必要です」

 「確かにお前の活躍はそれに値する。だが剣はどうした。」

 「剣は途中で金に変えました。思ったより金が掛かりまして。」

 隊長はエイレスを睨み「良いだろう。エイレスに剣と服を渡してやれ。」そう言って隊長は占領したと思われる家の中に入って行く。エイレスも隊長に付いて行きながらそっとエウのいる方向に目を向けた。

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