目覚め

第5話


首都 ランデルム。

帰ってきたこの街でいつもと違うことがある。

今回のこの夢は夢じゃない。

おそらくこの世界で死んだら現実世界でも死ぬということだ。

それは逆もまた然りだ。

現実世界で死んだら間違いなくこの世界にいる自分の肉体も死ぬ。

そんなふうなことを受け止め不意に考え込む。

自分の生きている意味ってなんなのだろうか。

ここに存在している意味とはなんなんだろうか。

それこそ自問自答に陥りそうな質問だ。

実際自問自答であるのだから。

例えば僕が明日この世を、現実世界を去ったとしたらいったいどれほどの人が涙して、どれほどの人が悲しんで、どれほどの人が辛い思いをするのだろうか。

そもそもそんな風に思ってくれる人間がいるのだろうか。

表向きにはそういう演技をしていても心の中ではせいせいしただとか、めんどくさいこと増やしやがってなんて思ってるんじゃないだろうか。

もし明日。

”この世界”から僕という存在が不意に姿を消したら。

それはそれは不意に。

それはまるで神隠しか何かのように。

”この世界”から姿を消したとしたら。

いったいどれだけの人間が僕の身元を探してくれるのだろうか。

いや、そもそも探そうと思ってくれるのかさえも少し危ういところではある。

気づかれないのではないだろうか。

こんな広い世界から僕一人がある日突然姿を消したところで誰も気づかないのではないだろうか。

例え気づいてもそのうち忘れてしまうのではないだろうか。

ただわかることは

つまり、この世界が夢の中であり現実世界になったということのなのである。



『この世界はもう君の作り上げた世界ではない』


去り際に謎の声が入っていたその言葉を思いだし、もうこの世界が本当の意味での自分の世界ではなくなってしまったことを思い知る。

自分が作った世界だけれど自分の管理下に進むことはない。

自分が管理していた世界ではなくなったのだろう。

簡単に言ってしまえば無双ができなくなったということなのだけれども。


なんの意味があるのだろう。

それでもなおこの世界にしがみつくのはなんでなのだろうか。

なぜ僕はこの世界でまで生きることにしがみついているのだろうか。


あぁ。


なぜ僕は生きようと思っているのだろうか。

どうせ必要とされなかった命のなのにも関わらず。




いや。


今こんなことを考えても意味ないか。

今僕は夢を見ているんだ。

いつも通りの夢の世界なんだ。

そう思い込むことで全て忘れようとして。

何もかもを諦めようとしたけれど結局すべて無駄だった。






くだらないことを考えながら歩いていれば、見慣れた街並みを少し奥に行ったところにある森のような場所が目の前に広がる。

そこは、僕がいつもドラゴンを倒してたり魔物と戦っていたこの世界に戻って来た際に食人の魔物と遭遇した場所ではない。

それとは違う。

もっと神聖な場所である。

空気は澄んでいて、森とはいえどもひらけた場所には草原が広がっている。

町からも少し離れた位置にあるため騒がしい喧騒もない。

ただ静かな空間がそこにはある。


その中央には大樹が生えていて。

自然なその空間をさらに神聖なものに見えるようにしている。

草花の甘く透き通るような匂いが鼻腔をくすぐり町にいる時とはまた違った香りに脳の中のもやもやとした疑念が晴れていくような感覚にとらわれる。

その感覚はとても心地が良くて。

大樹に近寄ればそこに座り込む。

少し疲れた。

死んだと思えば生きていて。

かと思えばもうリセットのきかない状況に放り込まれて。

それで疲弊しているところに追い討ちをかけるように問いかけられた自分が自分という存在である意味の問いかけ。

生きている意味の問いかけ。

流石に容量オーバーだ。

許容範囲を簡単に越している。

機械だったら容量オーバーでヒートしているレベルだ。

きっと変な音を立てて数秒後には黒い煙を吐き出していることだろう。


幸いにもここには人が滅多にこないし空気が空気のため魔物もわかない。

ゆっくりと休めるだろう。


頭の中が空っぽになっていくのを感じ取りながら僕は微睡みに身を任せたのであった。





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