第20話 長所と短所

報道陣の壁を大石が何事も無いかのように突破し、それを深川が追い、先に行ったはずの大石がその先の道が分からず、しれっと深川を前に行かせたりしながら、3階の入口から、学会の発表の場である第一講演場に入り、空いている席を大石がめざとく見つけるとすぐに腰を落ち着けた。


講演場は、2階部分にステージがあり、その前に400席ほどが用意されている。もっとも、2階席には研究者や記者しか座ることはできないため、無関係、というわけでは無いにしろ、この二人は完全自由席となっている3階席に座るしかなかった。とはいえもちろん、直接ステージも十分見れるし、ステージを映した映像が見られる画面が一人一台前についているので、ステージが見ずらいということはほとんどない。


「うおお・・・なんかすげえ!かっけー!」


「なんでそんなにテンション高いんだ・・・」


「いやだってお前、なんか壁の飾りがほら!あとなんかステージすげえ!」


恐ろしいほどの語彙力の無さではある。とはいえ確かに壁の装飾は一流のデザイナーが考えたものだし、ステージには様々な機械が置かれていたりして、テンションが上がるのも当然といえた。


が、その高いテンションは深川の言葉を聞いた次の瞬間、地に落ちた。


「で・・・ベル博士達の発表は・・・1時間半後だな それまでは別の人達らしい」


大石の顔が歪む


「・・・は?」


「だから、ベル博士の発表は・・・」


「いや、それは分かった じゃあなんでこんな早く来たんだ?」


「そりゃあ途中で入ってこれないからだろ」


「・・・それまでは?」


「別の研究者の話を聞く」


「ユーモアあるかな?」


「まあ、無いだろうな」


「・・・帰っていいかな?」


「ダメだ 博士には二人で行くって言ってある」


「・・・急に風邪ひいたとか言っといてくれよ」


「流石にそんなの通じねえよ」


「やっぱりか・・・悪いがおれは100%寝る 頼むぞ」


「何をだよ?」


「ベル博士の発表始まったら起こしてくれ」


「・・・言っても無駄だとは思うが耐えろよ?


眠気に」


「そんなの無理だ 諦めてくれ」


「・・・まあ高校3年生で出た授業全部寝てた奴に期待はしてないが」


「よく覚えてたな じゃ、頼むぞ!」


そう言うと大石は力を抜き、もたれ掛かるようにした。



そして、その姿を見て深川がため息をついた頃、ステージ以外の明かりが少しずつ暗くなっていった。


必要最低限の明かりのみになり、全員がステージに注目する。


一人目がステージに立った頃、大石が寝息を立て始めた。

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