第3話 世界の確認

「なあ、しっかりしろって!」


 うずくまるアルベールの背中をさすって10分は経っただろうか。

 呼吸も落ち着いてきたアルベールはゆっくりと起き上がった。


「心配かけてしまいましたね……ありがとうございます」


 まだ顔色がよくない。少し無理しているのだろう。


「しばらくゆっくりしてろよ。えっとベッドは俺のじゃでかすぎるし……」


「ああ、そんな大丈夫ですよ。お気になさらず」


「病人を放置できないって。冬だし温かいやつじゃないと寒いし、そうだ。いいものがある」


 光は立ち上がりクローゼットを開けて探す。冬ならば必要になるアイテムを探し始めるとあっさりと見つけることができた。


「あったよ、これならふかふかだし寒くはないと思う」


 光が取り出したのはネイビーの単色のマフラーだった。そろそろ使おうか悩んでいたためすぐに見つかった。マフラーをアルベールの前に置く。


「ありがとう。あなたはやはり優しい人だ」


 マフラーに手を触れたアルベールは顔色がよくなったようにも見えた。

 アルベールはせっせとマフラーの形を整えている。それを光は優しい目で見ていた。


「光君、明日の準備はよろしいのですか?明日も学校でしょう?」


「大丈夫だよ、明日もいつも通り。ただ学校に行って帰ってくるだけ。何も変わらないよ」


「そうなんですね。すみません、お世話になってしまって」


「気にしないでよ。ゆっくり休んで」


「お言葉に甘えさせていただきますね」


 そういってアルベールはマフラーのベッドへ潜って目をつぶった。

 それを見た光は起こさないようにと机から離れ、自分のベッドに横になった。そこでスマホの謎のアプリを確認する。




 アプリの名前は『world battle』。

 名前はシンプルだった。アルベールの世界が絡むバトルということだろう。アプリをスタートさせると誰もいない玉座の画面になった。

 画面下のメニューボタンを押すと様々な項目がでてきた。その中に国の様子を見るというのがあったので押してみる。

 すると城下町なのだろうか。にぎわっている街並みが映った。画面に触れることで視点を変えたり、移動したりすることができた。どうやら夜みたいだが、露店が出ているので買い物をしているもの、テラスで食事をするもの、男女で踊っているものなど様々な人がいる。やっていることは様々だが、人々はみんな笑顔であることは変わらなかった。

 この国がアルベールが治める国なのだろう。人々が皆笑顔だ。アルベールの言う通り、笑顔あふれる国だ。

 移動を繰り返して国の見学をしているうちに時間は過ぎていく。


 メニュー画面から今度は経済を押してみる。

 すると表示されたのは幸福度、他国信頼度、国民支持率など様々な項目が確認できるようだ。

 幸福度は80%、他国との関係はよいのかゲージが半分以上埋まっている。支持率も95%と高い。それほどアルベールはいい王として奮闘していたのだろう。


 マップからは世界地図を確認できた。アルベールの国は他の国より小さいようである。それでも幸せな国を維持しているのだからすごいと感じる。

 アプリをいじっているうちに夜は過ぎていき、いつの間にか光は眠ってしまった。





 ――光君……起きてください。


 名前を呼ばれて重たい瞼をこする。うっすら開いた視界には昨日会ったアルベールが逆さに映った。


「朝ですよ。そろそろ起きないと遅刻してしまいます」


 光の額に乗っているようで、逆さに見える。

 枕元の時計を確認するとまだ朝の6時前であった。


「まだ早いって……6時にもなってないじゃない……」


 そう言って毛布を頭までかぶろうとすると、髪の毛を思いっきり引っ張られた。


「昨日はそのまま眠ってしまわれたようではないですか!体も洗って準備をしたら丁度よい時間になります!」


 昨日はアプリで色々やっているうちに寝てしまった。制服のままで寝てしまい、お風呂にも入っていなければ、制服はしわくちゃだ。

 アルベールの言うことにはっとした光は布団をめくる。


「ね?制服も一度綺麗にしないと」


「そうだった……風呂入らないと」


 冷たい空気が体を突き抜ける。

 ブルッと震えてたが、体を起こして立ち上がった。


「アルベールも風呂入るか?着替えとかあったかな……」


「そんな……そこまでお世話になるわけには……」


「いいから気にすんな」


 半分寝ぼけている光は強引にアルベールを掴み、自分の着替えを持って浴室を目指した。




「さぶすぎるっ……」


 吐く息は白くなる中、脱衣所で震えた。寒さのおかげでだんだん目が覚めてきた。


「アルベールも脱いで。服も一緒に風呂場で洗っちゃうから」


「はい……」


 光はいつも通り淡々と服を脱いでいくが、アルベールは何か渋っている。


「そんな嫌だったらいいよ、ここで待ってて」


 無理強いする訳にもいかないため、アルベールに促した。しかしアルベールは首を横に振って服を脱ぎ始めた。


「いえ!嫌というより、誰かとお風呂に入るということがないので緊張してしまって……」


「俺も修学旅行以来だよ。ほら、寒いけど行くよ」


 光は浴室に入るなりシャワーの温度を確かめる。アルベールは脱いだ服を持って浴室へ向かった。


「洗面器にお湯張ればアルベール用の浴槽できるね。熱すぎたら言って。大丈夫だと思うけど」


 アルベールは洗面器の中手を入れ温度を確認するとほどよい温度だった。浴槽の縁に服を置いてお湯の中へ入り込んだ。芯から冷えた体を温める。


「光君はお湯へ入らないのですか?」


「もう栓を抜かれてるから入りたくても入れないんだ。夜入るよ」


「僕ばかりすみません……」


「謝ることじゃないだろ?頭でも洗え。ほら、手を出して」


 シャンプーのポンプを持ってアルベールの手に出そうとするが、加減がわからない。とりあえず軽く押してみた。


「うわぁぁ!これどうしたらいいですか!?」


「出し過ぎたか。それで頭髪の毛を洗って」


 光を見ながら髪の毛を洗うアルベール。量が多かったせいか、全身を洗うことができたようだ。


「ひ、光君……何だか苦いです……」


 髪の毛を洗い終え、顔、体と洗っていた光が泡が山盛りになっていることに気がついた。慌ててシャワーを当てると、脱力したアルベールの姿が確認できた。


「悪い、気がつかなくて」


「いえ、おかげで助かりました」


 全身を洗い終えた光は石鹸を使ってアルベールの服を洗う。小さな赤茶色のズボンに赤色のタートルネック、紺の靴下まである。うっかり排水溝へ流さないように気をつけながら一つ一つ洗った。その間アルベールはお風呂を楽しんでいるのか、鼻歌を歌っていた。



 

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