パソヲタはパソヲタ的なスキルで異世界ライフします!

栢瀬千秋

第1話:三歳の誕生日

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 .........

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 Hello new world and new life. [Y/N?]

 $ user >Y_

 accept.


 welcome.......old friend.




 * * *


 微睡みの時。

 僕は自分が覚醒していることを理解していた。


 白い光の中。

 複数の気配を感じる。


 自分はどこにいるのだろう。

 この気配はなんだろう。


 そう思っても視力は戻らない。

 ただ、声が聞こえてきた。


「遂に来てくれたのう。待ちわびたぞ」

「ホントよね〜、お姉さん、しびれを切らしそうだったわ」

「テルセラ、まずは挨拶すべきだろう。見えてはおらぬと思うが、気配は感じておろう。この世界に君を引っ張ったのは我らだ」


 はい……?

 全く状況がつかめないのですが。


「む? もしや記憶が戻っておらんのか。おかしいな……こうか?」

「いえ、記憶は戻っておりますが……ここはどこでしょう?」

「おや、戻ってはいたか。さあ、君の質問に答えようか。ここは『神界』、神の集う世界である」


 なるほど、分からん。

 なんで神界なんかに呼ばれているんでしょうか。

 そんな意見は知らん! と言わんばかりに、男性……いや神の声がする。


「そして、我らは七柱神。我が名はセグントス。天地神である。君をこの世界に転生させたのは我らだ」


 なんか大物が出て来ちゃいました。

 そして、転生した……?


 =*= =*= =*=


 世界暦1000年。


 イシュタリア王国。

 世界第二位の面積を持つ半島国家であり、北端を「魔の森」、北西から南にかけて海に接しており、南東を「フラメル帝国」、残りの東側を「セプティア聖教国」と接する君主制国家。


 なにより、エルフやドワーフなどの亜人や、人狼族や猫人族などの獣人も積極的に受け入れ、多種多様な民族を含む国家である。

 そして、どの国もそうだが、「七柱神」と呼ばれる神々を奉じる「セプティア聖教」を国教とする。


 さて、この世界の歴史は千年ほど前から始まるとされている。

 かつて存在した「旧世界」が崩壊し、あらゆる知識や文化が一度滅び、生き残った一部の人間により再建されたのがこの世界。


 「旧世界」についてはお伽噺として知られているが、非常に高度な文化を持っており、今とは比べられないほどレベルの高い世界だったようだ。

 それは時に見つかる遺跡や古文書、様々な道具から分かる。


 今の世界は旧世界には及ばないものの、ある力によってそれなりに文化は改善されてきた。

 それは、「魔法」である。


 旧世界でも存在し、その文化を飛躍的に高めたとされる能力。

 体内だけでなく万物に存在する魔素や魔力を用い、超自然現象を発動させる術。

 無論これを扱えるようになるには訓練、そして一定の年齢に達していなければいけない。


 だが、何よりも適性がなければ扱えない。

 魔力は持っていても、適性がなければ「魔法使い」になれないのだ。


 そしてこの適性は、基本的に血筋が影響する。

 そのため、魔法使いの血を取り入れる事に尽力した貴族の血筋は、少なからず魔法使いが生まれる。


 魔法の適性があれば、どの職業でも優遇される。

 適性によって、将来が左右されるとまで言われるのだ。


 この話は、そんな世界にある、とある王国に生まれた一人の男の子の物語である。


 =*= =*= =*=


 ・イシュタリア王国・ライプニッツ領都「エクレシア・エトワール」


「起きてください」


 さて俺は、レオンハルト・フォン・ライプニッツという名前である。

 名前に「フォン」と含まれる時点でお気づきだろう。貴族家の一員である。


 今何をしているかって? 寝ているに決まっているだろう。まだ眠いんだ。


「起きてくださいってば」


 この覚醒と微睡みの狭間は本当に気持ちが良い。

 まったく、こんな素晴らしい状況を邪魔するなんて無粋な……


「早く起きてくださいってば! ご両親にいつも言われているでしょう、『早く起きなさい!』って!」


 ………やれやれ。

 そろそろ起きてやるか。


「……おはよう、ミリィ。なんともこころにひびくこえだね」

「はい、おはようございますレオン様。さ、お顔を洗ってから着替えますよ」


 彼女の名前はミリアリア。愛称ミリィだ。今年十歳になる少女だ。

 彼女は我が家のメイドの中で最も若く、物心ついたころからお世話になっている娘である。


 フリル付きのメイド服を着ており,ぽわぽわの栗色の髪の毛は彼女のトロンとした垂れ目と相まって,柔らかな印象を与える。さっき大声で起こしてきたのは柔らかさの欠片もなかったが。


 顔を洗い終わると、ミリィが洋服を準備してくれている。


「さ、今日はお誕生日ですよ〜。旦那様なんて、『まだか!? まだ起きてこないのか!?』って5分おきに言われるんですから……言われるこっちの身にもなってくださいよ……」


 俺の父……というか両親は所謂「親馬鹿」である。

 そのため、仕える側としては苦労もあるのだろう。


「それはわるかったね」

「なんですかもう……。……?なんかレオン様、話し方変わってません?」

「そうかな?」

「うーん、なんというか……大人びた? あ、それじゃあんまり変わらないか」

「おい」


 確かにこんな年齢・・・・・でしっかり喋り、応対できる子供は少ない。

 そのため「年齢詐称」やら言われてきた。

 まあ、これには両親の教育と、そして自身の秘密があるからだ。

 

 それは置いておいて。

 くだらない話をしながらも手際よく着替えさせてくれるミリィは優秀なのだろう。

 この年齢にして良く出来る子だ。


「さあ、整いましたね? 行きますよ」

「ああ」


 そう言って二人で部屋を出て、階下の食堂に向かった。


 * * *


 食堂まで降りると、家族全員が揃っていた。


「すみませんちちうえ。おそくなりました」

「うむ、待っていたぞ」


 すでに家長である父が食堂にいたので、深く頭を垂れて詫びた。


 上座に座る二十代後半くらいの美丈夫。

 艶のある黒髪。眼光鋭く、切れ長で宝石のような深い紺色の目を持つ。

 長身で鍛えられた身体は、一見すると細身だが、隙なく鍛え上げられたものである。

 クールで知性的でありながら、武人と分かる鋭さを持ち、かつ少しの危険な香りを漂わせる男性。

 それが父であるジークフリード・フォン・ライプニッツ。ライプニッツ家の当主である。


 席に着こうとすると、ふとその父が席を立ち、近づいてくる。

 正直、普通の子どもであれば泣き出すだろう。


 コツ……コツ……という足音が目の前まで到達し、僕を見下ろす紺色の瞳が細められる。


「……」

「……」


 静寂と共に少しの時間が流れる。と、


「よしよし、レオン起きたか! おはよう! 相変わらず可愛いなぁ。どうした? お前が寝坊するなんて。何があった? 体調が優れないのか!? それなら寝室に抱っこして連れて行ってやるぞ!」


 猛烈な勢いで頬ずりされたかと思うと、いわゆる「たかいたかい」をされる。擦れた頬が摩擦で熱い。


「い、いえ、だいじょうぶです。だいじょうぶですから……」

「そうか? それならいい。さあ、席に着きなさい」


 この切り替えの早さは本当に素晴らしい。

 さて、父以外からの視線も感じるので挨拶をしておこう。


「ははうえ。そしてハリーおにいさまとセルティおねえさまも。おまたせしてすみません」

「おはようレオン♪ 今日も可愛いわね、よく眠れたかしらん?」

「はい、ありがとうございます」


 母であるヒルデは明るいブロンドの髪にエメラルドのような瞳という美人であり、その中にお茶目な––悪戯好きのような雰囲気を持っている。


 さて、両親の「可愛い」という言葉は甚だ不本意ながら、それを否定できないのが自分の姿である。


 「鴉の濡れ羽色」とでも言うほど黒い髪と、宝石のような青緑の瞳。

 父親譲りの顔立ちに、母親譲りの目元。可愛いと言われても仕方ないだろう。

 そんな事を思っていると、さらに声がかかる。


「やあ、おはようレオン。待っていたよ。お誕生日おめでとう」

「おにいさまもおはようございます」


 兄であるハリーはダークブロンドの髪と、母に似た緑の瞳。

 爽やかさとインテリのような雰囲気を併せ持つイケメンである。年齢は俺の五つ上である。


「母上もハリーも甘いのよ。おはよレオン、まったく……あなたのせいで食べるのが遅くなったじゃないのよ」

「セルティねえさまもすみません。がまんできないおねえさまにはつらかったですね」

「あんですってぇ!」


 姉であるセルティック、愛称セルティは三個上。

 青と緑のオッドアイで、ブルネットの髪をツインテールにしており、猫目なのでいかにもテンプレなツンデレである。


 これが俺の家族。

 そして、


「さ、レオン様。こちらがスープでございます。火傷せぬようご注意くださいませ」


 そう言って横に立ち、配膳をするのがマシュー・ハーツホーン。

 当家の執事長であり、何代にもわたってうちに仕えてくれている一族である。

 年齢によるシルバーグレーの髪は毛の一本すら乱れのないオールバックにされており、それが金縁のモノクルと相まって老練さを際立たせている。


 すべての料理が整えられ、父が口を開く。


「では、七柱神にこの糧への感謝を捧げ、この日に祝福があらんことを願う」


 この言葉と共に、朝食が始まる。


 * * *


 朝食を楽しんだ後、皆で紅茶を楽しむ。

 この世界でも紅茶というのはあり、特に貴族の間では重視される。

 お茶会という社交場の名目にもなる。紅茶について造詣が深ければ、教養や家の格が高いことを意味する。


 そのようなわけで、うちでもよく紅茶が出、そしてその種類も様々である。

 今日のは特に、これまでにない香りを漂わせていた。


「これはどうしたんだい、マシュー?」


 父がマシューに尋ねる。


「この紅茶はコールマン商会が扱いだした物とのことです。王家の皆様にも評判が良いようですぞ」


 そうマシューが語る。

 この都市を拠点とする商会であるコールマン商会。

 そこが新しく扱いだしたらしい紅茶は、所謂「フレーバーティー」のようなもの。

 これまでにない香りが良く、そして王家にも評判が良いらしい。


「さすがマシューのえらんだこうちゃだね」

「おや、レオン様もお分かりくださいますか。嬉しい限りですな」

「そりゃね。だってたんじょうびだしさ。せいちょうもするよ?」

「おお、おお。そうですなぁ。今日でちょうど三歳になられましたからな……」


 そう。

 今日、俺は三歳・・になったのだ。

 それにしては心の声は大人びてるって? 

 そりゃあ、ねえ…… 


「ふむ……急に成長されたような……まるで、『中の人が変わった』ようですな、ほほ」


 マシューはふと思い浮かんだ事を口の中で呟き、「何を馬鹿なことを」と思いながら軽く首を振って忘れることにした。


「ん? どうしたのマシュー?」

「いえいえ、詮無いことでございます」


 マシューが軽く首を振ったのが見えたので聞いたが、何でもないとのこと。

 それを聞きながら、先ほどの続きを心の中で述べる。



 ––––転生者なんだから。


 =*= =*= =*=


 レオンハルト・フォン・ライプニッツこと「俺」は、かつて地球で生きていた。

 

 かつての名前は思い出せない。

 ただ、普通の会社員として三十歳目前まで普通に生活していたことは覚えている。


 といっても、彼女がいるわけではなく。

 学生時代が工業系、特に情報系だった故に「オタク」と呼ばれ、そして自分自身それを受け入れていた。

 だからこそ、彼女を作るつもりもなく、休みにゲームとラノベを楽しむのが趣味だった。

 

 そんなある日。

 休みを目前にして会社から帰っているときに、どうも事故に遭って死んでしまったらしい。

 「らしい」というのもいまいち覚えていないからだ。ただ、何かぶつかったという記憶がある。


 だがそんな中でも覚えていることがあって。

 夢かもしれないのだが、それは女性の顔。


 紅の、燃えるような髪。

 サファイアのように美しい瞳。

 哀しげでありながら、どこか嬉しそうな顔。


 これまでのどの記憶にもない女性の美しい顔がかつての自分・・・・・・を思い起こす、唯一の手がかりだった。


 そのようなわけで、ちょうど三歳の誕生日と共に思い出した前世の記憶を持って、俺はこの世界を生きていこうと心に誓ったのだった。


 ……まあ、「テンプレキター!」と喜んだのも事実なのだが。

 しばらくは子供らしく「成長」することにしよう。


 =*= =*= =*=


「さて、レオンよ」

「はい、ちちうえ」


 朝食が終わり、父であるジークフリードから呼ばれる。


「お前も三歳になった。そろそろ色々学ぶのも良いと思ってな。どんなことを知りたい?」

「ちょっとジーク。いきなり『どんなことを知りたい?』って、無理矢理過ぎるわよん」


 母であるヒルデが父を諫める。

 誕生日ということもあって、今後の教育方針についての話らしい。

 ふむ……何を学ぶか……


「例えばねレオン? 魔法とかどうかしらん?」

「いやいや、やはり剣だろう。騎士になりたいとか、どうだ?」


 両親そろって聞いてくる。


「レオンなら頭良いから、政治とか歴史とかそういうのはどうかな?」

「別に何でも良いじゃない。ま、まぁ、ダンスなら? ……仕方ないからあたしがパートナーしてあげるけど」


 一緒にいるハリーやセルティも話に加わる。


「なりませぬぞ。レオン様にはまず礼儀作法に始まり、自分の立場や家の歴史、他の貴族との接し方、交渉の仕方などあらゆる知識を早めに与えるべきです!」


 マシューまで話に加わる。

 というか、ミリィはどこに行った?


「ミリアリアは片付けでございます」


 マシュー、アンタはエスパーか。


「とにかく決めるのはレオンだ。もちろん難しければ私が決めよう」

「これはお母さんが決めるのが筋よ」

「いやいや、僕が」

「あたし関係ないし……でもどうしてもって言うなら考えてあげるわ!」

「不肖私めが」


 はっきり言おう。


「みんな、じぶんのすきなことをさせたいんでしょ?」

「「「「「…………」」」」」


 そっぽ向きやがった。


「とにかく、まずはもじをしりたいです。そして、ライプニッツについて。あとはまほうも、けんも、れいぎも、すべて」

「「「「「なるほど、分かった!」」」」」


 そのようなわけで、俺はこの世界で生きるための知識を得ることになるのだった。

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