27話-2、秋野原 清美と言う女性

 お嬢様の第一印象は、なんて言えばいいんだろうか。窓から差し込んでくる日差しが、後光と見間違えるほど優しい表情であり、その優しさの中には時折、寂しさと孤独感が垣間見えてくるような。

 髪色はうっすらと茶色に染まっているセミロング。服装は、赤いチェック柄のパジャマを着ている。私達が来る前まで本を読んでいたのか、片手には開いている小さな本を携えていた。

 見た目は私よりも幼そうであり、座高を見る限り、私よりも背が低そうである。そんなお嬢様が私とメリーさんに目を合わせるや否や、ふんわりと微笑んでくれた。  


「やあ、メリーさん。待ってたよ~。そちらの方が、いつも話をしてくれていた相原あいはらさん?」


「こんにちわ清美きよみっ。そうよ。この前電話で話した通り、清美に会わせたくて連れてきたの」


「あ、相原あいはら 香住かすみですっ! は、初めましてっ!」


 ガチガチに緊張しての、凄まじく裏返った声のぎこちない自己紹介。初めての人と話すと、どうしても緊張してしまう。

 しかも、今日は相手がお嬢様とあってか、その緊張の天井が突き抜けてしまっている。

 そんな恥ずかしい自己紹介を終えると、お嬢様は怯むことなく再び笑みを浮かべてくれて、軽く会釈をした。


「こちらこそ初めまして。秋野原あきのはら 清美きよみです。わざわざ出向いて来てくれたのに、私はベッドの上からですみません」


「い、いえっ! 病弱な体だと伺っておりますっ! そのままご安静なさっててくださいましっ!」


 私のあまりに腰の低い対応に、秋野原さんは気になってしまったのか。微笑ませた表情を崩し、苦笑いになる。


「あの、普通にしても大丈夫ですよ。お互いに気疲れしちゃうでしょうし」


「はえっ!? あっ、す、すみません……。色々とすごい光景を目の当たりにしてきたので、ものすごく緊張していました……」


「あ~、やっぱり。とりあえず、立ち話もなんなので、そこにあるソファーに座ってください」


 秋野原さんが気遣いを入れ、ベッドの近くにあるソファーに手をかざしてくれた。私は言われるがままソファーに腰を下ろす。もちろん、背筋を限界までピンと伸ばして。

 信じられない程にフカフカなソファーだ。私の家にあるベッドよりも遥かに居心地が良く、ここで横になればすぐにでも眠れそうだ。

 その気持ちの良いソファーを無視して、メリーさんは私の太ももの上にちょこんと座る。私が無意識にメリーさんの体を抱きしめると、秋野原さんは羨ましそうな眼差しを向けてきた。


「相原さんとメリーさん、本当に仲がいいですね。羨ましいなぁ~」


「あっはははは……。最早、これが自然体になっちゃっています」


「いいなぁ。私はまだメリーさんの体すら触った事ないのに。相原さんとメリーさんは、どうやって知り合ったんですか?」


 秋野原さんに質問されると、私は目線を天井に上げる。


「え~っと……。ある日突然、メリーさんから電話が掛かってきたんです。『私、メリーさん』って。それで最初は、ものすごく怖くて泣いてしまったんですが……。毎日のように来るので、だんだんと慣れていっちゃいまして」


「あっ、私と一緒だ! やっぱり切っ掛けは同じみたいですね」


「秋野原さんもそうなんですね」


 私がやや落ち着いた口調で返答すると、秋野原さんは小さく頷(うなず)いた。そして、メリーさんに目を向けたかと思うと、口に手を当てて「ふふっ」と笑う。


「はい。メリーさんってば、かなりお茶目なんですよ? バナナを携帯電話に見立てて話を始めたり、バナナの皮を食べちゃったりするんです」


「ちょ、ちょっと清美っ! 恥ずかしいから言わないでよっ!」


「え? そんな話、まったく聞いた事がないです。本当なんですか?」


 秋野原さんを通して初めて耳にする話を聞き、私もメリーさんに目を移す。そのメリーさんは顔を真っ赤に染めていて、小さな身体をわなわなと震わせていた。


「し、仕方ないじゃないっ! あの時は、何も知らなかったんだから……」


「本当の話なんですね。私も見てみたかったな」


「あっ、じゃあそこにフルーツの盛り合わせがあるんで、よかった二人で食べてください。メリーさんはバナナを食べてね」


「な、なんで私にはバナナを勧めてくるのよ!? もうちゃんとわかってるから、絶対にやらないんだからねっ!」


「え~、残念だなぁ。メリーさんなら、もう一回やってくれると思ったのに」


「やらないって言ってるでしょ! 普通に食べるんだからねっ」


 秋野原さんとメリーさんが、冗談を交えて楽しそうに会話をしている。この光景はかなり新鮮であり、聞いていた私も自然と笑みが零れてきた。

 この後からは、お互いにメリーさんの知らない事をどんどん話し合っていきました。

 その間にも、メリーさんは恥ずかしそうに声を上げ、顔を更に赤くして、終いには頬をプクッと膨らませて拗ねちゃいましたが。


 だけども最終的には、拗ねたメリーさんも会話に加わり、時間を忘れて話し合い、楽しいひと時を過ごしていきました。 

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