13話-1、夢だった砂場遊び

 特にやる事がないから、この世に生まれてから初めて私を泣かせた忌々しい公園に来て、暇を潰しているけど……。

 砂場を見ると、当時の嫌な記憶が蘇ってきて、胸がチクチクと痛くなってくるのよね。

 だけどそれと同時に、砂場で遊んでる子供達と一緒になって遊んでみたいっていう気持ちも蘇ってくる。


 生まれて初めてこの公園に訪れた時。私は最初、自分の事をちょっと変わった人間の子供だと思ってたの。

 でも、公園にいる人間達は全員、私の姿が見えてなかった。

 その時の私は、全員に無視されてると思って泣いちゃったけど、今は違う。ちゃんと自分の立場を弁えていて、自分の姿を意のままに消したり出せたりする事ができる。


 私はメリーさんという都市伝説の存在だけど、砂場で遊んでみたい。その気持ちは当時と変わってないわっ。だから今日こそは、勇気を出して子供達に声を掛けて一緒に遊んでみよっと。

 現在、砂場で遊んでいる子供は三人。やんちゃそうな男の子が二人と、女の子が一人。無邪気な顔をして、砂に水をかけて遊んでるわっ。……楽しそうだなぁ。それじゃあ、行くわよ!


「あ、あのっ!」


「んー? なーに?」


「わ、私も一緒に砂遊びをしても……、いい、かしら?」


「えっ? ……えっと。みんな、どうする?」


 どうしよう、あまり良くない雰囲気だわっ……。すんなり入れてくれると思ってたけど、やっぱりそうもいかないみたいね。

 たぶんここで断られたら、再び心が折れて、二度とこの公園には来れなくなっちゃいそう……。いや、絶対になっちゃうわっ。


 やめておけばよかった。そもそも子供達の間では一時期、住宅街周辺にメリーさんが出没するっていう噂が流れてたのよね。

 容姿も割れちゃってるし、この子達も私の正体を知ってるかもしれない。怖がられたらどうしよう……。昔みたいに泣かないとは思うけども、また心に傷がついちゃうかもしれない……。

 ヒソヒソ話も長いし、私の事を怪しんだ目で見てくるし、完全に私の正体がバレちゃってるわね。子供達が泣きながら逃げ出す前に、私から消えようかしら。


「うん、いいよっ! 一緒に遊ぼう!」


 ほら、やっぱり私を怖がって―――……。あれ? いま、いいよって……、言った? 耳を疑った私は子供達に目を移すと、無垢な笑顔を私に向けていた。やっぱり、聞き間違いじゃ、ない?


「い、いいの……?」


「うんっ! これからダムを作るんだ、一緒に作ろうよ!」


「……や、やったっ! ありがとっ!!」


 ……嬉しい、嬉しいっ、嬉しいっ! 完全に諦めてたけど、勇気を出して声を掛けてみてよかったっ! 嬉しくて涙が出ちゃいそうだけど、ここで泣いたら変な目で見られそうだから我慢しないとっ。

 それよりも、ダムってなんなのかしら? 乾いてる砂に水をかけて、固めて四角い壁を作ってるようだけど、その通りに作っていけばいいの、よね? 聞いてみよっと。


「みんなの真似をして、壁を作ればいいのかしら?」


「そーだよー。厚い壁を作って、その中にこのバケツを使って水を入れていくんだ」


「へぇ~、わかったわっ。それじゃあ、とびっきり大きいのを作りましょ!」


「うん、そうしよっ!」


 勢いで大きいの作ろうって言っちゃったけど、壁を作って水を入れるだけで終わりなのかしら? それが、ダム……?

 砂場遊びって、ずっと砂をいじって遊ぶものだと思ってたけど、何かを作って楽しむ遊びでもあるのね。なるほど、面白そうだわっ。やってやろうじゃないの!


 みんなの真似をして、水をかけて砂を固めて壁を作って……っと。なによ、簡単じゃない! よしよし、このままどんどん大きくしてやろっと。


「ねぇねぇ。君、綺麗なドレスみたいな服を着てるけど、どこかのお姫様なの?」


「へっ? ひ、ひめっ? ち、違うわよ」


「なんだ、違うんだー。とってもカワイイ顔をしてるから、そうなんじゃないかなーって思って」


「か、カワっ!? カワ、イイ……? 私、が?」


「うんっ、すごくカワイイよ」


「ふぁっ……。あ、ありが、……とう」


 い、いきなりカワイイって言われちゃった……。どうしよう、自分でもわかるぐらいに顔が熱くなっちゃってる……。

 たぶん、これ以上に無いくらいに顔が真っ赤になってるハズだし、頭からは湯気が昇ってるハズ……。は、恥ずかしいっ……。……でも、悪くない。すごく嬉しい。


「名前はなんていうの?」


「な、名前っ!?」


「うんっ」


「えっと、メ―――……、ハッ!?」


 バカッ。メリーさんって名乗ったら、一発で正体がバレるじゃないの! やだ、この関係は絶対に壊したくない。もっと慎重にいかないと。

 えっと、えっと……。ダメ、恥ずかしくて頭が全然回らない。早く言わないと怪しまれちゃう。ど、どうしよう……。


「め?」


「あっいやっ、そのっ……。ま、マリー、そうっ、マリーよっ!」


「マリーちゃんかぁ。目が青いし髪の毛もサラサラした金色をしてるし、やっぱり外国の子なんだねぇ。よろしくっ」


「よ、よろしくっ!」


 危ない危ない。なんとか誤魔化せたけど、ここではマリーになっちゃったわね。メリーと大して変わらないからいいけど、呼ばれたらちゃんと振り向かないと。

 それにしても、咄嗟とっさに答えちゃったけど、がいこくってなんなのかしら? 幼い子供だってのに、私がわからない事をどんどん言ってくるわね。頭が良いのかしら?

 

 ……よしっ。砂の壁も私の胴体ぐらいまで高くなったし、そろそろいいでしょ。みんなもバケツに水を入れ始めてるし、私もそっちを手伝おっと。

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