5話-1、vs病弱な少女

 あれから色んな物を見て学んできたけど、青い紙と丸いヤツはお金と言って、仕事っていうのをしないと貰えない物なのね……。人間じゃない私には、無理な事だわっ。

 聞いた話だと、この街では人間に化けて仕事をしている妖怪がわんさかいるようだけど、見ても全然わからないから、会えることはなさそうね。

 ……そろそろ携帯電話は直ったかしら? 直ってくれないと何も出来ないし……。このままじゃ、メリーさんの名が廃れちゃうわっ。試しに適当に掛けてみよっと。 


 プルルルルルル……、プルルルルルル……、ピッ。


「ゴホッ……。も、もしもし?」


 出たっ! やったっ、直ってたわっ! よーし、それじゃあこれから私の本業を再開しようかしらね。


「私、メリーさん。いま、住宅街にいるの」


「め、メリーさん? ……初めまして」


「今からそっちに向かうから、震えて待ってなさい」


「えっ、こっちに? 私に何か用でも―――」


 ピッ……。


 ふっ、ふふふっ、うふふふふっ……。これよこれっ。これがやりたかったのよっ! やっとできたわっ! さてと、早速今電話に出た女の家に行こうかしらねっ。

 結構近くにあるみたいだし、またすぐに電話してやろっと。こういうのは、マメに掛けるのが大事なのよね。でも、相当大きな家だったわね。お姫様か、なんかのかしら?




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 着いたわっ、ここね。改めて見てみても、ものすごく大きな家だわっ。入口の前に居るけど、左右どっちとも彼方まで続いている。さてと、どこから入ろうかしらね。

 それにしても、なんで庭に噴水があるのかしら? 黒くて怖そうな犬もいっぱいいるしい……。まさか、公園じゃないわよね?

 ……まあいいわっ。それじゃあ、また電話してやりましょっと。今頃ガタガタ震えているハズよ。はぁ~っ、想像するだけでニヤけてきちゃうわっ。ふふっ。 


 プルルルルルル……、ピッ。


「も、もしもし?」


「私、メリーさん。いま、あなたのおうちの前にいるの」


「さっきの子だね。どうして私の家を知っているのかは分からないけど、入るのはやめた方がいいよ? 訓練されたドーベルマンがいっぱいいるから、噛まれて大怪我しちゃうよ?」


 あらっ、思ってたより怯えてないじゃないの。しかも心なしか、私の事を心配しているような口ぶりね……。あったまきたわっ! もっと近づいて怖がらせてやるんだからっ!


「それよりも、自分の身を心配した方がいいわよ?」


「えっ? もしかして、私の部屋まで来るつもりなの? 目的は、なに? ここに来ても何も―――」


 ピッ……。


 決まったわっ、今のは完全に決まったわっ! 我ながらカッコイイセリフじゃないのっ! 相手の女、今ので相当ビビったハズよっ! う~んっ、気持ちいいっ!

 さて、それはそうと。あの女の部屋に行こうにも、確かにあの黒い犬は怖いわね……。犬がいない入口を探さないと。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 裏まで回ってみたけど、ここには怖い犬がいないわね。よしっ、ここから入ろっと。あらっ、扉に鍵が掛かってないわね。まったく、用心がなってないわね。物騒じゃないの。

 まあ掛かっていても、私はすぐに開けられちゃうから関係ないけどね。……家の中も相当な広さだわっ。そこらかしこにツヤツヤした壺が飾られていて、壁には落書きみたいな絵が沢山掛けられている。

 ……床がとってもふかふかしてるっ、寝っ転がってみたいわっ。……汚いからやめておきましょっ。さてと、あの女の部屋は三階の角部屋ね。うふふっ。怯えて待ってるがいいわっ!




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 やっと着いた……。ここまで来るのに、二十分以上掛かっちゃった。疲れたわっ。ここまで来るまでに何個も見てきたけど、どの扉も大きくてピカピカしてるわね。

 さあっ、とてもこわぁ~い電話をしてやろっと!


 プルルルルルル……、ピッ。


「もしもし?」


「私、メリーさん。いま、あなたの部屋の扉の前にいるの」


「嘘っ、本当にここまで来ちゃったの!? ……いったいどうやって―――」


 ピッ……。


 ふふっ……。怯えてる、相当怯えているわっ! なんだかもう、楽しくなってきちゃったっ! 今あの女は、恐怖で震えながら扉をじっと見ているハズ。

 だけど残念ねっ! 姿を消して、壁を通り抜けて、あんたの背後に回って思いっきり叫んでやるんだからっ!

 ……でも、壁を通り抜ける時って、なんだか気持ち悪いのよね。なんというか、全身がゾワゾワするのよ。だけど、あの女を怖がらせるためにも我慢しないとね。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 私の予想通り、扉の方をずっと見てるわっ。もう午後になっているっていうのに、なんでまだベッドの上にいるのかしら? きっとお寝坊さんなのね。さてと、背後に回って最後の電話をしてやろっと。


 プルルルルルル……、ピッ。


「も、もしもし?」


「私、メリーさん」


「いつまで扉の前にいるつもりなの? 鍵は掛かってないから入ってきなよ」


「いま、あなたの後ろにいるの」


「……えっ?」


 今、体をビクッてさせたわねっ! ちゃんと見てるんだから。ふふっ、早く、こっちを振り向きなさい。……きたっ、今よ!


「ワァーーーーッッ!!」


「うひゃあっ!?」


「驚いたわね? 今、驚いたわよねっ!? やったーーっ! 大成功よっ!!」


「び、ビックリしたぁ……。君、いったいどこから入ってきたの?」


「うふふっ、それは秘密よ」


 はあ~っ、初めて成功したわっ! とっても嬉しいっ! さてと、それじゃあもうここには用はないわね。すごく満足したし、帰ろっと。


「ね、ねえ君、何しにこの部屋まで来たの?」


「あんたを驚かしに来ただけよ。もう帰るわっ」


「えっ? そ、それだけ!? 他に用は何も無いの?」


「無いわっ、本当にそれだけよ」


「ええ~……。じゃ、じゃあさ……。私とお話でも、しない?」


「お話?」


「うん。私ね、生まれつき身体が弱くてずっとベッドの上で寝ているから暇なんだ。ねえ、いいでしょ? お願い!」


 う~ん、用は済んで私も暇になっちゃったし……、相手をしてやろうかしらね。それにしてもこの女、やけに馴れ馴れしいわね。まあいいわっ、暇潰しにもう少しだけここにいよっと。

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