15話-2、お互いに嬉しい気持ちになるプレゼント

 電話をしようと思ったけど、恥ずかしいからしないで清美きよみの家の前まで来ちゃった。電話をしたら、うっかり「お花を持っているの」って言っちゃいそうだしね。

 何もしないで部屋まで行けば、清美も油断して驚くかもしれないし、私にとっては良い事尽くめだわっ。

 姿と気配を消せば、庭に沢山いる黒くて怖い犬にも気がつかれないし、さっさと正面から入っちゃおっと。





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 清美が寝てるベッドの上まで来たけど、清美の奴、大人しく何かの本を読んでるわね。たまに苦しそうな咳をしてるけど、体の調子が悪いのかしら?

 まあいいわっ。プレゼントをあげる前に、この前みたく急に目の前に現れて、大声で驚かせてやろっと。


「ワアァァァーーーーッ!!」


「ヒャアッ!? め、めめっ……、メリーさん!?」


「うふふっ、やっぱりこれが一番効果があるわねっ」


「で、電話が無かったから完全に油断してたや……。ビックリしたぁ~……」


 清美ったら、胸を抑えて目を丸くしてるわっ。本気で驚いたみたいね。だけど、なんだろう……。電話をしてからここに来て驚かさないと、私のやり方に反してるような気がする……。

 驚いてくれたのは嬉しいけど、イマイチ達成感が無いというか、なんというか……。あっ、そうだ。本来の目的である感謝のプレゼントをあげないと。


「んっ」


「これは、花? いっぱいあるし種類も豊富だね。どうしたのこれ?」


「清美にあげるわっ」


「わっ、私に?」


「うんっ、おいしい物をいっぱい食べさせてくれたお礼よ」


「お礼……」


 目的は果たせたけども清美の奴、お花を受け取るとキョトンした表情になっちゃった。あまり喜んでくれてないみたいだし、そこら辺に生えてたお花じゃダメだったのかしら……?

 塗鬼ときめ、嘘をついたわね。後で文句の電話をしてやらないと。お花をプレゼントしても全然喜んでくれなかったってね。その後に塗鬼がいる場所まで行って、しこたま驚かせてやるんだから。

 私が不服そうに心の中で文句を垂らしていると、キョトンとしていた清美がお花に顔を近づけて、匂いを嗅ぎ始めた。

 すると表情がふわっとほころんで、私にしか聞こえないような小さなため息をついた。


「う~ん、すごくいい香りだ。ありがとうメリーさん」


「め、迷惑じゃなかったかしら……?」


「ううん、とっても嬉しいよ! 花瓶に入れて部屋に飾っておくね」


「……そう、よかったっ!」


 どうやら清美は喜んでくれたみたいね、本当によかった。なんだか、プレゼントをした私も嬉しくなってきちゃったわっ。よし、この調子で香住かすみにもお花をプレゼントしよう。

 香住にはずいぶんとお世話になってるから、もっと綺麗なお花をうんとあげないと。そうと決まれば、早く山奥まで戻ってお花を摘まないとね。 

 

 香住は、お花をもらって喜んでくれるかしら? うふふっ、楽しみだわっ。





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 結局、香住にも電話をしないで部屋まで来ちゃった。香住ったら、呑気にベッドで寝ながらおせんべいを食べて、携帯電話をいじってるわっ。

 でもなんだか、急に辺りをキョロキョロと見始めたわね。何かを探してるのかしら? 天井や床まで全部見渡してる。ちょっと様子がおかしいような……。


「なんだろう、メリーさんの気配がする……」


 な、なんなのこいつ!? 姿と気配を完全に消してるっていうのに、私が近くにいるのがわかってるっていうの……? 恐ろしい奴ね……。

 と、とりあえず先制攻撃をしてやろっと。目の前に急に現れて大声を出して叫べば、流石に香住も驚くでしょう。よし、やるわよ!


「ワアァァァーーーーーッ!!」


「あっ、メリーさん! やっぱりいたんですね」


「や、やっぱりじゃないわよ! なんで私がいるってわかってたのよ!? 少しは驚きなさいよ!」


「いや~、雰囲気っていうんでしょうか? あっ、メリーさんが近くにいるかもって、感覚的に分かりまして」


 ふ、雰囲気や感覚で、姿と気配を完全に消してる私がいるってわかるっていうの……? これじゃあ、電話をしてもしなくても変わらないじゃない……。

 ま、まあいいわっ。今回は驚かせるのが目的じゃないから別にいいけど、今後の対策を考えておかないとね。いい勉強になったわっ。それじゃあ、香住にプレゼントをあげよっと。


「香住っ、これあげる」


「えっ、私にですか? うわぁ、綺麗なお花が沢山……。なんでまた?」


「香住にはいつもお世話になってるから、そのお礼のプレゼントよっ」


「ぷ、プレゼント!?」


 私がプレゼントを渡した途端、香住が大声を出しと思ったら、今度は黙り込んじゃったわっ。そして目をお花に向けた後、床に下がっていっちゃった。

 お花はイヤだったのかしら……? やっぱり欲しい物を聞いてからプレゼントをするべきだったかもしれない。どうしよう、香住は黙り込んじゃったし、この静かな間が重く感じる。

 とても気まずい間だ。もしかしたら、香住は私の事を嫌いになったかもしれない。その証拠に黙っていた香住が、すすり泣き始めちゃった。大変な物をあげちゃったようね……。


「ご、ごめんなさい香住……。香住がそんなにお花がイヤだったなんて、私知らなかったの……」


「ち、違うんです。家族以外にプレゼントを貰った事が無かったので、嬉しくて、つい……」


「うれ、しい……?」


 今、嬉しいって言ったのよね? イヤだったから泣いたんじゃなくて、嬉しさのあまりに泣いたの、よね?

 お花がイヤで泣いたんだと思ったから、ものすごくビックリしちゃった。


「か、香住っ……。喜んでくれた、かしら?」


「はいっ、ものすごく嬉しいですっ! 本当にありがとうございます、メリーさん。私の家宝にしますね!」


「……よかったっ! 香住が喜んでくれて、私も嬉しいわっ!」


 香住が泣きながら、笑顔で私にお礼を言ってきてくれた。よかった、本当によかった! 清美が喜んでくれた時も嬉しかったけど、香住が喜んでくれると、それよりももっと嬉しくなっている自分がいる事に気がついた。

 この違いがなんなのかわからないし、なんとも言えない感情だ。ただ、心の底から嬉しいのは違いない。不思議と温かい気持ちだわっ。

 

 泣いて喜んでいた香住が、今度は血相を変えて携帯電話をいじり始めた。ものすごく必死になってるけど、何をしてるのかしら?


「か、香住っ? 携帯電話を睨みつけて、なにをしてるの?」


「えっと、お花を永久保存できる方法を探してまして……。ドライフラワー……、レジン……、ブリザーブドフラワー……、これだっ! ……あ~でも、流石に永久保存は出来ないかぁ」


「えいきゅう、ほぞん?」


「はい、お花を枯らせずにずっと保存しておく事を言います。メリーさんから貰った大事なお花を枯らせるワケにはいきませんからね! この近くに、ブリザーブドフラワー加工をしてくれるお花屋さんはあったかな?」


 気合の入り方が凄まじいわね……。何はともあれ、お礼のプレゼントは大成功だわっ。塗鬼にお礼の電話をしておかないと。

 だけど、こんなに喜んでくれるなんて思ってもみなかったわっ。私も満足したのか、自然と微笑んじゃってる。またプレゼントをしてみようかしら?


「メリーさん、これからお花屋さんに行くんですが、一緒にどうですか? 帰りに好きな食べ物を買ってあげますよ」


「えっ、いいの?」


「はいっ、お礼のお礼です。なんでも言ってくださいね」


「……じゃあ、一緒に行こうかしらっ」


 お礼のお礼なんてあるのね、知らなかったわっ。それじゃあ今度は、お礼のお礼のお礼をしてやろっと。そうしたら、今度は香住からお礼のお礼のお礼のお礼が……、なんだかややこしくなってきたわね。

 なら、香住と私、どっちが先に折れるか勝負をしよっと。……こんな楽しい毎日が、ずっと続いてくれればいいのになぁ。

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