第27話 羽毛布団爆発事件とヘルプ

 夏休みも終わりになる頃、工場長から電話があった。快活で剛胆な工場長にしては慌てているので、どうしたのか訊いたところ、


「お客様からお預かりした羽毛布団の糸が切れて、中身が飛び散ったのよ」


 とのことだった。


 わたしは、羽毛布団がポンッと破裂して、中から鳥の羽が工場中に舞い散る様子を想像した。


「それって……もうどうにもできないですよね?」


 まさか詰め直すわけにもいかないだろう。


「うん、マネージャーに連絡したら、弁償するしかないって」


「分かりました。こちらから、お客様にご連絡差し上げておきます。どういうわけなのか訊かれたら、どうお答えすればいいですか?」


「うーん……長いことやってるけど、何しろ、初めてのケースだから……糸が弱っていたとしか……」


 工場長に言われたとおり説明すると、客もまさか自分の預けたものが爆発するとは思っていなかったのだろう、驚いたようだったが、


「そんなこともあるんですね」


 と、それほど思い入れがある布団ではなかったのか、穏やかな対応をしてくれて、助かった。わたしは、カタログを見て弁償の布団を選んでもらいたい旨、伝えて、時間があるときに来店していただきたいことをお話しすると、すぐに来ると言う。


「じゃあ、これにします」


 30代の後半くらいの、電話口の対応と同じく、品の良さそうな女性は、カタログの中から、最も安いものを選んだ。遠慮しているのだろうか、と思ったけれど、そういうわけではなくて、


「以前のものに似ていますので、これで結構です」


 ということだった。


 その日の夕方、集配の人から驚くべきニュースがもたされた。


「南店に、客の車が突っ込んだみたいだね」


 うちの会社の独立型の店舗の一つに、高齢者の運転する車が突っ込んで、玄関の自動ドアを大破して、カウンターまで迫ったということだった。


「お客様や、働いていた方は無事だったんですか?」


 それこそ、不幸中の幸いということで、そのとき客はおらず、従業員も、カウンターの奥に引っ込んでいて、事なきを得たらしい。


「はっきりとしたことは分からないけど、まあ、例の、ブレーキとアクセルを間違えたってヤツだろうなあ」


 当然に、その店舗は使えないわけで、これから改装工事に入ることになるらしかった。そこに勤めていた人たちは、改装中、他の店舗に入ることになる。3日後、そのうちの一人が、うちの店舗に来ることになった。


 遠野さんと同じくらいの、20代前半くらいの彼女は、人当たりの良さそうな人ではあったけれど、いざ仕事になると、客が来ない隙にすぐにスマホを取り出し、ゲームを始めた。


「これ、めちゃめちゃ面白いんですよ! 一緒にやりません?」


 と誘われたわたしは、やるにしても勤務時間外にやるべきだろうと思ったけれど、わたしの方が年下で、かつ、この店のレギュラーの人間でもないので、注意することもできなかった。彼女は、一日中、スマホゲームをやり続けて、充実した一日を過ごしたようだったが、その隣にいさせられたわたしは、げんなりしてしまった。これが、店長や藤井さんや遠野さんや、あるいは原川さんだったら、コミュニケーションを取りながら仕事ができるのに、これでは、ロボットと仕事をしているのと同じだった。……まあ、ロボットと仕事したことはないのだが。


 もう一人、その店舗からヘルプで入ってきた人がいて、30代前半のその人はスマホをいじるようなことはしなかったが、口から出るほとんどの言葉が、


「なんで、この店こんなに忙しいの!?」


「こんなにやったって、お給料が変わるわけじゃないのに!」


「この店まで来たのに、ガソリン代変わらないって、おかしいでしょ!」


「ああ、疲れた!」


 と不満ばかりだったので、うんざりした。これなら、よっぽど、スマホゲームでもやっていてもらった方が楽だった。


 それもこれも欠員1の状態が続いているわけで、早く、レギュラーで誰か入れてもらいたいものだった。もちろん、その人が話しやすい人かどうか分からないけれど、それにしても、バラエティ豊かにいろんな人と絡むよりはマシだろう。

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