零と友里恵 妹②
「兄ちゃん兄ちゃん」
大月家には
「どうした、友里恵」
「今日はあたしとごはん作ろ!!」
「……突然どうしたんだ」
「昨日!!」
ずびしっとこちらを指さしながら告げる友里恵。
「めぐねぇと二人で料理してたね」
「してたな」
「だからだよ!」
「いや、わからん」
「だーかーらぁ!昨日めぐねぇと一緒に料理してたでしょ!だからあたしなの!!」
机をバンバンたたきながら不満を露わにしている。
「だから今日は友里恵なのか」
「そうだよ、順番」
胸を張って答える友里恵。なんだろうか。この漂う残念な雰囲気は。
「でもお前料理できたっけ」
「3分クッキングならできるね」
「カップ麺だろそれ……」
「最近は3分じゃなくて5分とかも多くなってきたよね」
「そういえばそうだな」
「……」
「…………」
「いいの!!昨日はめぐねぇだったから次はあたしなの!!」
まあ、ただ張り合いたいだけなのだろう。家ではよくあることだ。
「それじゃあ、何作るか」
「そーめん」
「は?」
「そーめんがいいね」
麺類が好きなのだろうか。いや、零も好きなのだが。
「じゃあ、取り敢えずそうめんゆでるとして、トッピングは梅干しと……」
「違うぜ兄ちゃん」
何やら真面目な顔をして肩にぽん、と手を置いてきた。
「流しそーめんをするんだよ」
ぐっとサムズアップする友里恵。キラキラと目が輝いている。
「……どうやって」
「ふっふっふ……」
一体何がそんなに面白いのか。まさかそーめんだけで満足出来るというのだろうか。
「ちょっと待ってて!兄ちゃん」
言って、自室がある二階に行ってしまった。しばらくして、ドタドタと階段を降りる音が聞こえそして―――
「じゃーーん!!」
降りてきた友里恵が手に持っていたのはなんか子どもの頃によく見た『お風呂で遊ぶおもちゃ!!お湯を入れて列車を走らせよう!!』みたいな感じの代物だった。
「……なにそれ」
「流しそーめん機!」
「まさかの」
そんなものがあるのか。全自動卵割り機みたいなかんじだろうか。こちらに近づき、零の隣にぴったりと座る友里恵。この距離感はいつものことなので大して焦りはしないのだが。年頃の乙女として白ワンピ+ノーブラはいかがなものか。もう少し恥じらいを持ってほしいものだが。
「これで、流しそーめんをやろう!」
「いや、いいけども。そんなもの一体どこで手に入れたんだ!?」
「前に兄ちゃんのクラスメイトがインタビューに来たじゃん」
「……それがどうかしたのか?」
「そのときにもらった」
「なんで?」
「お礼だっていってくれた」
この前何やらくだらないインタビューに来たときに置いていったものらしい。あいつとは今度きっちり話をつけよう……ていうか何で流しそうめん機……友人の謎の感性に呆れる零だった。
「えっと、じゃあそれが夕飯ってことで良いのか?」
「ん?違うよ兄ちゃん。これはおやつ」
「おやつ!?」
「うん!ちょっとしたものだからね~」
そう言ってミニ流しそうめんの準備を始める友里恵。そうめんがおやつって中々新しいんじゃないだろうか。麺をゆで終わり(勿論零がだが)、流しそうめん機に水を流し(これも零がやった)、いつでもそうめんを流せるようになった。
「それじゃあ、流すよー」
「え、ちょっ」
慌てて箸を構える。なんとかキャッチできた。危なっ。
「兄ちゃん兄ちゃん」
そのまま自分の口に運ぼうとすると横からクイクイッと服の袖を引っ張られた。
「ん?」
「あーん」
……その口は何だろうか。
横を見るとひな鳥のように口を開けている友里恵がいた。
「食べさせろと?」
「ん!」
うなずくと再び口を開ける友里恵。開いた口からは健康的な白い歯が見える。
「えっと……」
「……」
食べさせてくださいモードの友里恵。全く口を閉じる気配がない。
「はぁ……」
諦めた。降参である。麺を持ったまま友里恵の口に運び、
「あむっ」
ちゅるん、と麺が消えていく。
「じゃ、次は俺が……」
「あーん」
……ほう。どうやら俺には一本もよこすつもりはないらしい。いつの間にか麺が入っているざるまで確保されてしまっている。
「しゃあないなぁ」
兄はいつだって
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